時々、名四国道を行き来する機会がある。ちょうど道路が四日市市の町にはいってゆく地点から臨む夕暮れの風景、これはちょっとしたものだ。薄暗い中空のあちこちに燃えているガスの赤い炎。たくさんのタンクやパイプで作り上げられた、林立する金属の巨大な塔。それらはまるで自ら白銀色の炎を放っているかのように輝きながら、どんよりした空を圧している。一種異様な迫力をもつ、非情な美しさである。一瞬私たちは、それが有名な石油工場群であるのも忘れ、どこか見知らぬ遊星の、未来建築を見ているような錯覚を起してしまう。だがまもなく私たちは、その白銀色の未来建築が低くヤミの中にはいつくばった一面の黒い層の上に築かれているのに気がついて、何か後ろめたい複雑なさびしさに襲われる。その黒いものは人々の住む家並なのだ。
空の明るさに比べ、家々は暗い。おびただしいススのようなものが、むっと暑い露路のスミにまで入りこみよどんでいる。とざされた窓の中で、人々はこの暑い夜をどのように過ごしているのだろう。今まで気づかなかった悪臭が不意に鼻をつく。そうだ、これがここの本当の風景なのだ。そしてこの風景の主人公はいったい人間なのか、それとも工場なのかと考えてしまう。もはや私にとっては、これは憂うつな風景でしかない。
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