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vol 27: 記憶の復活
大樹と高野山に来た俺は弥勒と言う坊さんに会った。
そいつは俺らの過去を随分と詳しゅう知ってるようで、
俺らは弥勒の言う寺に一緒に向かった。
「お師匠!戻りましたっ。」
寺の門をくぐると、弥勒は境内に向かって声を上げる。
中からは返事はなく、
「どこかに行かれたんだな。・・・チビ神、天の子、来いよ。」
俺と大樹の古い名を呼ぶも、俺らはその名前に慣れてなく、
「俺はカンや。」
「うん・・・俺も織田です。」
おい大樹。そこで苗字言うか?普通。
そんな俺と大樹に目を丸くする弥勒はフッと笑い、
とにかくこっちだと部屋に案内をした。
俺らは着いて行き、案内された部屋に入ると書物だらけの部屋に、
俺は目が点になった。
「うわー・・・すごい本だね。」
大樹は俺と違って目をキラキラさせて部屋を見渡す。
「その辺座れよ。アッチでも勉強はしたつもりだが、
下界は下界でいろいろと知る事も多くてな。」
弥勒は床に散らばった本を拾い小さな机に置きながら座る。
俺も畳に腰を下ろし、続いて大樹も座った。
弥勒は俺をジーッと見つめ、俺はその目を睨み返した。
「しっかし・・・なんでまだ男に?」
その質問は意味プーや。
けど、俺と違い大樹はその言葉の意味を理解しているらしく、
「俺も思うよ。なぜ男で生まれたの?カン。」
残念そうにも思える大樹の表情に、俺は殴りたい情動にかられた。
「そんなん知らんわ。」
とりあえず、不貞腐れとこ。
「つーか、本当に覚えてないんだな。あの世の事。」
「少しだけ、水の神に聞いたんだ。でも、全ては・・・。」
「そうか。ま、天の子の希望だったからな。」
「カンの?」
再び俺を見る二人。
「せ、せやから知らんて!」
俺は責められてる気分になって完全に不貞腐れた。
「下界に生まれる時に全ての記憶を消して欲しいってカンが言ったんだよ。
人間の気持ちを理解する為に。
時がくれば必ず思い出してみせるからって。
チビ・・・織田は、嫌だって反対したけどよ、
記憶を無くして生まれても、きっと自分達は心が通じるってカンの言葉に、
負けちまって承諾したんだ。
で、お前が先に生まれるって言いだして、後にカンが生まれることになった。
俺は随分後の予定だったんだが・・・、
お前らにだけ楽しませて堪るかって思って無理言って、最近生まれたわけ。」
俺は顔を顰めた。
「ほんなら・・・お前は赤ん坊か?」
「ぶっ!」
俺の言葉に大樹は吹き出した。
弥勒はゲラゲラ笑い、
「こんな赤ん坊、怖いだろ。」
確かに。見た目は大樹と同じぐらいやし。
「俺の場合、そのままで下界に降りたから。」
「う、生まれたとか言うからやろ!」
俺は、自分の勘違いに赤面。
そんな不貞腐れた俺に弥勒は大樹の方に体を寄せ、
耳元でコソコソ何かを話す。
「なぁ、天界にいる頃より少し性格、すれたんじゃないのか?」
大樹が苦笑し、
「さ、さぁ。俺が知ってるのはこのカンだから。」
「・・・聞こえとる!」
なんでやろ。
この坊さんが、やたら大樹に絡むのが気にくわん。
シロが俺の膝に上ってきた。
(嫉妬だろ。)
「しっ!」
つい声に出しかけ、大樹は弥勒の過去の話に夢中や。
(嫉妬て、なんで俺が女みたいに嫉妬せなあかんねん。)
(元は女。それにそろそろ目覚めて来ているんだろ。
あの世でのお前と人間のお前。)
(俺は女ちゃうし!男やし!)
(そろそろ認めたらどうだ?女という事実を。)
俺はシロの確定した言い方にムッと、
立ちあがるとベルトを外し、
(ええか!俺が正真正銘男やー言うの見したる!)
ズボンのジッパーを下げて脱ぐ俺に大樹と弥勒は目が点になり、
「か、カン・・・何脱いでるの?」
「おい・・・ストリップか?」
「・・・あ、あつ!あっつぅ~!ここ暑ない?アハアハ・・・。」
俺は必死にごまかした。
そんな俺をシロはとぐろを巻いて冷やかに見つめ、
(フッ・・・。)
鼻で笑った。
「あっ!今、鼻で笑ったやろ!鼻で笑ったやろっ!」
俺はシロを指差しギャーギャーわめく。
弥勒はやはり目が点で、大樹は溜息を吐き、
「弥勒、気にしないで。いつもこうだから。」
「い、いやー。気にすんなって言われても。」
弥勒は俺を見つめて、大樹に言う。
大樹は、また俺が怒ると弥勒に自分の一番聞きたかったことを聞いた。
「弥勒、その・・・さ、俺とカンは・・・こ。」
「こ?」
言葉に詰まりモゾモゾしている大樹に弥勒は不思議そうや。
何を言いたいんやろ。
「うん・・・その、ね。こい・・」
自然に大樹の顔は真っ赤になり始め、頭から湯気が出る。
俺とシロは、その湯気を見つめ呆気にとられた。
弥勒はそんな大樹を見て笑み、
「お前は変わらないな、チビ神。」
「こいつチビ神ん時もヘタレやったん?」
その言葉には俺も食い付いた。
「勿論!ヘタレ泣き虫!」
「おー!」
「すぐ泣くし落ち込むし・・・
そのくせ、お前のことになると強くなるんだよな。」
「ふーん。そうなんや。で、天界は今どうなってるん?」
俺が話しだすと、途中になった大樹は眉尻下げてシュンと肩を落としている。
「天界はバタバタしてるな。俺やお前らも下界に降りたし、
それに、闇も下界に放たれた。」
「闇?」
その言葉には、大樹も顔を上げた。
俺の中でずっと引っかかっている事がある。
リュカオーンや。
「弥勒、俺な、一回オオカミに憑かれたんや。
なんか関係あるか?」
弥勒は真顔になり目を細めた。
「オオカミか。で、襲われなかったか?」
「いいや、襲われた。」
俺はリュカオーンとのやり取りを弥勒に話した。
大樹とシロの関係が羨ましかったことも。
「カン・・・そんな思いを。」
はじめて知った大樹は悲しそうな顔をした。
「そんな事で消えるような奴なら、ザコだろ。
だが・・・闇で間違いないだろうな。
大樹より、お前を狙ってくるのも確かだ。
天の子が下界に降りた理由は地球を守る為。
闇は地球を破滅させ、人間を自分達の住人にする為だ。」
人間を・・・自分達の住人。
俺の心臓が大きく動いた。
胸が苦しい。なんや?
「カン?どうしたの?大丈夫?」
大樹の言葉に大丈夫言うたけど苦しい。
「覚醒かも!」
弥勒は立ち上がり、慌てて押入れから布団を敷き、
「おい織田!カン寝かせろ。」
「み、弥勒。何か起こるの?」
大樹はアタフタしながら俺を抱きあげて布団に寝かせた。
体が熱い。
意識が吸い込まれそうや。
「織田、天の子の記憶が今戻る。
全てが覚醒する。力も。だが人間の肉体が天の子の魂に合うかどうか。
俺と会うと鍵になってたんだ。俺も知らなかったぜ。」
弥勒は嬉しそうな笑みをこぼすも、大樹は理解が出来ず、
「天の子になるって、どういうこと!カンがカンじゃなくなるの?」
「カンは天の子だ。カンは何も変わらない。
ただ、全てを思い出し封印していた力を呼び覚ます。
カンが封印から解かれた時、お前の記憶も蘇るはず。」
「っ!うぅ・・・ハァハァ・・・。」
苦しい。心臓がはち切れそうや。
体も動かへん。
目を閉じている真っ暗な視界。
その中に眩しい光が灯る。
その光は段々広がっていく。
光が視界全体に広がった時、走馬灯のように全ての出来事が映しだされた。
父に抱かれる俺。兄。大天使や天使達。
黄泉の国の神々。争い。和解。チビ神との出会い。
チビ神への想い。
闇の軍団。
全てを思い出した。
カッと目を開けると俺は汗だくや。
「カン!」
大樹は俺を覗き込む。
「大丈夫?すごい汗。」
そして俺の額に手のひらをあてた。
「すごい熱だよ!弥勒、熱!」
慌てる大樹に弥勒は苦笑し、
「だから、肉体に支障は起こるって言っただろ。
・・・おかえり、天の子。」
弥勒は俺に微笑み頭を下げた。
弥勒・・・懐かしい。
「弥勒菩薩、久しぶりやな。」
俺は弥勒の下げた頭に手を乗せた。
「体はどうだ?その肉体でいけそうか?」
「ちょっと、怖いこと言わないでよ!」
「あぁ。なんとか平気みたいや。」
チビ神の記憶も戻してやらな。
「大樹、こっち来ぃ?」
「・・・なに?」
大樹は俺に顔を近づけた。
大樹の胸に手をあてて、ヘブライ語で復活と呟く。
「התחייה 」
大樹は目を見開き体を硬直させとる。
「これで、神復活だな。」
弥勒は嬉しそうや。
俺も嬉しい。
「弥勒、起こして?」
俺は怠るくて動かない体を弥勒に起こしてもらおうとした。
けど、俺の体に触れたんは優しい笑顔の大樹で、
「俺が起こすよ。カン。」
大樹にも黄泉の国の記憶が戻った。
「おかえり、大樹。」
俺は笑顔で大樹に抱きついた。
「ただいま、カン。」
大樹もまた俺を抱きしめる。
そう。
俺は記憶が戻ったと同時に体は男やけど、中身は女。
大樹も俺を完全に女として見てる。
記憶が戻ったからや。
抱き合う俺達は全く気付いてへん。
男同士で抱き合ってることに。
「なぁ、もしもし?」
弥勒が声をかけてきた。
弥勒に顔を向けると、複雑そうな顔をして見てる。
「君たち、男同士だから。ね?とりあえず離れなさい。」
その言葉に今の自分達に真っ赤になり、
俺まで頭から湯気が出た。
シロと弥勒が二人の湯気を目で追う。
俺達の目的は闇から全てを守ること。
復活した今、その事に向き合わなければならない。
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