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vol 22: 嫉妬の弱さ
俺は高校教師の織田大樹。
父が赴任していた高校に父が辞めると共に赴任した。
この学校には父が気にかけている生徒がいる。
戌尾 柑。
関西弁で男なのに可愛くすら見える。
性格も明るい活発な男の子だ。
でも、人と違うところがある。
カンは霊が見え霊の声が聞こえるということ。
それは時に生活の妨げにもなる状況におちいるらしい。
家に良く来ていたこともあって、すぐに仲良くなった。
そして今、俺も霊が見えるようになった。
昨日のカンの様子がおかしく感じた俺は、蛇神のシロに偵察を頼んだ。
1夜明けて、シロはまだ帰って来ない。
昼休みの屋上に行くとカンを見つけた。
「カン!」
俺は笑顔を溢してカンに駆け寄る。
「大樹。」
俺の名前を呼ぶカンは笑顔を返すも、頬がこけて目の下にクマが出来ていた。
「カン、その顔・・・酷いよ。」
「は?いきなり、なん?俺の顔ヒドイって失礼やなぁ大樹。」
カンは俺を睨みだした。
どう見ても、俺の知っているカンじゃない。
「ごめん。ご飯食べてる?」
俺の問いかけにカンは怠るそうに両膝を曲げてしゃがみ、
「あー・・・最近なんや食欲ないねん。」
「そう。ねぇ、シロ・・・見なかった?」
偵察に行ったシロの事を聞いてみた。
「シロ?知らんで?なんで。」
不思議そうに聞いてくる。
「いや、きのうから見ないから聞いただけだよ。」
「ふーん。シロかて、ずーっと金魚のフンみたいにお前に、
くっついてられんやろ。」
「そうだね。今日さ、うちに来る?」
家に誘ってみる。
「やめとくわ。」
カンはその言葉のみを言って屋上を出て行った。
俺は霊は見えるようになったけど、声は聞こえないし、
全ての霊が見えるわけでもないかも知れない。
でも、カンの普通じゃない事は確かに解る。
シロ・・・。
シロが心配で堪らない。
きっと、何かあったんだ。
俺は学校を定時の18時に終わらせてもらい、カンの家に向かった。
外から家を見る。
近所の人達に見られると不審者に思われるのも困るので、
どうしようかと考えていると裏からカンの声がした。
「リュカ、こんでええん?」
「リュカ・・・リュカ・・・」
リュカ?誰だろう。
名前からして生きている人間じゃないことは想像がつく。
門を開けて、そっと裏に回った。
カンは自宅の庭裏のゴミ置き場にしゃがんでいる。
手を動かして何かしているみたいだ。
「カン?」
俺は声をかけてみた。
するとカンは俺の方に振り向き、目を細めて信じられない言葉を発した。
「・・・お前、誰や。」
冗談に捉えたかったが・・・その顔は冗談を言う顔でもなく、
「何言ってるんだよ・・・カン。」
そして、予想もしない出来事を目の当たりにする。
立ちあがって振り向くカンの手にはグッタリしたシロが握られていた。
「し、シロ!」
俺はシロを呼ぶも、シロは反応を見せない。
「・・・うん。そうみたいやな。」
カンは俺には見えない何かと話をしているみたいだ。
そして俺にシロを向け、
「お前がコイツを俺に仕向けたんか?」
偵察の事か?
「なぁ、俺がこんなんにやられる思たん?」
カンはとても嫌な笑みを見せてシロの体を絞める。
「や、やめろ!カン!なんだよ。何があったんだよ?」
「俺の名前なんで知ってるんや?なれなれしい呼ばんといてや?」
カンは両手でシロを掴み捩るようにシロの体を左右逆に回す。
俺はカッとなり、カンに駆け寄ってシロを助けようとした。
「っつ!」
するとカンの前に白い狼が牙を剥き出しにして俺とカンの前に立ち憚る。
なんだコイツ。寒気がする。
「リュカ。こんな奴、俺自分で殴れるって。」
狼の頭を撫でるカンは、生気を失っているかのように顔色は青褪めていた。
狼はカンに顔を向けて何か話ている。
俺には声は聞こえない。
どうすればいい?・・・そうだ。
俺は懸けに出た。
両手をパンっと大きく叩き、目を閉じた。
カンはその音にビクっと肩を跳ねさせ狼はグルルと唸っているかのように、
体制を低くして威嚇する。
「我は・・・蛇神なり。我の元に来たりて力を見せよ。
我は蛇神!我の元に来たりて我の思いを叶えよっ!」
俺の体から無数の蛇達が狼に牙を向けて駆け走る。
まるで弓矢のごとく。
「リュカ!」
狼は体から何かを発して飛び掛かる蛇達を跳ね返すも、
数の多い蛇が体中に群がる。
カンはシロを落として狼を助けようと群がる蛇に手を伸ばした。
俺は今だと、カンに駆け寄りカンを抱きしめる。
「は、離せ!」
そう言って俺の腕に噛み付き、俺を睨む目は狼と同じ目をしている。
痛みが走るも、俺はカンを離さなかった。
離したら・・・カンがどこかに消えてしまいそうに感じたから。
カンは俺の腕に噛み付いて離そうとしない。
狼は群がる蛇に体を左右に振り暴れている。
俺は小さく耳元で話しかけた。
「カン?俺の事、本当に知らないの?
俺はカンといつも一緒にいるのに。
カン・・・寂しいこと言わないでよ。戻っておいで?」
俺がカンに話している事に気付いたか、狼が群がる蛇の隙間から目を光らせ、
俺とカンに牙を剥き出し飛びついて来た。
俺はカンを守る為に体制を逆に向けて狼に背を向け片手をカンの頭に回し、
強く抱きしめる。
狼は俺の肩に噛み付き牙を皮膚に埋め込んだ。
その時、地面に横になっていたシロがカンの腕に噛み付き、
(カン!目を覚ませ!どアホぅがぁぁあああああ!)
シロの体は白い光を放ち、その光に狼は体から吹き飛ばされ、
地面に叩きつけられた。
「シロっ!」
カンを抱きながらカンに噛み付くシロに俺は安堵の笑みを溢す。
ひらがな表がないからシロの声は聞こえない。
噛みつかれたカンは怯えて暴れだすも、
シロの光に呆然としている。
狼が地面で蛇に群がられながら弱弱しい顔をカンに向けていた。
(クゥーン、クゥーン)
カンは狼に眉尻下げ悲しそうに手を伸ばす。
「リュカ!リュカっ!」
(カン、カン・・・助ケテ。痛イ。苦シイ。)
「リュカ、待っててな?俺が助けたるさかいに。」
その光景は痛々しいものの、俺にはカンの方が大切で、
シロは体を徐々に透明にさせてカンの体の中へと消えていった。
俺はニコニコさんへの罪悪感や、
大樹とシロの関係に嫉妬してる自分の事に人間のクズやと思う。
もうニコニコさんの前に顔も見せられへん。
ニコニコさんも、きっと俺ん事嫌いになる。
大樹やシロに偉そうに教えたりしてたのに・・・。
「お前、何してんだ?」
俺の中に白い小さな蛇がいる。
誰だか解らない。
「誰や?」
解らんけど、知ってる気がする。
「おいおい。冗談は口の悪さだけにしとけよ。」
なんやコイツの態度。むかつ・・・シロ。
「シロ・・・。」
名前を思い出した瞬間に、走馬灯のように大樹やシロの事を全てを思い出す。
「忘れんな。大事な仲間を。」
「カン、カン!」
大樹に何度も名前を呼ばれて正気に戻った。
「大樹・・・。」
大樹を見て名前を呼ぶと、大樹は泣きそうな笑顔を向けて俺を抱きしめる。
苦しいっちゅーねん。
(カン、苦シイ。苦シイ。)
リュカが俺に助けを求める。
地面に横たわるシロ。
俺は全てを思い出した。
リュカと出会ってから、織田家からも人間からも離れてリュカとずっと、
一緒におった。楽しくて堪らんくて。
せやけど、1回夜中に目覚ました時、リュカが俺の体に乗って、
俺の上から見てたんや。
その顔は牙剥き出しにして涎垂らして・・・、
まるで獲物を捕えて今から食うみたいな。
咄嗟に起きた俺にリュカは表情を人懐っこい犬みたいに変えて、
俺の顔を舐めた。
霊を感じへん現実から逃げたような日々。
昨日の夜にリュカが俺に言うてきた。
(カン。悪魔来タ。カン危ナイ。危ナイ。)
「悪魔?リュカ。」
そう言うもリュカの目を見ていたら気がおかしくなってしもうた。
実際は蛇のシロやったのに、俺にはシロが牙だらけの怪物に見えたんや。
リュカの言うままに、シロを捕まえた。
リュカはシロには触れようとせん。
「カン、仲間。カン友達。助ケテ。」
何もかも思い出した俺は大樹に体を離させて、シロを抱きあげた。
「なぁ、シロ。コイツ、何もんや。」
シロはゆっくり目を開けて、
(アイツこそ悪魔。人を惑わし、弱みに付け込んで操り、
人を地獄へと引きづり込む天界の逆の世界の住人だ。)
「な~る。」
「カン?シロなんて言ってるの?」
急に弱弱しくなる大樹には呆れるけど、
今回はようやったで大樹。
(カン、痛イ。苦シイ。助ケテ。)
俺に甘えた眼差しを向けるリュカに俺は眉尻下げて見つめる。
「リュカ、待ってや。今助けたるさかいに。
大樹、蛇を退かせ。」
「なっ!駄目だよ!」
「ええから。信じて。」
俺の言葉に不安そうにするも、大樹は解ったと蛇を帰らせた。
自由になったリュカは立ち上がり離れた場所から俺に話しかける。
(カン、ソイツラ信用ダメ。カン仲間。リュカノナカ・・・マっ!)
そう言って目を剥いて俺に向かって牙を見せ涎を垂らしながら勢い良く、
襲いかかって来た。
「カンっ!」
俺は目を見開き、大声で声を放つ。
「シバクぞ!ゴラァァァァっ!」
すると俺の体から突き刺すような光が放ち、
リュカの体を吹き飛ばすと同時に消え去った。
シロは呟く。
(有りえない。)
「なんか言うたか?シロ。」
シロは額とも思われる場所にタラリと汗を流して目線をそらす。
「カン~!」
オイオイと泣きながら俺に抱きつく大樹に、
「ゴメンやで?大樹。ホンマ、ゴメンな?」
大樹の背中をゆっくり擦って落ち着かせてやった。
裏庭のドアがバンと開き、顔をしかめたオカンが、
「カンっ!アンタ何おっきな声で!」
泣いている大樹を見てオカンは目を見開き、
「シバクぞて、先生シバイたんちゃうやろなぁ!」
「ちょっ、オカン!ちゃうって!ちゃうちゃう!」
俺は慌てて頭を左右にブンブン振るも、泣き顔をオカンに向ける大樹は、
「おば・・さん・・・うわ~ん!」
「カンんんんんん!」
誤解に俺は頭を叩かれた。
それを見たシロは、やけに嬉しそう。ムカツク。
その後、俺はオカン命令で大樹を送って行き、大樹の部屋に入った。
「カン、あの狼はリュカオーンって言ったんだね?」
パソコンの前に座って大樹が問いかける。
俺はベッドに座りシロの傷ついた体に手のひらを触れさせ小さな光をあてる。
シロ曰く、痛みがとれるらしい。
「うん。ほんで長い名前やから、リュカにしたんや。」
大樹はパソコンでリュカオーンと入力し検索し始めた。
「あったよ。リュカオーンはギリシャ神話に出てくる王様らしい。
アルカディア地方にリュカオーンという王がいた。
リュカオーンは数多くの女性たちとの間に50人の息子と、
1人の娘をもうけたが、50人の息子たちは皆、高慢で意地が悪く、
アルカディアの民を苦しめていた。
その悪評を耳にしたゼウスは、彼らがどれほどの悪人かを試すため、
旅人の姿に化けてリュカオーンの宮殿を訪れた。
するとリュカオーンの息子たちはリュカオーンの孫のアルカスを殺し、
その臓腑を抜き取って、それを料理に混ぜてゼウスをもてなしたのである。
このあまりに非道な行いに激怒したゼウスは正体を現し、
驚いて逃げまどうリュカオーンの息子たちを、
最も幼かったニュクティモスヲ除き、すべて雷を投げつけて殺してしまった。
ゼウスはリュカオーンを捕らえ、この行いの共犯者として罰を与えた。
リュカオーンの姿をその残虐で非道な性質にふさわしい生き物、
つまりオオカミに変えてしまったのである。
のちに、このオオカミが天に昇っておおかみ座になったといわれています。
なお、このとき死んだはずのアルカスはゼウスによってよみがえりました。
この事件以後、リュカオーンの一族は深く神を敬うようになり、
リュカイオス山にゼウスのための祭壇(ゼウス・リュカイオス)が作られた。
アルカディアの民はここで生け贄となる人間を殺し、
その肉を食らった者はオオカミになってしまうのだという。
この祭壇は、のちに天に上げられ、さいだん座になりました。
この祭壇は実際に存在しており、
さらに古代においては人身御供を捧げる習慣も本当にあったようです。」
「マジでか!」
「うん。でも、当てはまるよ。リュカは現に狼の姿だったし、
自分で名前を名乗ってる。」
「・・・せやけど、気にくわん。
残虐で非道な性質にふさわしい生き物が狼やなんて。
オオカミは群れで暮らしてて優しくかっこいい生き物や。」
俺は不貞腐れた。
リュカはそうやったかしらんけど、オオカミ全部を同じにせんといて欲しい。
(ハァ。またお前はそんな事を。狼に誑かされたんだぞ?)
「せやけど!リュカは悪魔やったにせよ、オオカミは違う!」
(バカバカしい。)
「なにおっ!」
キィキィーシャーシャーと言ってベッドの上でバトルする俺とシロ。
大樹はそれを見てアタフタして止めに来る。
オオカミにもいろんな奴がいるんよ。
ただ、それだけの事。
(洋子。カンに目が立ったな。)
「関わったらこうなる事は解ってたんや。でも、若すぎる。」
(天の子。力を付ける前に襲いに来る。)
「守ってくれはるんやろ?現に今日も上手い事、力出してたやないの。」
(下っ端が帰れば、また次の使者が来る。)
「あの子の宿命や。覚悟は出来てる。」
(我々も動きに備える。)
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