vol 92:鳩



朝、目が覚める。

人間を感じられる気だるい体。

窓の外に鳩が何匹かとまって鳴いている。

「ホーホー。」

鳴声が窓の外なのに部屋の中まで聞こえる。
耳障りだよ、お前達。
僕はベッドから下りて窓に近付いた。
鳩は逃げもしない。
この鳩達は父が飼っている伝書鳩。
人間に慣れている。
とは言え、窓を開けたら驚いて逃げるだろうし、
この機嫌の悪い僕の気は察知出来る。
窓に手を掛けると鳩は飛び立つ。
でも、瞬時に窓を開けて一匹の白鳩の首を掴んだ。

「ねぇ、君。
運が悪いのか・・・ノロマなだけなのか。
とにかく、煩かったんだよ。」

暴れている鳩の首をそのまま片手で折って殺した。

「イエス、お食事の用意が・・・。」

家政婦が僕を呼びに部屋のドアを開けて入ってきた。
僕は鳩の首を片手で掴んだまま、その場に崩れて座り込み、
僕が殺した鳩を腕の中に寝かせる。

「イエス?。」

「と、父さんの・・・鳩が・・・。」

家政婦は僕に近付き腕の中で目を見開いて死んでいる鳩を目に、
驚いた顔をした。

「まぁ!旦那様の大事な鳩が!。」

僕は声を震わせては大粒の涙を溢し、

「窓の外に横たわって・・・。」

痛々しい僕のその表情に家政婦は眉尻下げ、

「イエス、直ぐに包む物を持ってくるわ?。
気を落とさないで。」

僕の肩に手を置いては立ちあがり部屋を出て行く。

「僕が殺したのに、気を落とすかい?。」

誰もいない部屋で腕の中の、死んだ鳩の目を見つめて笑む。
そして、ゆっくり瞼を閉じさせた。

「イエス!。」

父親の大きな声。
慌ててこちらへやってくる足音。

「イエス!大丈夫か!。」

父は僕の部屋に入っては、直ぐに近付いてしゃがみ込んだ。
僕は父親を上目遣いで見つめ、

「父さん・・・父さんっ!。」

父親の胸にそのまま額を押しつけて泣いてみせた。

「イエス・・・。」

「旦那様・・・。」

「あぁ、ありがとう。」

家政婦からタオルが渡され、
父は僕の膝の鳩をそっと掴むと床にあるタオルに横たわらせた。

「ふっ・・・うぅ・・。」

泣く僕。
涙を流すのは簡単じゃない。
でも、僕の場合は想像して泣く事は簡単だった。
自分の悲しみを呼び起こせばいいこと。
僕の悲しみ。
それは。








「ルシファーよ!
お前は私の人間を騙し、知恵を与えてしまった!
この天界から出て行くがよい!。」

「神様っ!僕は、僕はただっ、。」

「えぇい!何も聞きたくはない!
お前は幼き姿だが、心は邪悪。
良くも私を裏切った!
地の底に沈むがよい!。」

「僕の話を聞いて!
お願い!・・・お願い・・・。」








「サタンのせいで・・・生き物は命を奪われてしまった。
僕は・・・サタンが憎いよ、父さん。」

「イエス・・・。
サタンも元は神使い。
神の子。
我々と同じ神の子なんだよ?
憎しみはけして持ってはいけない。」

「お・・・なじ?。」

「そうだ、我々と同じ。
なんの変わりもない。」

「そう・・・だ、ね。」

この人間を殺してやろうか。
苦しめて殺して、
魂を地獄に連れていき、
永遠の命の中で永遠に苦しめてやろうか。

僕ら神使いが、人間と同じだって?。

お前達に何が出来る?。

ただ、生き、食べ、寝て、子孫を残し、
繁殖し、僕が与えた知恵で争いを起こし、
地球を破滅させているだけのお前達と、
この僕が同じだって?。

ゆっくり父親の左胸に手のひらをあてがう。
このままお前達には見えない僕の手を体内に進ませて、
心臓を握り潰せばお前は死ぬ。

「父さん、サタンは人々を今も惑わせている。
その、サタンを・・・救わなきゃ。」

父は僕の胸の手を掴み、
優しく笑んで、

「その通りだ、イエス。
この鳩も、お前に気付かれて安らかに天国に向かっただろう。」

良く解ってるじゃない。
悪魔に無意味に殺された生き物は、
自然と天界に召される。

「しかし、どうして死んでいたんだろうか。」

父は鳩を見つめる。

「僕が見つけた時には、窓の外で横たわっていたよ。」

父は鳩を掴んで調べ始める。

「首が折れているな。
窓にぶつかったのか。」

違うよ?。
僕が首を絞めて殺したんだ。

「イエス、食事の前に土に還してやろう。
服を着替えなさい。」

「はい、父さん。」










               92       次のページ



91話に戻る
戻る

花手毬