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vol 36: 異変
俺の家にはパソコンがない。
調べたい事があったから、今大樹の家に来とる。
調べたい事。
まだ、俺には知らん天界とは逆の存在について。
事の始まりは昨夜の訪問者。
明日は体育があるのに体操服のズボンがあらへん。
階下のオカンの部屋に降りて行った。
「なぁ、オカン。体操服の・・・なっ。」
オカンは布団の上に正座して座ってた。
なんや部屋は電気が点いてるにもかかわらず、やたら明るい。
「なん?。なんかおるん。」
俺の問いかけにオカンは笑みを見せる。
「そこ座り。」
俺はオカンの向いに腰を下した。
「アンタの記憶、全部戻ったんか?。」
「・・・全部?まぁ・・たぶん。」
「もう見えて聞こえるんかいな。」
「うん。せやけど、まだ見ようとせなら見えん。」
「そうか。それはアンタは今、肉体は人間やからや。
天界では霊体やから、少しは違いがあるかもなぁ。」
「ほう。で?体操服のズボンないねん。」
オカンが言いたい事がよう解らんのと、ズボンの在り処が気になって。
「そろそろ動きだしたんや。」
「ハイ?。」
「今の世の中の動き、解っとるやろ。」
「災害とかか?。」
「災害もそうや。戦争も有りうる。殺人。」
「何が言いたいん?。」
「人間は愚かや。昔のことも忘れて、今もまだ破滅に進んでる。
でもな、これを操作しとるモンもいる。」
「闇かいな。」
「そうや。闇の勢力が増してる。カン、アンタに来るよ?。」
オカンの話はこうや。
闇が平和ボケしてる人間に知恵を与え、人間同士で人間を滅ぼし、
死んだ人間を自分達の手下にして天界を乗っ取ろうっちゅー話。
まぁ、天界を乗っ取るって言うよりも、自分たちを落とし入れた神に、
復讐、あるいは、自分たちの作った人間の愚かさを知らしめるため。
かんたんに言う、大ショックを与える為に下界を滅ぼそうとしとる。
昔の人間は貧困にも打ち勝つ精神力があった。
今の幸せにどっぷり浸かった人間は精神力は脆く、妬みや怨み、
憎しみを一番疑うことなく自分に引き込む。
闇の恰好の餌食や。
鬱という病気も増えて、自分に打ち勝つ努力もなくなった。
努力したのにアカンねん!
この言葉で終わらせる。
確かに努力は自分なりにしたと思う。
外に出るのが怖い。
人と話すのが怖い。
怖い怖い怖い。
それを克服するた為に何かした?。
わざと外に出て、綺麗な花とか、自然に目を向けようとせな。
人を見るんじゃなくて、自然を見て癒す。
ただ、難しい事に、鬱というか、人間不信になるのはどうしようもない。
現に俺も人間嫌いやったんやから。
人間のそういう弱みに闇は敏感で、
耳元で聞こえん声で囁く。
(お前はダメ人間だ。死んだ方がいい。)
自殺・他殺・欲望・妬み・怨み・憎しみ
これらの感情は全てがとは言いきれへんけど、少なくとも、
闇の声に従ってというケースも少なくない。
いや・・・殆どかもしれん。
闇=悪魔
それを調べるべく、今、大樹の部屋でパソコンをしてる。
「か~んぅ~。」
猫撫で声で足元でズボンを引っ張る大樹。
こいつは今、頭ん中は春到来らしい。
「ちょー、邪魔せんで。」
「だって!だって、せっかく二人っきりなのに。
恋人放っておいて君はパソコン?。」
なんや怒りだした。
「うっさいなぁ・・・忙しいねん。」
ぶっと膨れてベッドに座り、シロの体を突き、
「シロ、カン噛んでいいよ。」
シロはタラリと汗を流して苦笑している。
「大樹、この動画ってなん?。」
大樹は話かけられると嬉しいらしく、ベッドから降りて横から画面を見、
「あぁ、これ?。世界中の動画サイトだよ。
無料で一般が動画投稿しているんだ。」
「へー。この悪魔除霊とかって見れるん?。」
「見れるよ。」
大樹がマウスを取り、クリックすると動画が映し出された。
「なんや、英語や。字幕もないやん。」
「それはそうだよ。世界各国から一般人の投稿だし。」
動画は悪魔に体を取り憑かれた婆さんが神父に暴言を吐いてる様子。
けど、これ見ても何も感じへん。
動画が終わって他の同じような動画を見た。
状況は同じ。ただ・・・。
「なんこれ・・・。」
「うん。これはすごいね。」
暴言を吐いているおばさんの声が人間の声と違う。
編集してる?。
いや、これは本物や。
「ヘブライ語。」
「え?。」
「この人、ヘブライ語で話してる。」
「お前、ヘブライ語なんか解るん?。」
「うん。少しね。旧約聖書の原点はヘブライ語だから。」
「このオバハン、なんて言うてるん?。」
「殆どが神父を馬鹿にしてる言葉だよ。」
動画が終わった。もう一度、再生してみると、
さっきはない光景が映る。
女がカメラをジッと見て何か言うてる。
「なぁ、さっきこんな場面なかったよなぁ?。」
大樹の表情も真顔になった。
「・・・カン。君に言ってる。」
「俺に?。」
「天の子、お前は・・・。」
大樹の言葉が止まった。
「なん?大樹。」
大樹は鋭い目付きで画面を睨みつける。
「言いたくない。」
「大樹。言うてくれな困る。」
「・・・天の子、お前は・・・。」
重そうに大樹が言葉を繋ぎ始めた。
「お前はクズの子。お前に何が出来る。止められない。
クズの子。何の力もない子。滅び、我らの奴隷となるがよい。」
大樹は机に両手を着き苛立ちを抑えるかのようにギリっと歯軋りをした。
俺は静かに立ちあがり、
「・・・カン。」
大樹は眉尻下げて俺を見つめた。
「・・・ボケ・・・。」
「え?。」
「こんのボケカスぅ!クズにクズ言われたないわゴラぁぁ!。」
俺はパソコンに突進する勢いで画面に向かって叫んだ。
「人が大人しゅう聞いとったら。ホンマ、しばくぞゴラぁぁぁあ!」
「か、カン!待って!落ち着いて!。」
パソコンに殴りかかりそうな俺の両腕を捉まえて大樹が抑えさせる。
「お前のボスも天界におったんやんけ!ホンマ、クズはお前らや!。」
すると、画面ではゲラゲラと笑いヘブライ語でまた何かを言ってきた。
俺は深呼吸して落ち着きを見せると大樹はホッとしたのか、
俺の腕を離した。自由になりその場にしゃがむと、
「カン・・・。」
心配そうに名を呼ぶ大樹を知り目に、机の裏の配線に手を伸ばすと勢い良く、
引っ張りコンセントから電源を抜いた。
ぷっ。
パソコンの画面は真っ暗になり強制終了。
「・・・へ。」
含み笑をして静かにガッツポーズをする。
大樹は配線を抜かれ、消えたパソコンに目が点になっている。
「ガハハハ!電波で俺に喧嘩売るなんざ、100万年早いわぁ!ボケぇ~!」
シロの体を掴み白の頭に頬擦りし、
「なぁ~?シロぉ~。」
シロの額に青筋が浮かぶ。
そんなシロをポイッとクッションに投げてベッドに寝転がり、
「ネットにまで進出してるんやな。アイツら。」
大樹が大きく溜息を吐いてベッドに座り、
「カン、駄目だよ。相手にしたら彼等の思うつぼだよ。」
「そんでええんよ・・・。」
「どういう事?。」
「俺にムカついたら、俺に来るやろ。俺に来たらええねん。」
「カン、君・・・わざと。」
いや、わざとな訳ちゃうけど。ホンマにムカついただけで。
「ま、ちょっとでも俺に来たら被害もちょっとでも無くな・・・大樹。」
大樹は俺の体を抱きしめた。
「自己犠牲だけはやめてよ。」
「・・・そないなかっこええ事ちゃうって。」
大樹の背中をポンポンと叩き、
「カン・・・シていい?。」
「・・・許す。」
大樹は俺をまるで癒すかのように抱く。
でも、少し悲しさも伝わった。
不安も。
それを拭うかのように俺も大樹の背中にしっかり手を触れさす。
ベッドで裸のまま布団を被って寝ている。
二人で仰向けになって。
「カン、俺も闇については調べたんだ。」
「うん。」
「かんたんでもないし、犠牲者も多い。信仰も多い。」
「うん。」
「彼等のやり方は残酷で、如何に相手の弱みを知ろうとする。」
「うん。」
「俺にはカン。カンにはきっと動物。リュカオーンの時もそうだった。」
「そやな。」
「手を出さなきゃいけないのは確かだけど、自分を見失わないで。」
「・・・解ってる。」
「君は、君が思う以上に弱く脆いよ。」
大樹の言葉は胸が痛くなる。
その通りだから。
どうやって自分の弱みを制御できるのかも、まだ解らない。
オカンが言うてた。
俺は今は人間。人間としての無力さも味わうやろう。
その時の覚悟も必要や。
「でもさ、俺がいるから。」
大樹。
「俺がいつも居る。死ぬ時も一緒に居る。」
そう言う大樹が愛しくて、体を起こして大樹に何度もキスをした。
もう9時。服を着て帰る支度をする。
頭に痛みが走る。
大樹は今更、シロが部屋に居たことに気づき真赤になって気マズそう。
頭が・・・痛い。
「カン?。」
顔色が悪く察知した大樹が心配そうに声をかけた。
(カン、これが弱みの第1の関門だ。)
シロが呟いた。
って事は・・・闇の仕業。
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