vol 90:開けた道



俺の小説がアニメ化になる。
ただ、俺の経験を書いてただけやのに、
この小説に役割が付くとは思ってもせんかった。
東京は人・人・人。
時間帯もあるんやろうけど、
まぁ、見慣れん風景。

編集社のビルの窓からコーヒー飲みながら眺めてた。

「先生、お待たせしました。」

担当の村上さん。

「むーらーかーみーさぁーん。
その先生はやめて言うてるやぁん。」

俺は肘を着きながら向かいに座る村上さんに唇を尖らせ、

「まぁまぁ、本格的にデビューなんですよ?
先生と呼ばないと僕が上司から怒られますよ。」

「せやけど、小説自体、本もそないに売れんかったんちゃうん?
せやのに、なんでアニメ化?。」

俺の小説は女性向け雑誌に連載され、
1部単行本化した。

「それは、確かに売れ行きはそこそこ程度です。
実は、うちの社長が読まれたところ大変気に入っているようで。」

「社長さんが?。」

「えぇ。それにファンレターも増えてますし、
ネット上でもスピポジのファンサイトが出だしてますから。」

「ほんなら、今回のアニメ化は社長さんが、。」

村上さんと会話をしている最中に、
大柄なオヤジが村上さんの背後から笑顔で近づいてくるのに目が行き、

「村上、戌尾先生か?。」

低く貫禄のある声に村上さんは立ちあがり、

「しゃ、社長!
あ、はい、こちらが戌尾 柑先生です。」

村上さんが立ちあがるから、
俺も一応椅子から立って、

「いやぁ、お会い出来て光栄だ!。」

社長が太い手を差し出した。
俺は笑みを見せて手を出し、その手を掴み、

「どうも、戌尾です。」

「戌尾先生、こちらは社長の森田です。」

村上さんが紹介する。
やっぱ、社長って風格出るもんやなぁ。

「先生、あの本は実に昔を思い出させる。」

「えぇ。皆さん、事は違っても経験した事のある気持ちやと、
僕は思ってます。」

俺って大人ぁ~。

村上さんが椅子を引いて社長に座るよう勧める。
俺は手を離して社長が座るのを見てから、
村上さんの指示で椅子に腰かけた。

「森田社長、アニメ化の件なんですけど、
正直、僕は抵抗あるんです。」

俺は社長に話しを進めた。

「抵抗?どんな抵抗だ。」

「あれは全部が全部とは言いませんけど、
僕の体験談も入ってて、
主人公は僕なんです。
それを、僕じゃない人が演じるのが・・・、
きっと、僕の想いは僕にしか解らんと思うんです。」

自分を誰かが代弁するやなんて、
それが仕事の人には悪いけど、して欲しくない。

俺の言葉に社長は顔色変わる事無く、
あっさりと、

「だったら、君が自分で声をすればいいじゃないか。」

「は?。」

まさか、そう来るとは思ってへんかったから、
間抜けな返事をする。

「あの小説は文字の世界だけでは難しいところも存在する。
映像にすれば、それがまた伝わりやすくなる。
子供から大人まで幅も広がる。」

なんでこの社長が、こんなにも俺の本に力を入れるんか、
俺の言いたい内容を読み取れたんかが不思議で仕方ない。

「今日は、泊まりか?。」

「はい、先生には泊まりでいらしていただいてます。
ホテルの用意は既に終わっています。」

「ゆっくり飯でもどうだ?。」

社長とはもう少し話したいと思った。

「はい、じゃ、お願いします。」

そう返事をして19時に食事と約束をし、
それまでは東京見物で時間を潰す事になった。

大樹にメールで報告。

大樹から返事。

凄い事になってきたねって。

マジ、すごい事になってきた。

喫茶店で煙草を吸いながらボーっと過ごす。
東京見物言うても、どこに何があるんかも解らんし、
あんま興味なかったり。
でも、一人やないのは知ってる。

(おるんやろ?。)

(・・・ここまで来たなぁ。)

話しかけると返事と共に姿を現す霊。

(ニコニコさん!。)

(いつも見ていた。)

めちゃめちゃ久しぶりに見たのに、
ニコニコさんはいつも見てたって言う。

(なんで・・・そんなんやったら声掛けてくれたらええやん。)

(ハッハッハ。そうもいかんじゃろ。
わしが声を掛けてしまえばお前を甘やかしてしまう。
声をかけんのもどれ程辛いか。
お前が辛く闘っている時、
どれ程、声を掛けてやりたいか・・・。)

一番大好きな俺の神様。

(ニコニコさん。)

(なんだ?。)

(この流れも、神がかり?。)

(そうだ。お前の経験は人間にとって重要な事。
そして、神が言われたであろう?
最後の警告をする為の手段でもある。)

(うん。)

(世に出て、皆に伝え、尚且つ、
世の為にお前は行動をしなくてはならない。
だが、それもお前次第。
カンがやりたくなくなった時、
いつでも放棄は出来る。)

俺は笑みをこぼした。

(放棄はするつもりあらへんよ。
気持ちは昔のまんま。
俺はその為に降りてきた。
それに、ニコニコさんや神々のここまでの協力を、
無駄にはせん。
命かけても、俺のやるべき事を果たす。
それがどんなに些細な事であってもや。)

ニコニコさんは俺を一番誇りに思う大好きで大事やって言うてくれた。

さぁ、俺の歩く道が本格的に足を速めた。

待っとけよ、サタン。

お前との約束。

絶対に会ったる。

お互い人間の体で。














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