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vol 66:悲しい物語
土蜘蛛。
それは、人前に現われる姿は鬼の顔、
虎の胴体に長いクモの手足の巨大ないでたちであるともいう。
いずれも山に棲んでおり、
旅人を糸で雁字搦めにして捕らえて喰ってしまうといわれる。
ここは大樹の部屋。
俺は携帯のネットで近辺の妖怪について調べてた。
ベッドに寝転がって携帯と睨めっこ。
(カン、これ。)
「あ?。これか?。」
俺の背中に乗って肩から顔を出すシロの言葉にスクロールする、
指を止めてクリック。
「葛城山の土蜘蛛、カッコ妖怪伝説。」
投稿されている文面を読む。
葛城山の神社には、土蜘蛛塚という小さな塚がある。
これは天皇が土蜘蛛を捕え、
彼らの怨念が復活しないように頭、胴、足と別々に埋めた跡といわれる。
「なんや、悪さして埋められとるんか。」
(・・・悪さと言っても、誰にとっての悪さやら。)
シロの言葉は読み取れる。
当時の人間にとっての不快な存在やったのかもしれん。
真実は誰も知らん。
「カン、ジュースとおかし。」
大樹がトレーにジュースとお菓子を乗せて部屋に戻ってきた。
「何か見つかった?。」
俺は起き上がってベッドから降りて床に座り、
「おぉ。土蜘蛛の話や。」
「土蜘蛛?。」
「シロが反応しよった。
悪さして、頭・胴・足3か所に埋められてるらしい。」
「へぇー。かなり酷いね。悪さしても、
バラバラにされて埋められるなんて。」
「埋められる言うても石が乗ってるみたいや。」
「それって近くなの?。」
「こっから1時間くらいなんちゃう?車で。」
コーラーの入ったグラスを持ち、飲みながらチョコレートを口に入れる。
甘くて俺の好きなチョコレートも、今の話題には甘さも欠ける。
「行きたいんやけど、連れて行ってくれへん?。
見てみたい。」
大樹は眉尻下げて、
「それは構わないけど・・・妖怪なんだよね?
弥勒がいないと危なくない?
安易に手を出しちゃいけない気がする。」
「大丈夫やろ。別に見に行くだけやし。
話しかけんかったらええやん。」
そう言って俺と大樹は葛城山に向かった。
シロは留守番。
シロを連れて行って、
もし土蜘蛛に俺らが霊とコンタクトとれるん知られたら、
何が起こるか解らんから。
細い道を行き、それ程大きくもない神社についた。
駐車場に車を停めて境内を歩く。
普通に観光客のように。
寺の隣の木々の下に大きな長丸の石があった。
気にして見ないと解らない程、影の薄い。
石の隣には言い伝えの立札。
天皇によって成敗された土蜘蛛を封印しているような事が書かれている。
石を見つめる俺と大樹。
何かを察知しようとしてる。
「これが土蜘蛛の塚だね。」
「そうみたいやな。」
その時、風も吹いてない俺と大樹だけの場所で、
石の横の木の枝がパキっと音を鳴らした。
俺と大樹は枝を見ると、枝はカサカサと音をたてて揺れている。
「カン・・・。」
「うん。帰ろう。」
いつもやったら絶対に話かけてた。
でも、なんや居辛い場所や。
何をすることもなく、俺らは帰った。
もう遅い時間やし、帰りに大樹に家の前で降ろしてもうて、
俺は家に帰ったんや。
テレビ見ながら夕飯食って、風呂入って、
ベッドに寝転ぶ。
妖怪・・・人と神との間の生き物。
ほんまに居るんやろか。
パキっパキっ。
部屋の中で神社で聞いた枝の折れた音がする。
気付かれた。
俺は起き上がって声をかけた。
「土蜘蛛か?。」
(その呼び名は好きじゃない・・・。)
部屋に浮かびあがった者。
それは妖怪ではなく人。
30代後半くらいか?。
背の高い手の長い男や。
「人間やん・・・。土蜘蛛の妖怪違うんか。」
男はとても儚げに言葉を紡ぐ。
(俺達は人間だ。妖怪なんかじゃない。)
「なんでここに来たん?。」
(・・・助けて欲しいから・・・。)
「助けるって、土蜘蛛と違うんやろ?。」
俺は土蜘蛛を誤解してたらしい。
(俺達は追いやられてずっと土の中に穴を作って住んでいた。
あまり日に浴びないせいか、手足が長い。)
「ま、まさか・・・お前らの事を蜘蛛みたいな外見やから・・・。」
男は小さく頷いた。
「って事は・・・あの石の下に埋められてるんは人間?!。」
(父さん・・・。)
「なっ!。」
衝撃やった。
妖怪として書かれてることは、人間で、
人間の体をバラバラにして埋めてあるってことになる。
「なんでそんな・・・。」
(俺達の村にあいつらがやって来て、俺達にも仕えろと言ってきた。
村人は皆嫌だと逆らい、戒めに父が捕まったんだ。
体を切られて・・・こうなりたくなければって。
でも、でも俺達は聞かなかった。
するとあいつらは村人を皆殺しにしたんだ。
俺は逃げてる時に弓矢が首に刺さって死んだ。)
言葉が出ん。
悪さをして成敗されたんと違う。
しかも、妖怪やないやないか!。
(父さんに話しかけても、全然反応がないんだ。
何かの力で魂すらも出て来れないでいるんだ。
どうか・・・どうか父さんを助けて・・・。)
この話を聞いても、すぐに返事が出来んかった。
俺がそんな事出来るとは思わへんから。
「話は解った。つーか、俺もめちゃめちゃ腹立ってる。
お父さんをなんとかしたりたい。
待って。俺だけやったら無理に等しいから。」
誰か神の力借りんと。
魂までも出られへんってことは、封印されてるって事や。
そんな力の世界言うたら密教。
婆ちゃんか。
考えて思いついた神は大日如来。
その道のスペシャリスト。
俺は婆ちゃんを呼ぼうと試みた。
(待ちなさいカン。)
そこに現れたんは白い衣姿の男。
(私は阿弥陀如来の元より参りました。
待ちなさいカンよ。この話には深い怒りや怨みがある。)
「そんなん当たり前やろ!こんな事されて、怨まん奴おるかっ!。」
俺は阿弥陀の使いを睨み上げた。
(怒りや怨みで何を救おうというのです。
何が救われるというのです。
霊になっても、まだ戦をさせる気ですか?。)
そう。
怒りや怨みは何も救えない。
解決もない。
また関わった者のみがその感情に支配され、苦しむだけや。
「・・・頭ではわかっとるよ。
でも、気持ちは俺も怒りでいっぱいや。」
(貴方は阿弥陀如来より、この者達を救う役目を与えられた。
その貴方がそれでは困ります。
阿弥陀如来の心を知りなさい。
何を望み、何を貴方にしてもらいたいのか。)
俺は怒りも冷め、自分を落ち着かすことにした。
目を閉じ、
阿弥陀の心。
阿弥陀の本心。
阿弥陀の希望。
あの人は争いを望まない。
何を望む?。
平和、それぞれの幸せ。
ならどうする。
怒りを静め、理解ある方に話し合いを。
(そうです。この者は父親の件もあるが、
仲間も居る。)
「仲間?。」
俺は土蜘蛛と呼ばれる男に目を向けた。
男は小さく頷き、
(村人も一緒に居る。
皆は、父さんが出てきたら・・・あいつらに復讐しに行くと言っていた。)
復讐。
(封印を解かねばならない。
ですが、それはまだ先の事。
皆を鎮めなさいカン。
今やるべき事は、怒りや怨みでは解決できない事を教えるのです。)
「・・・わかった。
お前、名前は?。」
男に問う。
(忘れてしまった。)
「忘れた?自分の名前やぞ。」
(この者は戦や父への悲しみが深く、
もう幾年もその心と皆の怒り、怨みの中にいたのです。
そのせいで自分を見失っている。)
「名前が解らんでもええ。俺はお前んこと土蜘蛛って呼びたないねん。」
男は俺の思いに何か自分を思い出したらしく、
(サン・・・サンと呼ばれていた。)
俺は嬉しくなった。
「サンやな。解ったサン。村人を連れて来い。
阿弥陀さん、一緒におって俺と説得してくれるか?。」
(勿論。)
「えぇか、サン。
一緒にお父さん助けよう?。
その為に、俺はあいつらよりもお前らの方を、
理解ある者、救いたい者に選んだ。
サン、お前の力も必要や。
お父さんを助けるだけやなく、村人の心も救うんや。」
サンは目を丸くして俺の話を聞くも、
すぐに情けない表情になり、
(俺にそんな力は・・・。)
「ある!。なかったら、お父さん助けられへんで!。
サン、俺らには小さい力しかない。
でもな、俺らには阿弥陀如来やいろんな神さんがついとるんや。
自信なかったらそんでえぇ。
見とけ、俺を。
俺は自信有る!。
そう思わな、先には進めんのや。」
サンは目を閉じて、暫くしてからゆっくり目を開けた。
(解った。村人に話して連れてくる。)
サンは消えた。
俺は、あぁ言うたものの、どうやっていけばえぇのか。
やっぱり大日如来に。
(カン。話があります。)
阿弥陀が重い表情で話かけてきた。
「なん?。」
(この話はあの者には今は聞かせられない。
去るのを待っていました。
我々は、あの者達をずっと見てきました。
この時代まで放置していたわけでもありません。
でも、あの者達の怒りや怨みは我々の話を聞ける状態ではなかった。
我々はあの者達を追い込んだ一族にも話しを聞きに行きました。)
「そいつら・・・なんて言うたん?。」
(彼等は彼等で悪い事をしたとは思ってない。
自分たちの場所を守るための行いだったと。)
「はぁ?!。」
俺はまた怒りが込み上げてきた。
(カンよ。時代なのです。
その当時は自分達の支配下を作れと貴族達は教えられてきたのです。
彼等の行いはけして良い事ではない。
ですが、彼等もまた仕方のない事なのです。
彼等に何を言っても無駄に近いと思い、阿弥陀如来は、
貴方を思いつかれた。
貴方なら、犠牲になった者の気持ちを解けると。
この話は今、彼等に聞かせれば鎮めるどころの話ではなくなる。
貴族達は罪を背負って黄泉の国に居ます。
だからこそ、今だに自由を知らず、部下を纏い、
生前と同じ気持ちのままなのです。
カン、彼等を静めたら今度は封印を解かねばなりません。
それは我々は専門外。
大日如来様にお願いできますか?。)
阿弥陀が話している姿は、悲しい表情そのものやった。
「・・・うん。呼んでどないしたら封印解けるか聞いてみるわ。
でも、今はこっちに集中する。
生きてる人間の俺と、阿弥陀が話したら、
きっと解ってもらえる。
せやから、そないな顔せんで?。」
俺は阿弥陀に眉尻下げて笑んだ。
(・・・お前という子は。)
阿弥陀は眉尻下げて俺に笑みを返した。

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