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vol 102:絶望
腑抜けのようなカンは硬いベッドに座ったまま。
俺は、そんなカンに溜息を吐き鞄を開けて、
サイダーの瓶をカンに渡す。
「・・・こんなんいつ買うてん。」
「昼飯食ったレストランに売ってたから買っておいたんだ。」
自分の分も出すと蓋を開けて飲む。
オンボロ車にガタガタ道、そしてテロ。
流石に心も体も初日にして疲労を感じる。
その喉に刺激のあるサイダーは格別に美味い。
「ン・・・飲まないのか?。」
カンはジュースをサイドテーブルに置いた。
「うん。チー達にやる。」
異国の国で自分に懐いた死に近い子供。
腕や足の無い子供達もいるが、
死に近いと思われる子供は今のところ、チーとラドゥン。
その他の子供はただ、心が死んでいるだけ。
チーとラドゥンは命は死に向かっているも、
その心は状況を把握し、必死に生きてる。
「ほらよ。」
俺は自分の飲んだサイダーを手渡した。
「たかがサイダーと言えども、スッキリする。」
カンに笑んで見せた。
安心させてやりたいから。
カンは俺の笑みに応え微笑えんで、
「なぁ、弥勒。
俺は神の子失格かもしれん。」
「はぁ?。」
「どんな状況であっても、どんな光景を見ても、
俺は気丈に振舞って、皆に自信と勇気と愛情を教えなアカン。
それやのに・・・。」
初めてテロの惨事を見て、
転がる死体、悲鳴、大きな傷を負った子供、
それらを見たカンは人間らしく取り乱した。
「天界で見たり、映画とか、夢とかでリアルに見て感じてた。
せやのに、実際に見たら同じ光景なはずやのに、全く、。」
「神の子であろうと、ただ、親が神なだけだ。
神々も幼き頃に経験してきた故に今の様な気丈で大慈悲に溢れている。
どんな子であっても、初めから余裕かましてニコニコな奴はいねぇよ。
サタンですら、初めは違ったんだ。」
カンは俺の言いたい事は理解してはいるも、
心がまだついていけてない。
「始まりは皆、無垢だ。
右も左も解らない。ただ、何にでも興味ある赤ん坊。
それが段々学び、皆同じ事を学ぶのに、
道が反れていく。
これは、人間だけじゃない。
神であろうと、宇宙人であろうと、生きている者全て同じだ。」
「アハハ、宇宙人が出た。
・・・ありがとうな、弥勒。」
そう言ってカンはジュースを飲み美味いと言っては、
俺の分を残す事無く飲み干した。
腹も立つが、今は多めに見てやろう。
「サタンが・・・。」
「ン?。」
「サタンが言うてた、食事を口にするなって、
どういう意味なんやろ。」
確かに俺も引っ掛かっていた言葉だ。
「あの言い方やったら、まるで、
なんや毒でも入ってるみたいな言い方やと思わん?。」
「あぁ。お仕置きも気になるしな。
この孤児院に何かあるとしても、サタンが言うように、
アイツは手を下しているように見えない。」
「なんで?。」
「アイツも来るのが初めてな感じだった。
それに、神父は息子だとシスターに紹介してるのを見たし。」
「サタンが手ぇ下してなかっても、
手下がやってる可能性もあるやんけ。」
確かにそれもある。
でも、それならこの建物に入れば何か感じるはずだ。
「カン、お前、この建物に入って何か感じたか?。」
「・・・いいや。でも、感じる余裕もないもん。」
弱い霊気だったら気持ちが高ぶっている時や、
心労の時は集中しないと感じ取る事は難しい。
だが、相手が闇だとして、ここまで荒ませるには、
力の強い奴だ。霊気も感じたくなくても、感じるだろう。
カンと話しをしているとドアを小さく叩く音が聞こえた。
『・・・はい。』
カンと視線を合わせてからドアに近付いて開けると、
『チー。ラドゥンも。どうした?。』
そこにはチーとラドゥンが立っている。
そして、その後ろには今で言う高校生くらいの女の子。
『今、自由の時間。トモダチ紹介しに来た。』
そう言ってチーとラドゥンが中に入り、
二人の手に引かれて戸惑いを見せる女の子も中に入った。
ドアを閉めてはカンと3人を見つめた。
(彼女はジャンヌ。彼女も僕の声が聞こえるんだ。)
「え、でも、チーだけが唯一聞えるって、。」
ラドゥンは眉尻下げて言いにくそうに、
(ジャンヌは昔、神の声が聞こえるって言って、
酷い目にあったから教えちゃ駄目だって・・・。)
神の声?。
『オレがカンはテンシ様だって言ったらジャンヌが会いたいって。』
チーの言葉が解らないカンは俺に通訳を求める。
「カンが天使って言ったらジャンヌが会いたいって言ったそうだ。」
カンはベッドから降りて、彼女の前に近付いて、
手を差し出した。
「俺、カン。よろしゅうな?。」
俺はジャンヌに通訳する。
そしたらチーが両手を使ってジャンヌはその動きを見ている。
(ジャンヌは耳が無いんだ。)
俺とカンは彼女の耳に視線を向けた。
肩まである黒い髪で耳は見えないが、
ジャンヌがそれを見せるように髪を上げて見せた。
耳は無い。
しかも火傷を負ったようなケロイドで耳穴すらない。
だが、耳が聞こえなくてもラドゥンの声が聞こえるなら、
心で話しが出来るはず。
『心の声が聞こえるなら、心で話す事は出来ないのか?。』
チーが手話をすると、ジャンヌはチーの手を自分の口に触れさせて、
唇を動かす。
『わたしはラドゥンの声は聞こえるけど、
チーの声もあなた達の声も聞こえない。』
この間、通訳しているのはラドゥンがカンに。
『チーは、わたしの唇の動きで言葉を読み取ってくれる。
わたしの手話はチーには見えないもの。』
「耳はテロで無くしたんか?。」
カンが問う内容をラドゥンが心でジャンヌに通訳する。
ジャンヌはチーの口を借りて答えた。
『いいえ。過激派に拉致されて耳を切られて焼かれたの。』
ラドゥンがカンに通訳した時、
カンは目を見開いてはゆっくり瞼を落とした。
『言葉は話せないのか?。』
俺の問いにジャンヌは口を大きく開けて、
切り取られて無くなった舌を見せた。
「・・・ご、めんっ。」
カンが小さく呟いて地面に崩れていく。
ラドゥンは慌ててカンの背中に触れ、
(カン、どうしたの?
なぜ、泣いてるの?。)
カンは両手を俯いた顔にあてて小さく肩を震わせている。
カンの気持ちは直ぐに察する事が出来た。
人間を救う為に人間になり、
天界から降りて来たのに、自分はいったい今まで何をしてたんだ、
何を、見てたんだと。
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