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「そこのドアは?」保呂草は雷田に尋ねた。
カーテンの手前の右側の壁にある、金属製のドアのことだ。二枚戸になっている。電車の乗り込み口か、エレベータの扉に類似したタイプである。
「いえ……、そこは、ちょっと……」雷田が顔をしかめ、急に言葉を濁した。
「何なの?」七夏がきいた。
「困ったなぁ。そこは、秘密なんですよ」雷田が苦笑する。
「秘密って、そりゃまた、ストレートな」保呂草は微笑む。「そう言われると、返す言葉もありませんね」
「今すぐ開けて下さい」七夏が冷たく言った。(page 241)
講談社文庫版で読了。
山奥の超音波研究所での party に招待された瀬在丸紅子と小鳥遊錬無。車の故障で帰れなくなった保呂草潤平と香具山紫子も、party の取材に来た TV 局の手伝いと称して party に潜り込む。しかし研究所に通じる唯一の橋が何者かに爆破され、さらに研究員の一人が絞殺されているのが発見される……。
館もの mystery。仮面の博士、外界と切り離された環境、首なし死体……と、割ときっちりした mystery になってます。キャラ的にはあまり動けてない感じですが、七夏と紅子の水面下の攻防が面白かったです。
Renny Harlin 監督作品、2001 年。
若手の race car driver として注目されつつあった Jimmy Bly (Kip Pardue) だが、精神的な脆さが災いして不調に陥り、前年度 champion の Beau Brandenburg (Til Schweiger) に差を付けられてしまう。team の owner である Carl Henry (Burt Reynolds) は隠居生活を送る元 champion の Joe Tanto (Sylvester Stallone) を team に復帰させる。再び走れることを喜ぶ Joe だが、Carl は Joe を Jimmy の教育係として呼んだに過ぎなかった。初めは不承不承という感じでその役割を引き受けた Joe だが、Jimmy の苦しむ姿に若かった頃の自分を見出し、Jimmy を人間的に強くさせようと惜しまず助言を与えるようになる……。
Stallone 脚本の若手育成物語ということで内容は推して知るべし。"Rocky V" とか "Over The Top" とかの「パパの背中はでっかいぜ」な、説教満開おっさん格好付け映画に仕上がってます。今時こんな脚本でいいのか。いいのだ。Renny Harlin 監督作品に重厚な story telling なんぞ不要なのじゃ。Kip Pardue が若かりし頃の Bon Jovi に似てても良いのじゃ、driver が姉ちゃんの取り合いしてても良いのじゃ、話がダレそうになったらとりあえず clash させても良いのじゃ、race 中に逆走して team mate 助けに行っても良いのじゃ、hyper mode 始動が解り易過ぎても良いのじゃ、派手にぶっ飛ばしてスカーのウヒョーで無問題。はいはい好きにやってくださいな。
そんな感じで盛りだくさんな過剰演出 & 出てくる機会は多いが story と噛み合わない女性陣 & アンタ影薄いね Jimmy 君にもう勘弁してくださいと。まぁ街中 car chase は楽しめましたが。glass バリーンとか新聞ぶわーとか。あと音楽は BT が担当してますが、腐っても trance な音で、派手な映像とは上手く matching していた模様。まぁ、drive game 風と言ってしまえばそれまでですが……。
Herbie Hancock (p) と Chick Corea (p) の、piano duo による二枚組 live album。1977 年録音、Sony 盤。
pianist と言うより conceptualist といった印象のある Herbie Hancock、早弾きと latin flavor で目立ちたがる Chick Corea。この二人の共通点というと……相手に恵まれると能力値が倍増するってことでしょうか。jazz 界のパーマン理論を実証すべく二人で piano 並べて弾きまくるこの album、いやなかなか美味。互いに相手の技をパクりパクられじゃれ合いつつ、ある時は solo で豪快に振り切り、ある時は phrase を投げ合って面白がる。しかし基本的な style は楽曲第一で、お互いに piece を埋めながら美しい空中楼閣を組み上げるような丁寧さの感じられる演奏になってます。一歩踏み外せば馴れ合いに満ちた内輪受けな世界に堕しかねない雰囲気ですが、流石にこの二人、深い読み合いと即興での感応性で、jazz ならではの危うい緊張感を持続させながら壮大な音楽伽藍を構築していきます。CD2 tr.2 "Maiden Voyage" での空気の掴み方、続く tr.3 "La Fiesta" での相乗効果を上げながら高みへ登り詰める様が素晴らしい。
Mark Steven Johnson 監督作品、2003 年。
幼い頃の事故で盲目となった Matt Murdock (Ben Affleck) は、視力の代わりに他の感覚が超人的に発達し、昼は盲目の弁護士として、夜は正義の遂行者 Daredevil として活躍する日々を送っていた。ある日 Matt は、美しい女性 Elektra Natchios (Jennifer Garner) と出会い恋に落ちるが、彼女の父親は街を裏から牛耳る The Kingpin こと Wilson Fisk (Michael Clarke Duncan) の手下だった。Elektra の父親が裏切る素振りを見せ始めたことから、Fisk は殺し屋の Bullseye (Colin Farrell) を雇い、Elektra の一家を抹殺しようとする。Fisk らの手から Elektra を救おうと奮闘する Daredevil だが、Bullseye の攻撃により Elektra の父親は殺され、Elektra は Daredevil が父の敵だと誤解する……。
む、誉め所が無い(爆)。小生は Ben Affleck 苦手なんですが、あの体型でピチピチの衣装来て wire action してるのを見てるとますます嫌いになってしまうな。もう少し役者を選んだ方が良いと思われます。盲目の hero という素材も今一つ生かされてない、というかアレに比べりゃ気合いも凄みも足らんので「あぁ盲目なのふーんでもアメコミ映画っしょ?」という感じで普通に観られてしまうのでありました。
さりげなく出てくる新聞記者や神父も話の味付け以上の存在ではないし、Elektra vs Daredevil の愛憎渦巻く展開も意外とあっさり終了で拍子抜け。でもって中ボス倒して大ボス倒しておしまいでは単なるお仕事片付けましたな印象が残るのも仕方あるまい。やれやれ。
しかし全編暗めの色彩でまとめてるのはなかなか良好でした。まぁ、その時間で David Fincher の映画観た方が時間の使い方としては正しいと思いますが……。
Carroll Ballard 監督作品、1996 年。邦題「グース」。
母親を交通事故で亡くした 13 歳の Amy Alden (Anna Paquin) は、母との離婚で顔を合わせていなかった父親の Thomas Alden (Jeff Daniels) に引き取られ、Canada の農場で暮らすことになる。新しい環境に馴染めず孤独を抱えていた Amy だが、近所の森林開拓の影響で母鳥に見捨てられた goose の卵を発見、それを密かに暖めて遂に孵化に成功する。16 羽の goose は Amy を母親と思い込み、Amy の味気ない生活は急に活気付く。しかし goose は渡り鳥、Amy の後を付いて歩くばかりでは渡りに失敗して役所の手に渡ることになる。手作り飛行機で鳥人間するのが趣味の Thomas は一計を案じ、軽飛行機で goose を南へ渡らせようとする。しかし goose 達は Thomas の飛行機を追いかけない。業を煮やした Amy は、自ら軽飛行機を駆って goose 達を飛び立たせようとする……。
いや、よく撮ったなぁと。papa goose 号と mama goose 号、そしてその間を数珠繋ぎに飛翔する goose 達の映像に見取れてしまいます。数珠繋ぎ goose を真横からの angle で捉えたり、ビルの谷間を goose 連れで飛んだりで、見た目の impact は強烈。落ちこぼれ goose の mama goose 号体当たり事件もマジ撮りで、飲んでた beer 吹きそうになりましたぞ。動物は言うこときかんと思い込んでる小生の目にはこの映像だけで fantasy ですが、実話に基づいてると聞いて現実は尚更 fantasy やと思った次第。
泣かせ系の映画と思って観ると少し薄味かも。母を失った存在としての goose と Amy の類似性や、Amy が goose に渡りを教えるように、Amy 自身も父親の backup 無しで飛んでいくという展開から、子供の独り立ちを描いた映画と観ることができますが、それにしては Thomas と Amy の関係が表層をなぞる程度しか描かれてませんし、自然保護団体や州法で goose を飛べなくさせようとする役人といった鳥を巡る環境の話も付け足してたりするので、話の印象としては散漫な感じです。とはいえ、序盤から中盤にかけての Amy とよちよち歩き goose の交流から、やがて飛ぶ喜びを覚え、渡りでは危機また危機の連続ながら、様々な人から思わぬ助力を得て着実に目的地へと近付いていく……という展開には引き込まれるような面白さがあって楽しめます。Amy 達の last flight も、静謐な音楽と押さえた映像美で緩やかに盛り上げて、happy end へと持っていく。上手い作りです。goose と一緒にお話も軟着陸て感じで、大袈裟に泣かせに掛からず、ええ話やったなぁと思わせる程度に暖めてくれます。この映画は無理してないという点で成功と言えるのではないでしょか。
それにしても Anna Paquin、この人は自身の成長に合った良い役貰ってますね。"The Piano" の生意気小娘役とか、"Finding Forrester" の清純派女子高生役とか。この映画では、序盤の思春期娘らしい eccentric な振る舞いがなかなか似合ってました。あ、Jeff Daniels の頼れない親父振りも良好。こりゃ娘も成長するわけだ。
Joel Schumacher 監督作品、1999 年。
私立探偵の Tom Welles (Nicolas Cage) は、妻の Amy (Catherine Keener) と生まれて間もない娘を愛する男だった。ある日、Tom は大富豪の Christian 夫人 (Myra Carter) から夫の遺品である 8mm film にまつわる調査依頼を受ける。その film は一見 porno 仕立てだが、出演者の少女は覆面の男によって本当に切り刻まれているように見えたのだ。その film に映っている少女を探し出すこと、それが Tom への依頼だった。少ない手掛かりを元に Tom は調査を開始し、やがて行方不明者 list の中から目的の少女 Mary Ann Mathews (Jenny Powell) の file を見付け出す。Mary Ann の母親 Janet (Amy Morton) や Mary Ann の元恋人と接触した Tom は、彼女が Hollywood に行き女優になろうとしていた事を知る。Hollywood に赴いた Tom は、porno 本屋の店員 Max (Joaquin Phoenix) の助力を借りながら porno 業界の裏側を探る。やがて浮かび上がってきたのは、あの 8mm film が業界で cult 的な人気を誇る映像監督 Dino Velvet (Peter Stormare) の手によるものらしいということだった。Dino に映画製作を依頼し、その現場に同席することで手掛かりを得ようと Tom は動くが、しかし Tom の目論見は Dino に知られていた。そして Tom は、金と欲とが絡み合った事件の真実を知ることになる……。
平凡な男が porno film の謎を追ううちに命を狙われることになり、終いに切れて復讐代行人と化し、悪人は居なくなってめでたしめでたし、という映画。ネタバレですがまぁいいや。暗い淵を覗き込んでいるうちにいつの間にか深みに沈み込んでしまうようなお話ですが、脚本は "Se7en" で有名な Andrew Kevin Walker が手掛けていて納得。
中盤までは単なる thriller で、事件を追いながらも妻への電話を欠かさない Tom の愛妻振りに欠伸したり、裏 porno な店の如何にもな雰囲気にげんなりしたりしつつ観てましたが、Max が連中に殺され自らも命からがら逃げ出した辺りでやっとこ動きが出てきたなぁと。しかしその後の針の振れ方が凄い。Tom は家庭を愛し法を遵守する普通の男として描かれていて、この事件も手掛かり掴んで証人立てて悪人達を刑務所にぶち込んで解決、と考えていた節があるんですが、肝心の Christian 夫人は使えなくなり、少女の殺人を立証する証拠も見付かりそうにない……と、そこで Tom は自分以外に正義を成す者が居ないと知る。正義を成すには一線を越えねばならない、Tom は film の producer である Eddie Poole (James Gandolfini) を拘束し裁きを下そうとするが、法の内側で普通に生きる男に一線を越えることはできない。一旦は身を引いた Tom だが、徐に Janet に電話し、娘の死を伝える。そして彼女に、娘の代わりに正義を成す許可を求める。ここが一番怖いっす。娘の死を伝える時機は幾らでもあった筈なのに、何故その時に電話したのか。Tom は正義に踏み出せない自分を知っていて、その自分に蹴りを入れる方法にも薄々気付いていたのではないか。普通の男が異常な刺激に曝された挙げ句、正義の代行者として自らを追い詰める。そして成されたことは正義の名を借りた殺人だった。とはいえ、まだ理性を保っている Tom は自分の行為に恐怖するわけですが、最後の手紙で彼にも許しが与えられる……てのは都合良すぎじゃないですかね。ここはちゃんと刑務所でお務めを果たさないと次に続かないだろうが(笑)。
この映画の後味の悪さってのは、裏 porno の金と欲が素材にされているのも一因にあるでしょうが、普通の男が激憤に駆られて殺人を犯し、そしてやはり普通の男らしく妻に泣いて許しを請うという、嫌々ながらの heroism 映画にしている点が大きいでしょう。映画の嘘を逆手に取って身近に擦り寄せる、あざとい映画です。
大仰な楽曲に拘っていた頃の Rage の album、1998 年。
いやぁ、駄目ですね(爆)。取り上げる album の大半は誉め散らかす小生でもどうにもなりませんわ。まぁ orchestra が好きで大袈裟な曲が好きなのも解るんですが、そのために power metal たるべき something を失ってしまっている。2 曲の cover も何故 Rage が演るのか不明だし、original の楽曲も Sabbath パロみたいで新味なし。これじゃーただの metal じゃんか。って、Rage は metal な人達なのでこういう路線はアリなのか。ふーん。
この album を絶賛するような人は真性めたらーなのでしょうが小生にはただの演歌な album にしか聞こえんのです。そういう自分を再確認して安心できる反面教師な一枚と言えるでしょう。封印。