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vol 26: 過去の友人
今日は大樹に連れて来られて、高野山言うとこに来てる。
すっごい山道。
「カン、大丈夫?止めようか?」
「ぅ・・・オェェェ。」
あまりのクネクネの山道に、俺は助手席で窓全開にさして、
顔を窓から少し出す。気持ち悪ぅて。
「こんな山ん中に、何があんねん・・・。」
口を両手で押さえながら運転する大樹に問い掛けた。
「お寺がね、たくさんあるんだ。それに、歴史深い場所なんだよ?
およそ1200年前に、弘法大師によって開かれた、真言密教の修行道場で、
全国に広がる高野山真言宗の総本山でね、標高およそ900mもあるんだ。
山の上の盆地にさ、壇上伽藍と称する聖地もあって、
そこには、さまざまなお堂や塔が立っていて、
仏像や曼陀羅が見れるんだよ?
奥の院って場所にはさ、太閤秀吉から太平洋戦争の英霊まで、
いろんな歴史上の人々のお墓が立ち並んでたり。」
えらく楽しそうや。
大樹は、宗教をいろいろと調べているうちにハマったらしい。
「なんかスゴイよね!歴史の人のお墓が見れるなんて!」
人の墓をわざわざ見に行くなんて・・・。
「オェエエエエエ。」
俺は大樹の話も聞き流し、早く到着しないかとオエオエ言うて、
気を紛らわせた。
車が駐車場に停車し、ようやく到着。
ノロノロと車を降りる。
「ん~!気持ちいいね、カン。」
背伸びして笑顔を向ける大樹を見ると、俺の吐き気は限界を極め、
そばにある溝に向かって嘔吐した。
「カハッ!」
「うわ!カンっ。」
ゲロゲロ吐く俺の背中を大樹が撫で、
「ごめんね?カン。ごめんね?」
なぜか謝る。ヘタレめ。
すっかりブルーの俺はウキウキして歩く大樹の後を、ノロノロ歩く。
「ほら、カン。あれが大門だよ。」
「ふーん。」
「大門はね、開創当時は現在地より、
やや下がった九折谷に一基の鳥居が有って、今の建物は、
宝永2年に再建されたんだ。
両脇の金剛力士は江戸時代の仏師康意(阿形像)、
運長(吽形像)の作によるものだよ。」
俺は思う。大樹・・・お前さすが教師。
俺は酔いは楽になったものの、
吐いた事に体力消耗。
フラフラとしながら歩いていると、向いから歩いて来た人にぶつかった。
「ぁ、すんません。」
ぶつかった相手を見ると坊さんや。
坊さんは、ぶつかった拍子に持っていた箱を落としてもうて、
その箱の蓋が開いてしもうた。
「やっばっ!」
坊さんは慌てて箱を拾おうとするけど途中で手を止めた。
俺は不思議に思ってたら小さな声がする。
(ひもじい・・・ひもじい・・・。)
「ひもじい?」
つい、その言葉を声に出した俺に、坊さんは顔を向け、
「お前、聞こえるのか?」
「え?」
坊さんの顔を見た俺はビックリした。
丸坊主のおっさんや思たのに、若い男や。
箱を覗くと中身は空。
坊さんは立ち上がり頭にかぶった変な帽子を指で上げて俺を見る。
「お前さ、観光客?」
坊さんの問いかけに俺は小さく頷いた。
俺は中身が気になって、
「中・・・空っぽやん。」
「あー、封印が解かれた。」
「封印?」
「ハァ~。お師匠に怒られるどころじゃ済まないな。きっと。」
坊さんは眉尻下げて困った顔しとる。
先にどんどん歩いていた大樹が俺が立ち止まって坊さんと居る事に気づき、
慌てて駆け戻って来た。
「カーン!はぁはぁ、どうしたの?」
「坊さんとぶつかってな、箱が落ちて封印解かれたらしい。」
「封印?」
俺が大樹に説明するのを見た坊さんは、
「いや、俺もボーっとして歩いてた。」
そう俺を庇うように話に入って来た。
「あの、封印って・・・何かを封じ込めていたんですか?」
大樹の問いかけに坊さんは目を丸くさせ、
「アンタ、密教僧か?」
「え!いいえ!そんな、とんでもない!俺は観光客です!」
大樹は顔を真赤にしながら照れたようにブンブン手を左右に振る。
なんや、間違われて嬉しそうや。
「違う割には詳しそうだな。」
「す、少し・・・勉強をしたもので。」
大樹は恥ずかしそうに俯いて話とる。
ヘタレめ。
「勉強・・・ねぇ。」
そんな大樹を、フーンと言わんばかりに見る坊さん。
俺は、やっぱり中身が気になり、
「なぁ、中身なんやったん?」
すると、大樹の手の袖からシロがニュルリと出て俺の肩に這い、
「シロ。」
俺が名を呼ぶと、坊さんが目を見開いて俺の肩を見た。
「お、お前!とり憑かれてんのか!」
どうやら坊さんはシロが見えるらしい。
「坊さん、シロが見えるんか。」
「し、シロ?・・・白蛇だからシロ?」
(ち、違う!白蛇神だ!)
シロは額に筋をたてて自分の名前を言う。
「白蛇神か。お前の守護神か。」
どうやら坊さんは声も聞こえるらしい。
俺はシロが守護神の言葉に、ヘラっと笑い、
「んなわけないやん。俺がこんな坊ちゃんと・・・。」
するとシロは俺の首に巻き付き首を絞めた。
「ぐぇ!」
そんな光景に大樹が慌ててシロを掴み引き離し、
「し、シロは俺の守り神です。勿論、カンのでもあります!」
シロは俺にシャーシャー言って牙を向けてる。
俺はシロにベーっと舌を出す。
「もう!カン!」
「お前ら、普通じゃなさそうだ。」
そう言って坊さんは、かぶっている頭の帽子みたいなやつを取り、
顔を見せた。背は大樹と同じくらいやから180くらいか。
切れ長の目に銀色の長髪を後ろで結んでる。
前髪はオールバック。
「この中に入ってたのは、餓鬼っつー物の怪だ。
そいつが逃げた。」
「が、餓鬼!
生前において強欲で嫉妬深く、物惜しく、
常に貪りの心や行為をした人が死んで生まれ変わる餓鬼ですか!」
大樹が目を見開いて早口で坊さんに言う。
「ほう。良く知ってるな。その通りだ。
今日はこいつを餓鬼道に送り返す為に寺に運んでたんだ。」
俺は思う。大樹・・・辞典になりつつあるやん。
「で、でも、そんなのが逃げて大丈夫なんですか?」
「んー、餓鬼はそんな霊力ねぇから。
といって、このまま逃がすわけにはいかねぇ。探す。」
大樹は目を輝かせた。
俺とシロは嫌な予感がして目を細めて大樹を見た。
「そ、それなら俺達も手伝います!」
やっぱり。
俺とシロは大きく溜息を吐いた。
「手伝うって・・・まぁ、お前らなら頼りに出来そうか。」
坊さんも俺と大樹が手伝う事を承諾し、
坊さんについて行くことになった。
坊さんは右の森に顔を向け、草が筋になって無くなってる。
「こっちだ。行くぞ。」
「はい!」
最近、大樹がヘタレなんか、なんなんか解らへんようになってきた。
坊さんに続いて大樹、俺と森に入って行く。
観光客ちゃうかったん?
俺は心の中で、ブーブー言うも大樹は楽しそうや。
(うぅ・・・うぅ・・・)
唸り声が聞こえる。
「もう少しか。」
坊さんは奥へと足を進ませる。
しかし、こんな俺と同じ体質の奴、初めて会う。
こいつは坊さんやから、修行したんやろか。
(カン・・・餓鬼は群れだ。気を抜くな?)
(シロは知っとるん。餓鬼。)
(黄泉の国の神だからな。餓鬼は下界の下にある国、
地獄の国の住人。何でも食べ尽す。)
(この草が道みたいに無いんは餓鬼が食った痕か。)
(そうだ。)
随分奥に進んだ。
(ひもじい・・・ひもじい・・・。)
「いたぞ。」
立ち止まった大樹の背中に俺は額をぶつけ、
大樹の隣に移動した。
目の前には猪に群がるネズミくらいの大きさで、
頬がこけてガリガリの体は腹だけが膨れている。
(ひもじい・・・ひもじい・・・。)
「酷い・・・。」
大樹はその光景に呟いた。
坊さんは箱を捨て、両手を変な形にし、
「俺が地獄に送り返してやる。」
「不動明王印!」
大樹が叫ぶ。出た!辞典野郎め。
坊さんは人差し指同士の先を触れさせ両親指を交差させた手を餓鬼に向け、
「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク
・・・・サラバビキンナンウン タラタ カンマン!」
坊さんの両手に炎がつき、その炎が勢い良く餓鬼に向かって噴きだした。
「ちょっ!」
俺は慌てて坊さんの背中を両手で強く押したんや。
「うぉ!」
不意な攻撃に坊さんの両手が離れて火は消えた。
「何すんだよ!」
「そんなんしたら、あいつら死ぬやんけ!」
俺の発言に坊さんは額に青筋浮かせ、
「あいつらは死んでんだよ・・・物の怪だっつったろ!」
俺はカチンときた。
「物の怪であろうが何であろうが、火で焼くなんか有りえん!」
仁王立ちで俺は餓鬼達の前に立った。
これやったら焼けんやろ。
「カンの考えは密教じゃ通じないかも・・・。」
大樹は肩を落とし、心配そうに見つめた。
「お前!食われたいのかっ!餓鬼から離れろ!」
餓鬼は猪の骨まで食い、ひもじいと言って近くの俺に群がって来た。
「カンっ!」
「ちっ!」
大樹は両手を合わせ、蛇の軍団を出そうとしてる。
坊さんは、また両手組んで術を出そうとしてる。
「手ぇ出すな!」
俺は二人に向かって叫んだ。
「なぁ、坊さん。こいつらの好物ってなん?」
「好物?」
「餓鬼は血だよ!血が好きなんだ!」
大樹の言葉に、俺は指をガリっと噛んだ。
当たり前やけど痛い。
その血を拾っていた箱の中に垂らし、
「ほら、カンちゃん特製の血ぃやで?
めちゃ旨や。甘いかもしれん。チョコ好きやし。」
俺は餓鬼に話しをする。
「肉より旨いで?ほら、血ぃや。」
すると餓鬼は、その言葉に反応し、体から箱に向かって群がり出した。
全部が競い合って箱の中に入ると俺はゆっくり蓋を閉めた。
「どや!」
ジャーン!と言わんばかりに箱を二人に見せた。
坊さんは唖然。
大樹はパチパチと手を叩き、
「うわぁ~!すごいよカン。封印しちゃった。」
俺は坊さんに近付き、箱を手渡した。
「このままやったら、逃げる?」
坊さんは拍子抜けした顔をし、
「い、いや・・・箱の梵字が消えない限り出れない。」
「ほんなら一件落着やな。」
ニィーっと俺は笑みを向けた。
シロが俺に近付き、
(カン、お前・・・馬鹿か?)
「あ?なんやとぉ・・・やるんかコラ。」
「ちょっと、また二人とも!
カン、シロは心配してるんだよ?」
俺達3人を見て、坊さんは問い掛けた。
「お前ら・・・もしかして、チビ神と天の子・・・か?」
その言葉に俺達は目を見開いて坊さんを見、
大樹が坊さんに問い掛ける。
「なぜ・・・その名前を・・・。」
坊さんは笑顔になり、俺達を抱きしめてきた。
「やっぱりか!やっぱり!アハハハハ!こんなに早く会えるとはな!」
意味が解らん。
「坊さん、お前誰やねん。」
「あぁ、俺?俺は、弥勒だ。」
「弥勒?・・・知ってるか?大樹。」
「ううん。」
この頃の俺らはまだ過去を全て知ってるわけやなかった。
「あー、そうか。記憶、まだなんだな。」
弥勒は今の二人の現状を理解したらしく、体を離し、
「俺は過去のお前達の仲間だ。」
「仲間・・・。」
俺と大樹はさっぱり解らん。
シロが俺の肩の上で弥勒に頭を深く下げだした。
(弥勒菩薩様・・・。)
「あぁ。白蛇神。ご苦労だな。」
弥勒はシロに笑みを見せた。
「ここでやっと会えた。寺に来いよ!
過去の話、聞かせてやるから。」
俺と大樹は顔を見合わせた。
全く覚えのない相手やけど、過去を気にしてる俺達は、
弥勒と一緒に着いて行くことにしたんや。
過去の友人に。
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