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New York の house legend、Timmy Regisford の本人名義初 album。2007 年発表。LLCD-1017。
deep house というと african という印象が昔からあるのですが、こりゃ多分 Joe Claussell "Language" の影響なんでしょうな。dance music は享楽のみにあらず、精神の高揚と感覚の共有が渦を成し、やがて深い祈りにも似た無我の境地に至り世界との融和を果たすとか何とか。魂の奥底を揺さぶるには原初の記憶に肉薄した音を掴み取らねば、ということで deep house に african な素材が持ってこられるのは自然の理なのでありましょう。
club shelter の主魁として猫も杓子も踊らせてきた職人 Timmy Regisford もまた、african な音への拘りは尋常でない様子。四つ打ちの house 様式はしっかりと keep しつつ、african な声ねた音ねたを畳み掛けて一気にあっちの世界へ引き摺り込んでいきます。全編とにかく気持ちええ。脇目もふらずにこの路線で邁進しておる様も男気に溢れております。暑いときに聴くとよけい暑くなる強力な作品でありました。
今堀恒雄 (g)、ナスノミツル (b)、佐野康夫 (dr) の trio による prog jazz band、Unbeltipo の 2007 年発表 album。KBS-DDCO-1010。
近くの塔盤屋で見掛けなかったので危うく見過ごすところでありました。しっかりしてくれよ塔盤屋。
前作に比べると band 色が強まっており、今堀恒雄の楽曲も辺境 avant 街道のみならず rock 色を心持ち前に押し出しているような雰囲気。とはいえ相変わらず変拍子ぶりばりで緩急自在の強烈な展開になっており、そしてその複雑怪奇な楽曲構成にも関わらずハイデフで非の打ち所がない鉄壁の ensemble を聴かせるってえ所がやっぱり Unbeltipo であります。やや理論先行で上滑りだった Tipographica 時代の遺産を引き継ぎつつ、より自然な形で肉体的な音へと昇華している Unbeltipo は、清く正しい進化を遂げていると言っていいでしょう。図太い bass がのたうち、手数多いのに軸がぶれない drums が前へ前へと突き進み、そこに emotional な guitar が周囲をなぎ倒しながら咆哮する。こういうの聴くと普通の jazz とか聴けなくなりますな。
DCPRG が行き詰まって停滞したのに対し、今堀恒雄は昨年の "Territory" といい今作といい、人跡未踏の荒野を突き進みまくり衰えを知らぬ勢いであります。この調子でどんぱか行ってください。
Jan Garbarek (ts, bs, fl)、Bobo Stenson (p, el-p)、Terje Rypdal (g)、Arild Andersen (b)、Jon Christensen (perc) の面々による 1971 年録音作品。ECM 1015 ですが小生保有は邦盤 POCJ-2805。
Jan Garbarek といえば小生の苦手とする笛吹きおじさまであります。John Coltrane に影響を受けて音楽家を志したそうですが、それが今や classical な癒し系のほほん jazz 筆頭になっているのだから世の中解りません。しかしその career 初期の album にして、当時の ECM 北欧支局の有望株を参集させて作られたこの作品にならば今より真っ当に jazz しておるのではなかろうか、と淡い期待を抱いていたのであります。
んがしかし、流石は将来の大器 Jan Garbarek 様、この頃から既に皆様の解毒剤的存在に収まっていたのでありました。Bobo Stenson も Terje Rypdal も前へ前へ出ようとしているのに、Jan Garbarek のボエェ節を前にしては儚い蟷螂之斧に成りさがるのであります。恐るべし Jan Garbarek、北欧のぬりかべとお呼びするに相応しい独特の存在感が悲しくもあり鬱陶しくもある。自身が吹かない時でさえのっぺりまったりな Garbarek 節で全体を統括。ううむ、是非とも Miles Davis と対決してほしいところです。ってもう手遅れか。
小生的には全然ぱっとしない系の北欧 jazz といった印象であります。
Eric Bress & J. Mackye Gruber 監督作品、2004 年。
Evan Treborn (Ashton Kutcher) は幼少の頃から記憶が一部飛ぶ症状があった。飛んでいる間は自分が何をしていたのか覚えていない。彼の父も同じ兆候があり、病院で闘病生活を送っていた。医師の進めで Evan は一日の出来事を日記に書く習慣を付ける。大学生になった Evan は記憶障害から立ち直ったかに見えたが、昔書いた日記を読み返したことでその記憶の隙間に立ち戻れることを知る。Evan は過去の過ちを正して皆が幸せになれる道を探すが……。
こりゃ "時かけ" ですな。洋の東西問わず同じこと考える人はいらっしゃるらしい。とはいえ、こちらの方が修正後の人生激変度が高いので何となく scale でかいように見えるところが Hollywood 流儀か。
この手の映画の作りとして、趣向をばらした後は場繋ぎな episode で振り回し、締めに過去世弄り回してもロクなことねーな等といった教訓話を持ってきてちゃんちゃんにするという傾向が認められますが、この映画もまたそういう仕組ですので、評価も安心して観られる & あまり新味ねーな、という感じであります。とはいえ、過去修正の後にわざわざ現在に戻って、鼻血吹き出しながら早回しの修正済み playback を受けるってのは面白かったですけどね。過去世行きを監獄脱出の手段にしてしまうってのも良い idea。締めも微妙に切なくて、途中のどたばたで軸足ぶれまくりではありますが観終ってみれば上質の love story なのでありました。
なかなかの良作。
Stanley Kubrick 監督作品、1975 年。
18 世紀、Ireland の小村に生まれた Redmond Barry (Ryan O'Neal) は、恋敵との決闘が元で村を飛び出し英軍に入隊する。仏軍との戦闘に駆り出され戦いに嫌気がさした Redmond は軍の密使と偽り脱走、故国を目指す。しかし途中で友軍の Prussia 軍に脱走を見抜かれ、今度は Prussia 軍の兵卒として働く。終戦後、Prussia の警察に入った Rddmond は、spy 容疑のある賭博師 The Chevalier de Balibari (Patrick Magee) の従者になりすまし彼の秘密を暴く任務につくが、Chevalier が Irish と知った Redmond は彼と結託し、西欧中を賭博師として渡り歩くことになる。その旅の途上、Redmond は貴婦人 Lady Lyndon (Marisa Berenson) の美しさに惚れ込み、彼女の夫が亡くなった後、Redmond と Lady Lyndon は結婚する。Lyndon 家の莫大な富を手に入れた Redmond は、その立場を強固にすべく、爵位を得るべく各界に働きかけるが……。
Barry Lyndon の一代記。長い。
18 世紀らしい舞台作りと美しい自然描写は Kubrick の完璧主義をそのまま写しているかの如し。しかし古典的な story 展開はこの監督にしては実に平凡にして解り易い。王道な歴史物を撮っておきたい時期だったのでしょう。とはいえ、お話としてはさほど印象に残らないですな……。
音楽は 18 世紀の classical music や Ireland 民謡など。The Chieftains も参加しとります。
出崎統監督作品、2004 年。
人形使いの国崎往人は、一人旅の途上で海岸沿いの町を訪れる。祭で日銭を稼ぐのが目的だったが、神尾観鈴という少女に出会い、彼女の field work に付き合わされる。町に伝わる翼人伝説の調査というのがその field work だった。昔、翼人の娘は母と引きはなされ幽閉の身となったが、警護役の衛者と恋仲になる。だが、恋人への思いを口にすると翼人の娘の命は絶えるのだという……。祭までまだ日があるということで、観鈴の家に居候することになった往人は、観鈴と、その母で酒豪の晴子との生活に馴染んでいく。だが次第に、往人は観鈴が実の母と死に別れており、また彼女が不治の病にかかっていることを知る……。
旅先で青年と少女が恋をして、しかし少女は悲劇に見舞われる、それをかつての翼人伝説と重ね合わせつつ進めていく風の映画であります。いやしかし内容薄くね? まぁ小生は原作未体験にして TV anime 版も知らないのでその辺との比較はできんのですが。
昔の少女漫画的なお約束が散りばめられた展開は流石に古さを感じさせ、出崎監督らしい止め絵も随所に挿入されてこれまた retro な雰囲気を醸し出しております。らのべ超入門では「らのべは少女漫画より 10 年遅れとる」とか言われてたように思いますが、美ゲもそういうことになりましょうか。この内容では泣くに泣けん。等と言ってるから老害と言われるのか。
個人的には凡作ですなぁ。あぁ、晴子さんが観鈴との距離の取り方に悩んでおる様はよく描けておったと思います。浴衣も編めるのに独り身とは勿体ない。ってそういう問題か。
Ireland の hardcore band、Therapy? の 2007 年発表 album。元は DL 販売だったものを CD 化したもので 2 枚組。Mercury Records の 9845719。
ここ数年は軸足確かに hardcore 道を邁進する THerapy? ですが、この album は彼らが BBC の radio 番組に出演した際の material 集であります。全体的に音源は古めで、debut 間もない 1991 年から、"Semi-Detached" を release した 1998 年までの音源となっております。
流石に studio 盤に比べると荒削りな演奏で、音質も決して良いとは言えませんが、初期 Therapy? の特徴といえるカキコキした人力 techno beat と、Andy Cairns の怨み節全開な絶叫泣きエモは如何なく発揮されております。"Nurse" の頃の session はやたらと bass の音がでかくて、これまた Therapy? らしい突進 groove の活性剤として貢献。
90 年代後半は Therapy? 黒歴史時代と個人的には思っておるのですが、全体通してみると意外と統一感のある sound になっていて楽しめます。guitar rock な band として筋通してるからかも知れませんが、やっぱ live だと小細工しない方がこの人達らしい豪快さが感じられて良いのです。
とはいえやはり個人的な highlight は "Troublegum" 時代の楽曲で、特に 94 年の rock show 音源は熱くてたまらんです。tr.2.1 "Brainsaw"、tr.2.2 "Trigger Inside"、tr.2.3 "Knives"、tr.2.4 "Isolation" と怒涛の展開で大満足。ちなみにこの時期の代表曲 "Screamager" は tr.1.12 に入ってます。他にも未発表曲 tr.2.7 "The Sweeney" の爽やか泣きメロ (笑) とか、98 年 evening session で初期作 tr.2.12 "Teethgrinder" を取り上げていたりと、興味深い音源が揃ってます。
Therapy? 好きな諸兄にはご満足頂ける一枚かと。
日本の electronica な人、Pola の 2003 年 debut ep。小生保有は 2007 年再発盤、Commune Disc の COM59。
Pola と言えば少女漫画系低血圧 electronica な人という印象がありますが、この debut ep では重度 Oval 病な音になっており、この人にもこんな時期があったのねと感慨しきりであります。とろにか道を志す者が一度は通らねばならぬ行程なのでしょう。Autechre まで行ってしまうともう後戻りはできんという Shoenberg 的心境に陥るのでしょうが、Oval はまだ人間的というか、非楽器的な音から emotion を掬いあげるような意図が垣間見える音作りになってましたので、Pola のこの音もまた将来の emotional 路線への布石として捉えることができるのではないでしょうか。
わざとらしい glitch が鬱陶しいのはこの手の electronica に感じる第一印象なのですが、それでいて妙に耳当たりが良くて爽やか路線な点が如何にも Pola な一枚。
ex-Led Zeppelin の vocalist、Robert Plant の solo album。2002 年発表。UICR1024。
2005 年の album "Mighty Rearranger" は小生的には大傑作でありましたが、そこで演奏していた band の The Strange Sensation の御披露目になったのがこの 2002 年作であります。全 11 曲中 6 曲が cover で、その合間に original songs が挟まれている構成ですが、一聴して cover と解るような代物ではなく、exotic な arrange でやたらと泥臭く tribal な groove を聴かせてますので、original も cover も違和感無く併存してます。Zeppelin は何を演っても Zeppelin な域に達しましたが、その頃の磁力には及ばないにしても、Plant 爺の磁力もここに来て再び強まってきたのだなぁと。
"Mighty Rearranger" ほどの充実感はありませんが、結成初作にして既に確固たる音像を打ち立てているのが解る作品であります。21 世紀になっても未だ 70 年代な古き巨人の作品でありますが、ここまでやってくれりゃあ文句なし。爺さままだまだ現役ですな。