|
vol 233:遺骨の欠片
寺に入ると、やたら破損している。
一体、ここで何があったんだろう。
柱には爪跡がくっきり残っていて、
弥勒菩薩の頭が切り取られていた。
寺と繋がっている家の方に行くと、
お師匠の身内の人が数名。
「こんにちわ。ここでお世話になっていた弥勒と申します。」
「あぁ、アンタが。」
お師匠の弟と言う人が俺の挨拶に答えた。
家に上がり遺体の寝かされた部屋に案内され、
布団に寝かされ顔に布をかけられたお師匠の横に座る。
布を取ると、お師匠の眠る顔は包帯で全て巻かれていて、
「これは・・・。」
「酷いもんだ。
顔の皮が剥ぎ取られておってなぁ。
警察も呼んだが、調査した人は皆倒れて。
1日で撤退しよったわ。」
「・・・そうですか。」
とてつもない苦痛だったろうに。
「あぁ、弥勒さん。
弟の机にアンタ宛ての手紙があったんじゃ。」
「俺あての・・・ですか?。」
手紙を受け取り、きっちり誰も読まないように、
閉じられた封を開けて読んだ。
弥勒へ
読みにくい字だろうが辛抱してくれ。
お前が寺で修業したいと頭を下げに来た時を、
いまだに昨日のように覚えている。
ワシはただの坊主。
教わるなら学校へ行けと言うワシに、
弥勒菩薩の元で自分で学びたいとお前は言うた。
ワシの身の周りから、
人々の為に動くお前は弥勒菩薩の生まれ変わりだと思った。
ワシはこのまま死ぬだろう。
お前の言いつけを守ったが時既に遅し。
あの者は腐った人間の皮を着た悪魔だ。
何故ここに現れたかは、
きっとお前に関係があるのではないかと思う。
ここに戻ったろうが、
直ぐに立ち去れ。
お前まで命を粗末に扱う必要はない。
退魔を離れ、生きろ。
お師匠の俺への最後の生きた言葉。
手紙の文字はよれて白い紙に血がたくさんついている。
闇の者は止めをささず、
わざと苦しむ為に生かしたんだろう。
「この寺はどうなるんでしょうか。」
「ワシら兄弟に坊主は弟だけで・・・、
この寺もこんな破損だしなぁ。
仏像も頭をとられておるし、どうもこうも。」
「そうですか。」
歴史あるこの寺。
しかし、どうせ、この先、審判で全てなくなってしまう。
「アンタで面会も最後じゃろうし、
夕刻にでも、焼いて墓にいれてもらうわ。」
身内の者も、とっととここから出て行きたい感じだった。
「あの、ひとつお願いがあるんですが。」
「なにかね。」
「焼いた後の骨の一部を少し俺にいただけませんか。」
「骨を?そんなもん、どうするんだ。」
「はい。俺にとってお師匠様はかけがえの無い方。
遺骨を持っておきたいのです。」
「そういうことなら、弟も喜ぶだろう。」
俺はお師匠の為にその場で経を唱えた。
霊体は居ない。
もうあの世に行ったんですか?
お師匠、俺は去りません。
もしも、ここで命落とすやもしれんのであれば、
惜しみなく、この命落としましょう。
ここで去れば、役目どころの問題じゃない。
お師匠?
俺の役目が終わったとき、
あの世で、酒を飲みましょう。
俺と飲んだことないでしょう。
直ぐなのか、まだ時間がかかるのか解らない。
でも、貴方が好きだった酒を俺は一緒に飲みたいです。
夕刻の焼き場も参道し、
約束通り、骨の欠片をもらった。
近所の店で小さな弥勒菩薩のお守りを買って、
そこに入れて紐をつけ、首にかけた。
貴方も俺の役目を共に見ていてください。
貴方は人として最高の人でした。
人の温もりも貴方に教わった。
お師匠、
俺は俺のせいで死んだにも関わらず、
俺の命を一番に考えてくれた想い、
その心の力で自分自身の弱さと戦います。
233 
|