|
Paul McGuigan 監督作品、2006 年。邦題「ラッキーナンバー 7」。
不運続きの若者 Slevin Kelevra (Josh Hartnett) は、友人 Nick Fisher (Sam Jaeger) を頼って N.Y. に出てくるが、Nick の部屋はもぬけの殻。部屋の隣人 Lindsey (Lucy Liu) は Slevin からあらましを聞き、探偵気取りで Nick の行方を探ろうとする。一方 Slevin は Nick と間違われて黒人の悪漢二人にとっ捕まり、街の gang の頭領 The Boss (Morgan Freeman) の前に引き出される。Nick は The Boss に金を貸していたらしい。Nick と間違われている Slevin に The Boss は「Jewish gang の頭領 The Rabbi (Ben Kingsley) の息子を殺せば借金は無かったことにする」と提案される。The Boss の息子は先日 The Rabbi の一派に殺されており、The Boss は復讐の機を伺っていた。返事を留保して一旦 Nick の部屋に戻ってきた Slevin だったが、今度は Jewish の悪漢二人に拉致られ、The Rabbi の前に引き出される。Nick は The Rabbi からも金を借りており、The Rabbi は Slevin に金を返すよう要求する。ほとほと弱った Slevin。だが二つの gang の後ろには、名うての殺し屋 Mr. Goodkat (Bruce Willis) の影があった……。
いろいろと都合良すぎる crime 映画。実は誰某の思惑通り、という展開にするなら、途中のわざとらしさはなるべく払拭しておかないと。素人が殺しを請け負って平然と姉ちゃん抱いてへらへらしてたり、復讐を果たすのにやたら回りくどい手を使ったりと、不自然さばかりが目立つ。良い役者揃えてるのにこの脚本ではねぇ。
Lucy Liu が意外とはまり役。天使隊なんぞよりこういう隣の姉ちゃんな役回りの方が映えるんではないですかねこの人。
Steven Spielberg 監督作品、1993 年。邦題「シンドラーのリスト」。
第二次大戦中の Poland。独逸軍の支配下に置かれた街に独逸人事業家の Oskar Schindler (Liam Neeson) がやってくる。彼はかの地で一儲けしようと考えており、軍部に取り入って経営不審の法臘工場を安値で買い取り、Jewish の会計士 Itzhak Stern (Ben Kingsley) を雇って経営再建に乗り出す。その際、人件費が安いという理由で Jewish を大勢雇い、経営は軌道に乗る。だが Nazi による Jewish 弾圧は日を追うごとに苛烈になり、Schindler は自分の従業員を守るため奔走することになる……。
Spielberg 監督による史実もの。こういう映画を観ると、この監督さんは realism の人やなぁと思いますな。Schindler 目線でない場面の描き方はあくまで淡々としているのですが、その淡々とした風情がむしろ怖い。Nazi による Jewish の ghetto 破壊や処刑場面も camera を寄せずに描写し、そのあまりの呆気なさに唖然とさせられます。特権的な死など何処にもないということを、死を特権化してきた映画の中で示すというこの怖さ。それを踏まえた上で、金儲けを企て女遊びにうつつを抜かしていた Oskar Schindler が、如何にして私財を投げ出してまで Jewish 救済のために尽力したかを考えると、出来事を淡々と突きつけるこうした演出に凄みが出てきます。共感を強いる作品は観客を洗脳しようとしているに過ぎない。観客が自ら何かを掴み取りに行かなければ、その何かは得られない。この映画の一種突き放したような状況描写は、そうした Spielberg の冷徹な映画観から出てきておるような気がしますな。
John Williams の score も秀逸。さんとらだけは大昔に買ってましたが本編観たのは今回が初めて。やっと宿題が片付いた思いであります。
Mel Gibson 監督作品、1995 年。
13 世紀の Scotland。England の国王 Edward I 世 (Patrick McGoohan) が冷酷な支配を続けるその地で、家族を England の兵に殺された平民の少年は、叔父に引き取られ各地を放浪して生きることになる。やがて故郷に戻ってきたかつての少年 William Wallace (Mel Gibson) は、小柄ながらも逞しい青年に成長していた。平和に生きることを望む Wallace は、幼馴染の Murron MacClannough (Catherine McCormack) と深く愛し合い、二人は密かに結婚する。だがある時 Murron は、England 兵に手篭めにされかけた際に抵抗したため殺される。怒った William は村に駐屯する England 兵を皆殺しにし、Scotland 独立のための抵抗軍を組織して England に戦いを挑む……。
熱い映画ですなぁ。恋人の復讐を契機に兵を起こし、やがて祖国の自由のために戦を仕掛けるという漢汁充分な歴史浪漫映画。「まず頭の使い方を覚えよ、次が剣だ」という叔父の教えはその後の William の行動で見事に生かされることになります。平民から騎士に格上げされても平民の自由を勝ち取るため戦うという視線は揺るがず、最後まで戦い抜いたその姿勢も天晴れ。合戦場面も迫力充分、それでいて England 側の動向や日和見な Scotland 貴族の思惑等も解りやすく描写しており、3 時間という長丁場を飽きずに観ることができます。まぁ、England 王子の嫁 Isabelle (Sophie Marceau) と William の romance は不要な気もしないではないですが、悲劇の英雄譚なのだからこれくらいは service のうちか。
James Horner の score も壮大で作品とよく合っておりました。
文春新書 596。先日読了。酒見賢一が中国の人物や思想について書いた essay 集。
やはりこの人は目の付け所が面白い。最初の「劉備」こそ普通に人物伝ですが、「関羽」の項では人物伝としての関羽ではなく、後世にやたらと神格化されていく関羽像を語り、「仙人」や「易的世界」といった存在有無が不確かな世界にも足を踏み入れます。かと思えば「孫子」と「李衛公問対」で軍事を語り、「中国拳法」と「王向斎」では中国拳法の俯瞰と気功についての雑感を示す、といった塩梅。
theme はとっちらかっているように見えますが、中国の文化・思想についての考察が多く、教えられることは多い。酒見小説の面白さは話の筋もさることながら、その世界の捉え方の独特さにもあるわけで、それにはこうした地道な中国思想探求が必要なのでしょう。小説の方も頑張って頂きたいものであります。
Joachim Roedelius と Dieter Moebius の unit、Cluster の 1972 年作。POCP-2385。
Krautrock 聴きてぇなぁと思っていたらばここの net radio に行き着いて、いざ聴いてみたらば Yes の "Close to The Edge" 全曲流れていたりで、それはそれで至福の時間ではありますが Yes まで Krautrock てのはどうよと。やっぱここは 70's の german electro rock を聴かねばならん。ということで久々に C の Cluster を引っ張り出して聴いております。
Cluster は同時代の Can や Kraftwerk に比べると beat への関心が極めて薄く、その分だけ空間的な音響処理と minimal な phrase の積み重ねによる無限回廊な世界観に特徴があります。それでも小生の頭の中にはまだ楽曲構成確かという印象がありましたが、そういう記憶は当てにならんもので、聴き直してみればひたすら音響、延々音響、ふわんふわんきゅわんきゅわんと音が鳴り続ける超絶快楽指向の音響でありました。ambient と言うにはあまりに歪で、遊星 X のモノノケ合唱曲のような趣きですが、この dark で trance な音響の海に溺れて道を踏み外すもまた一興。
german rock band、Can の 1973 年作。Holger Czukay (b)、Michael Karoli (g)、Jaki Liebezeit (ds)、Irmin Schmidt (key)、Damo Suzuki (vo) による演奏。
Can らしい beat への愛を感じさせつつ、全編に漂うゆるゆるした浮遊感が極楽浄土へと我々を誘う音楽であります。作り込まれている感じはなく、特定の phrase を元にしての free improvisation 的な面も大いにあるのですが、それでいて流れは自然、割り込む音への反応も無理がなく、結果として黄昏時の chill out 音楽として機能してしまう。恐るべし Can。20 分に及ぶ大作 tr.4 "Bel Air" も、その尺の長さを意識させぬ trip music でありました。
今敏監督作品、2006 年。
他人の夢に入り込むことのできる装置、DC ミニが何者かに奪われ、それを悪用したと思しき精神異常者の事件が発生する。女性精神医療士の千葉敦子は、DC ミニの製作者である時田浩作と共にその犯人を追う……。
anime で夢を表現する、ってえのは難しいのかもしれませんな。そもそも anime なので何が起こっても驚かない……等と思うのは観すぎて感覚が麻痺しておるからか。現実を夢が侵食するという展開も、現実が堅固でなければ違和感なく受け取ってしまう。悪夢の image がすちゃらかなのも興醒めですなぁ。
とはいえ映像化しただけでも大したもの。平沢進による音楽も無国籍な狂騒を上手く表現しておりました。
Richard Linklater 監督作品、2006 年。
麻薬捜査官の Bob Arctor (Keanu Reeves) は、Substance D と呼ばれる麻薬の出所を追って、身分を偽り drug junky の James Barris (Robert Downey Jr.) や Ernie Luckman (Woody Harrelson) との共同生活を行っていた。だが自らもまた当局の監視対象に置かれ、drug の服用による幻覚症状も進み、次第に自分を見失っていく……。
実写に digital painting を施す、rotoscope なる手法で撮られた映画であります。実写ぽくて anime ぽいということで微妙に気持ち悪いのぅ。
P.K. Dick 原作の映画でありますが、麻薬捜査官がヤク中になって現実感を喪失していくというだけのお話で、hero がどたばたしない分だけ実に Dick らしい映画とも言えます。とはいえそれを面白がれるかどうかというのはまた別の問題。drug movie というと小生は "Naked Lunch" を思い出しますが、"A Scanner Darkly" は幻想への振り切れ度合がまだまだ足りてない印象でありました。真面目に作りすぎて損しているような映画と言えるでしょう。
Joachim Roedelius と Dieter Moebius の二人からなる Cluster と、Brian Eno が collaborate して生まれた album。1977 年発表。小生保有は邦盤 PLCP-48。
既に Eno は "Discreet Music" を 1975 年に発表しておったわけで、ambient years への仕込みとして Cluster の二人に目を付けたのも慧眼と言えましょう。とはいえこの頃の Cluster は、そこはか叙情派の Roedelius が次第に前に出てきている頃合いでしたので、この Eno との collaboration にしても無味無臭 ambient というよりは、情景に水彩で色を刷くといった風情。ふわふわした音響の中に滲む叙情が美しい。
ambient と言うには若干灰汁が強い印象もありますが、こういうさりげない音もまた大事に生き延びてほしいのであります。