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NY Punk の人 Lou Reed と、へびめた伝道師 Metallica の collaboration album。2011 年発表の 2CD。
正直小生は Lou Reed は理解できない。小生にとっての Lou Reed は映画 "Blue In The Face" でぐだぐだ言ってるおっさんという印象くらいしかなく、Velvets にしろ "Berlin" にしろとかく印象が薄いので音楽家としては真っ当に評価できない存在なのであります。そんな Lou Reed と Metallica の collabo ですが、楽曲は Metallica が担当、とはいえ世界観は先に歌詞を詰めていた Lou の独壇場、ということで Metallica な音像なのに楽曲は限り無く Lou の領域、という実に歪な世界となっております。
Metallica は楽曲固めてから album 出す type の band と思いますが、この album ではかなり即興的というか、Lou の poetory に沿う形での演奏が多めなので、あまり Metallica ぽい album ではありません。重低音を back に敷いての Lou の独壇場な趣。これはむしろ Velvets 信者に受ける系の album と思いますね。
集英社e文庫版で先日読了。
百年戦争最中の仏蘭西。ドゥ・ラ・フルト家の私生児ピエールは、本家が敗戦で散り散りになった後、傭兵隊「アンジューの一角獣」の若き隊長として暴虐三昧していた。あるとき彼は物々しい小隊をとっつかまえ、そこにいた丸顔の小娘を押し倒そうとしたが、彼女は神に与えられた大望を成し国を救うまでは純潔を保たねばならぬと言い張った。その大望とやらが成し遂げられた暁にはピエールに処女を捧げるとの約束を取り付けて彼女を解放したピエールは、以降人間が丸くなり、隊員の女連れを許容したり、自身は無闇に女漁りしなくなったり。やがてでかい戦があるとのことで戦場に赴いたピエールは、そこで男装の救国の乙女ラ・ピュセルを目にするが、彼女はピエールが以前手篭めにしようとした丸顔の小娘ジャンヌだった……。
ジャンヌ・ダルクを題材にした冒険小説であります。とはいえジャンヌの神性は「ジャンヌが演説したら後光が差しとるー」みたいな感じで読んでる間はほとほと実感が伴わんのですが舞台に乗ってる皆様は tension 上がってるようなのでそこは空気読みませう。それよかこのジャンヌが相当ぶっ飛んだ性格の持ち主で、軍が足踏み状態で気分が苛立っているときにピエールに声掛けられて「処女はあなたに捧げますから!」と言いはなって逆にピエールを赤面させたり、自軍劣勢と見ると矢が雨霰と降り注ぐ中でも単身突撃してピエールの手を焼かせたりと、後先考えぬ脳筋な神の御遣いとして描かれております。でもってピエールは荒くれ傭兵とはいえ小隊の leader、戦術は弟格のジャンを便りにし、金銭面はそろばん弾きに長けたトマに任せ、自身は女の涙に弱いながらも部下思いな隊長さんとして描かれております。この上巻では史実に基づいてのオルレアン解放戦やシャルル7世の即位などが描かれており、シャルルの即位と共に神の声を聞けなくなったジャンヌはそれでもなお icon として前線に立とうとし、彼女と傭兵隊を測りに掛けて結局傭兵隊を取ったピエールはジャンヌを見捨てて帰郷、以前略奪した村の用心棒に収まるという展開になりますが、その中にもシャルル陣営を牛耳る貴族の腐臭や傭兵隊という扱いの悲嘆、そして元貴族が生計を立てる為の艱難辛苦が描かれており、充分面白い小説に仕上がっておりました。
集英社e文庫版で先日読了。
村の守備隊長に収まっていたピエールは毎日酒浸りで自分を見失いかけていた。そんな中、彼を訪れた貴族はジャンヌがアングル軍に囚われているとの知らせを齎す。ジャンヌ救出の命を受けたピエールは、単身ジャンヌが囚われているルーアンに潜入し、火あぶりに掛けられる予定の彼女を身代わりを立てることで回避して救出に成功する。だが危険な帰郷の道程で立ち寄ったジル・ドゥ・レの城で、ジャンヌとピエールはおぞましい光景を目の当たりにする……。
まさかのジャンヌ生存ルート。流石にこの辺のジャンヌ救出のくだりは強引で、修道士に偽装したピエールを前にして裁判官の妾がすぽんぽーんしてたり、声の出なくなる薬 (謎) で偽装がばれなかったりと、まぁ小生は通勤中の電車で身悶えしながら読んでいたわけですが、史実とエロは表裏一体という主張がないと佐藤賢一じゃないよねーと、ここは大目に見るのが正しい読み方です。ジャンヌ生存ルート確立後は流石に fiction な趣に傾きますが、この作品を踏まえて Fate/Zero を見ると、まぁああいう展開もありかのぅと思わされたりもします。最近は梶浦さんの anime soundtrack って単品では見かけませんね。そういう話はさておき。
村娘ジャンヌが何でまた救国の乙女と祭り上げられ尚且つ成果も上げてしまったか、その背景に傭兵ピエールを置き、かの村娘に手を出すは己の余命を短くする恐れがあるとの風評でジャンヌの神憑性を際立たせるというのは、この小説に関して言えば大いに説得力のある話であります。国母様まで持ち出してその節を補強するのは貴種流離譚にしても行きすぎじゃねーかと突っ込みたくもなりますが、まぁ fiction ですから jump 漫画的な行きすぎも大いに結構。多分に男視点なジャンヌ像に見えなくもありませんが、聖女と言われつつも生臭い女性観を示すこの作品のジャンヌもといジャネット像は、なかなかに奇抜な発想ではないかと思われます。最後まで面白い冒険活劇でありました。
detroit の house producer である Kevin Saunderson と、vocalist の Paris Grey による unit、Inner City の CD 2 枚組 best 盤。2012 年発表。
detroit techno 界隈では最も成功した人物のひとりであるところの Kevin Saunderson さんですが、80 年代の安くて煌びやかな音像が席巻する時代に match するような pop で electro な楽曲をぽいぽい放った事がその成功の一端を担ったことは間違いありますまい。今の耳で聞くとあまりにべたで軽い pop な house が全 31 曲分展開されますが、instant music だった頃の house の残香が横溢するこの音像は、むしろ生真面目な house 以上に house ぽかったりもします。こういう album が 1000 円弱で買えてしまう、ってところもまた搾取音楽たるところの house らしい値段設定と考えていいんだろうか。まぁ、旧譜を法外な premiere 価格で揃えるよりは健全ではありますが。
Australia の blues band である The Hoochie Coochie Men が、Jon Lord 全面参加の元で作った album。2007 年発表。
Jon Lord と言えば Deep Purple の keyboardist として有名な方ですが、Zepp 派の小生は Purple ってロクに聴いたことがないのです。なので個人的には Jon Lord といえばこの album でやたらと scale のでかい hammond organ 演奏をしておる白髭のおっさん、という印象があります。
modern な blues rock 界隈では hammond が入るとオトナ度が上がるというか、Georgie Fame 的なちょい悪おっさんの色気出し用の音みたいな扱われ方が多いように思いますが、この album では Jon Lord の hammond はがんがん前に出て骨太な存在感を見せつけています。guitar があまり前に出てこないから、ってのもありますが、hammond だからって地味渋とかいうんじゃねえという主張がひしひしと伝わってきます。この辺は流石に hard rock 界隈で揉まれた hammond 弾きらしい逞しさでしょうか。guest vocalist として Ian Gillan も参加してますが、相変わらず high tone 大好きですねこの人は。全体としては hard rock 寄りな blues で、hook はそれほどないけれど良く出来た album と思います。
今堀恒雄(g)、ナスノミツル(b)、佐野康夫(ds) による Unbeltipo の 2011 年作。
相変わらずの変態 prog rock 路線で、横溢する変拍子に鉄壁の ensemble で、およそ音楽を志す者であればこの音を前にして絶望する以外の vision は浮かばんわけですが、従来にも増して live 感が感じられるところがまた絶望比率を押し上げる要因となっております。かっちりした rhythm 隊の演奏に支えられながら、minimal な riff を何層も組み合わせて prog rock な展開で押し通す、というのが Unbeltipo な展開なわけですが、間奏部での今堀恒雄の guitar がやたらと格好良すぎて prog rock であることすら忘れかねない感じ。個々の楽曲が練りこまれている感じはありませんが、それがまた即物的な improvisation の呼び水にもなっているようで、結局この band はこういう形が一番性に合っているのでしょう。技巧派 rock の最前線を垣間見た思いであります。