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vol 111:帰国の思い
長時間の飛行機の中で思い出す。
チーとジャンヌの顔を。
『それではお元気で。』
神父が別れを告げる。
『本当にお世話になりました。』
弥勒が別れを告げる。
俺らは日本に帰るからや。
『カーンッ!。』
「チー・・・。」
チーが両手を前に出してバランスを取りながら、
見えない目に映る俺の光に向かって歩き、
俺の腹に抱きついた。
『カン・・・いかないで?。』
「ごめん、俺にはお前の言葉が解らんねん。」
チーの小さな背中に触れてやる。
初めて見る強がりチーの不安に満ちた表情。
俺は無力。
『カン・・・おねがい。』
潰れた何もない目で俺を見上げる。
眉をめいっぱい垂らして。
後ろでジャンヌはただただ、その光景を無表情で見つめてる。
「弥勒・・・チーはなんていうてるん?。」
挨拶を終えて戻ってきた弥勒に問いかけた。
「・・・気をつけてってさ。」
弥勒は俺を気遣ったんや。
チーの言葉をそのまま告げられたら俺は・・・。
『チー?。』
『ミロク!。』
チーは俺から離れてしゃがんだ弥勒に抱きつき、
『いかないで?。』
同じ言葉を言う。
『チー、お前達を助ける為にも、俺達は行かなきゃならない。
時間はかかってしまうが、お前たちを必ず救う。
約束だ。
だから・・・それまで生きろ。
イエスは色は真っ赤だが、アイツが当分お前達を助けてくれる。
でも、いい奴だとは思うな。
信じるな。
自分をひたすら信じろ。
どんな事があって、どんなに責められようとも。
ジャンヌやみんなを支えてやってくれ。』
チーは静かに弥勒の話しを聞いてた。
『ジャンヌ。』
弥勒はジャンヌにも声をかけ、
声を出さずに口パクで、
(チーを頼んだ。)
『・・・。』
ジャンヌは小さく頷く。
サタンは俺に軽く手を上げて笑んだ。
1日仕事が出来へんかったから、帰りの飛行機ん中で、
パソコン広げて仕事する。
勿論ネットには繋がらへんから、小説へのネタとかを打ち込む。
でも、頭に浮かぶのは俺が見た光景。
テロの爆発に怪我をした子供達。
道行く異国の人々に、シスターの嘘、
イエスと名乗ったサタン、自分の行いを信じているジム神父、
そして、ラドゥンの笑顔と、
目が少し開いたままの死に顔。
「はぁ・・・。」
「デケー溜息だな。」
隣で雑誌を読んでいる弥勒が反応する。
「・・・。」
言葉なんか出ん。
「カン・・・お前の本にアフガニスタンの話しを書けよ。」
「は?。」
「お前があの国に行ってなかったら知らなかった事を、
あの国に行ってない多くの人間に知らせるんだ。」
「いや、でも俺は小説で・・・。」
「その小説はお前の体験記みたいなもんだろ?
そのうち、お前の本は世界中に広まる。
意味の解る者だけにしか解らない、
大切な本になる。」
俺の中でも整理つかん事を書けっちゅーんか?。
でも・・・整理をつけたら・・・、
「そうだ。本当の事が書けなくなる。」
俺は日本に着くまで、ひたすら自分が見たこと、
感じたこと、泣いたこと、矛盾をパソコンの中に残した。
上陸のアナウンスにパソコンの電源を落とす。
日本に着くとまだ朝。
アフガニスタンを出た時も朝やった。
空港のロビーで、
「カーン!弥勒ー!。」
懐かしくて、一番聞きたかった声。
俺は荷物を置いたまま声も出さずに走り出し、
大樹に飛びつくように抱きついた。
「わっ!。」
勢いに後ろによろけながらも抱きしめて、
「おかえり・・・カン。
御苦労さま。」
大樹は強く抱きしめてくれた。
なんやろ、この感情。
悔しくて、
悔しくて。
「うわー!。」
大声で泣いた。
場所もクソも今の俺にはない。
「ちょっ、カン?!。」
「・・・マジかよ。」
弥勒は呆れたように俺の荷物を持っては、
大泣きする俺に他人のフリをする。
「どーしたの?カンぅ~?
カ~ン!。」
なんでか大樹も泣き出した。
「おい、シロ。お前どうにかしろよ。」
人間の姿で現れたシロは、
弥勒の隣で同じく他人のフリをしてる。
誰も見えへんのに。
(我にも無理だ。
他の霊が見ていたら恥ずかしくて仕方がない。)
そんなシロに弥勒は笑い、
「同感。」
俺と大樹は二人でみんなの視線を浴びる中、
ワンワンと泣いた、
久々に感じる日本や。
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