vol 93:聖夜




「ねぇ、カン。
クリスマスイヴなんだけど、天界で過ごさない?。」

「天界で?。」

「うん。天界で本当の姿でカンと過ごしたいんだ。」

「せやな・・・俺も大樹と過ごしたい。」






「ねぇ、カン。」

「・・・。」

「ねぇ?。」

「・・・。」

「カンってばぁ。」

「あー?。」

俺の想像とは儚くも現実との差は激しい。

甘い会話を望み、期待していたのに、

実際はカンは仕事でパソコンに没頭。

俺はその横でカンに強請る。

「カン~、だからぁ~、
クリスマスイヴだよ、今日。」

「・・・ほんで?。」

「この世界じゃ、弥勒達いるし~、
だから天界で過ごそう?。」

カンの膝に頬を乗せてる俺に、カンは見向きもしない。

「なんでやねん。
みんなでケーキ食ったらえぇやん。」

素っ気ない返事。

「ケーキはみんなで食べればいいよ。
その後の事。
二人でクリスマスを迎えたい。」

「・・・なんで?。」

温度差。
カンは恋人で俗に言うラブラブな概念はないらしい。
当然、俺は拗ねる。

「なんでじゃないよ!
俺ら恋人だろ?。」

「あー、もう、煩いなぁ。
仕事の邪魔や!リビングに行っとけや!。」

カンに怒られた。

夜が来て、カンの手料理の鳥のモモ肉にかぶり付く弥勒。

「大樹、なんや食わんのか?。」

食欲なんてないよ。

俺は不貞腐れてる。

大人げないのは解ってるんだ。

でも・・・愛する人がいれば当たり前の気持ち。

イベントの日は恋人と二人で甘く過ごしたい。

「なんだ~?
下痢か?。」

下品な弥勒がこんなにも邪魔に感じるなんて。

「おい、睨むなよ。」

「ハァ・・・ほっとけ、弥勒。
食ったらケーキやぞ?。」

「おー!。」

カンは俺を見ては溜息を吐き、
弥勒には笑んで、二人が楽しそうに見える。

夕飯を済ませてはケーキが運ばれ、
ロウソクに火を点けて、

「はっぴばーすでーつぅーゆ~。」

「いぇーい!。」

「はっぴばーすでーつぅーゆ~~。」

「えーい!。」

「はっぴばーすでーでぃあ、さーんたくろーすぅ~。」

「いぇ~い!。」

弥勒が歌い、カンが叫ぶ。
二人はノリノリ。
大体、イエスの誕生日なのに、なんでサンタなんだよ。
カンは知ってるはずなのに、つっこまないし。
二人で煙草咥えながら・・・やめて欲しい。

「いぇ~い!。」

「サンタさん、誕生日おめでと~!。」

だから、サンタの誕生日じゃないって、弥勒。

酒を飲みながらケーキで盛り上がっている二人。

俺は辛くてワインを一気飲みした。

1杯・・・2杯・・・3杯。

「あー、大樹潰れたなぁ。」

「ほんまにこいつ・・・。」

「良かったのか?
俺も一緒にいて。」

「そないなもん気にせんかてええって。
クリスマスを恋人と祝う事自体、
俺は気に入らんし。
家族と祝う。」

「家族・・・か。」

「お前も家族みたいなもんや。」

弥勒とカンの会話は酒で潰れて朦朧とした俺の耳に聞こえてくるものの、
暫くして寝入ってしまった。

寝入った俺は、天界の門の前に立っている。

こんなとこに来ても一人なのに。

門から見える天界の中は、

クリスマスも関係ないばかりに慌ただしい。

幸せなクリスマスと言えど、

死者は増えているから。

(俺・・・何やってんだろ。)

自分の気持ちがバカバカしく思えてきた。

(ほんまに、何やってんねん。)

後ろで呟かれて振り向くと、
そこには天の子が眉尻下げて立っていた。

(か・・・カン。)

(大樹のアホ~。)

普段なら憎たらしく思う暴言も、
イヴに興味も持ってなさそうだったカンが天界に来てくれた事に、
可愛らしくも愛しくも思え、

(来て・・・くれたの?。)

(ホンマにお前は勝手に暴走して。
アタシの料理も食べんと・・・。
せっかく作ったんやで?。)

可愛い。

普通に可愛い。

(ご、ごめん。起きたら食べるよ。)

(当たり前や。)

そう言って俺にカンは抱きついた。

肉体よりも小さな体。

女の子の体。

俺とカンは天界は慌ただしいから、
黄泉の国の蛇の国にある森に向かい、
そこで恋人らしい甘く最高なイヴを過ごした。
日が変わる頃には男女として愛し合い、
俺の着物を裸のカンに被せてやっては二人で草の上に寝転んで、
静かな時を過ごす。

(大樹、メリークリスマス。)

(カン・・・メリークリスマス。)

カンはこういう性格で、
俺達が人間界でも二人で甘く過ごせば、
気をつかっている弥勒に対して、
これ以上・・・気を遣わせたくなかったんだ。
家族を大事にするカン。
そして、ちゃんと恋人も大事にしてる。

(俺はまだまだカンに追い付けないよ。)

(なんや、急に。)

(俺もカンと同じ気持ちになれるように頑張るから。
だから・・・ずっと一緒に居て?。)

情けない言葉でも、俺はカンに伝えたかった。
カンは笑って、ええよって。





朝目が覚めると、重い体に軽い頭痛。

二日酔いか。

コタツで寝ていたらしく、

カンの姿もなかった。

「っ~・・・。」

体を起そうとすると頭痛に顔を歪め、
なんとか起きると机の上にラッピングされた袋。
袋の上のメッセージカード。

大樹、メリークリスマス。

そう書かれてあった。
カンからのクリスマスプレゼントだ。
紙袋を開けると、中には黒のVネックセーター。

「このセーター・・・。」

同じデザインの白いセーターをカンが良く着てた。
嬉しくて、直ぐにそのセーターに着替える。
薄手のセーター。
カンと同じ。

「起きたか、酔っ払いマン。」

カンが仕事部屋から出て来ては、
リビングのコタツの俺に笑んで声を掛けてきた。

「カン・・・お揃い。」

俺も笑む。
カンも今日は白の同じセーターを着ている。
俺は立ち上がってキッチンに入ってコーヒーを入れるカンの後ろに行き、
腰に両手を回して抱き締めた。

「嬉しい・・・カン。」

「俺かて、ちゃんとお前の事考えてるんやからなぁ~。」

「・・・うん。
俺もプレゼント用意してあるんだ。」

「なん?。」

カンは期待に満ちた顔を向け、
その唇にキスをし体を離すと玄関に置いたままの鞄から、
箱を取り出して、待ち切れずについて来たカンに手渡す。

「わっ!これ最新機種!。」

「これ、欲しがってたから。
中のカードを差し替えれば直ぐに使えるよ。」

カンは新しい携帯をずっと欲しがってた。
CMを見る度に目をキラキラさせて。
本当は指輪を贈りたかったんだけど、
それは誕生日にでも。

「わー!わぁー!
ありがとう大樹~。」

「あはは、カン。」

嬉しそうに抱きついてくるカン。

最高の笑顔に、カンからの熱いキス。

お揃いのセーター。

「おっはよーさん。」

部屋から出て来た弥勒にカンは唇を離して弥勒に顔を向ける。

俺も弥勒に顔を・・・、

「あ・・・れ?。」

目の錯覚だろうか。

「おー、弥勒似合うやん。」

「大樹は黒かぁ。」

弥勒が俺とカンと同じデザインのグレーのセーターを着ていた。






俺はその場で廃人と化した。













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