Noisy Days in July, 2011

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2011.07.11 (Mon)

野阿 梓 『伯林星列 (下)』

 徳間文庫版で先日読了。上巻の続き。
 男娼としての能力を開発された操青は、政治の道具として様々な相手と交わりつつ、自らの欲望にも抗えぬ性質を自覚し始める。ミューラーに一杯食わされて迂闊に動けぬ黒澄は、操青の身を案じつつ独逸やソ連の特務達の動きを窺う。一方、大陸では北一輝と石原莞爾が対米・対ソ戦争回避のために暗躍する。やがてベルリンオリンピックが開幕し、虚栄に満ちたナチの祭典の最中、操青は自身の行く末についての決断を迫られる……。

 えろいです 801 です、という側面はさておいても歴史改変ものとして興味深く読める作品であります。
 2.26 が成功していたらば、という if の持つ意味は結構深くて、北一輝が政治の中枢に居座ることにより日本の帝国主義的な側面が抑えられ、対米戦争回避の方向に国策の舵が切られる。となれば歴史の舵取りは軍部や政治家のような表の世界の住人ではなく、各国で暗躍する密偵の領分となり、地下水脈で蠢く者達の騙し合いが表の勝負を左右する、という微妙な状況になるわけです。地下を塒にする者どもの志向といえばひねくれてしまうのは道理、表と裏の顔を使い分ける政治家や軍人も同じ穴の狢、というわけで操青君もいいように使われてアヘアヘしてしまうわけですが、本人はそういう境遇にどっぷり浸かってまんざらでもない様子。つかそうなるように調教されてしまってるので最早本人の意思なのか躾の結果なのかよく解りませんね。
 野阿梓の作品を読み解くには支配/非支配の関係性を注視する必要があるわけですが、日本におけるその関係性の根本を天皇制に求めた結果があの怪作『バベルの薫り』とするなら、この『伯林星列』ではナチスの本質がヒトラーを中心とした支配体制にあり、その system は根本的に天皇制のそれと同類である、という主張がこの作品の通奏低音といて鳴り響いている、と解釈することが可能でしょう。まぁ徹頭徹尾 SF だった『バベルの薫り』と比すならば、歴史の枷を課せられた『伯林星列』の方がそのテーゼを打ち出しにくいという側面はあるものの、被虐奴隷と化した操青の状況をその minimal な縮図に据えつつ、黒澄の右往左往によって独逸やソ連や英国の動向を垣間見させることで、その表明についてはある程度の成果が上げられているようにも思えます。この時期の鉄火場とも言えるスペイン内戦についての状況分析とか上手い見せ方してますよ。まぁ私は奴隷生活満喫な操青君よりゲシュタポの走狗と化したイルザ姐さんの今後の方が心配なわけですが。
 作者によれば『伯林星列』は次作 (本編) への prologue な位置付けらしいので、今後の展開にも期待なのであります。それにしても相変わらず野阿梓の文章は美しい。幸せな読書体験でありました。

log modified: 2011/07/12 00:54:42 JST

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