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vol 113:心の痛みと志し
肉体は疲労というやつに侵されて、
眠気に体の重みに怠さ。
「弥勒、疲れてるんだろうからゆっくり休みなよ?。」
「あぁ。」
気遣って言ってくれる大樹に今から眠るような態度を見せるも、
俺にはやらなきゃいけない事が山程ある。
風呂に入った後、自分の部屋に入ってはベッドに仰向けに寝、
直ぐに肉体から離れる。
魂は黄泉の国へ。
「阿弥陀如来。」
「おかえりなさい、弥勒菩薩よ。」
「大日如来。」
「よくぞ戻って来ましたね、弥勒菩薩。」
「天界の神。」
「御苦労。」
「天界の主。」
「おかえりなさい。」
「薬師如来。」
「弥勒菩薩、これを飲みなさい。」
「はい。」
黄泉の国の阿弥陀の部屋に神々の中でも最も、
人間・地球・全ての生き物を尊く愛している神々が集まっている。
いつ来ても緊張しちまう。
薬師如来に渡された薬師の薬水を飲む。
これで、俺の肉体も魂も疲労は消えていく。
「弥勒よ。サタンの動きは如何でしたか?。」
阿弥陀如来の問いかけに神々の真ん中に両膝を地面について、
両手を胸の前で合わせて答えていく。
「サタンは人間に降りました。
下界では有名なボランティアをしている神父の子として。」
天界の神は顔を歪める。
「我々の使いを利用するなど・・・。」
「神父の子、イエスとサタンは契約をし、
生きたままイエスの魂は闇の世界へ。」
主は言う。
「私の名の子であれば、人々の信仰を簡単に利用できます。」
阿弥陀は主に言う。
「しかし主よ。貴方方を心から信仰している人々は、
けして闇の矛盾に気付くはずです。」
主は眉尻下げて阿弥陀に言う。
「阿弥陀如来よ。私たちを心から信じ愛する人間は、
ほんのわずかとなってしまったのです。
私たちの行いを気付ける者は・・・。」
主は顔を小さく左右に振った。
天界の神は御立腹のようだ。
「お言葉ですが主よ、我々神の存在に気付く者に会いました。」
「ほう。」
大日如来は身を乗り出し、
「弥勒、それはどの様な人間です?。」
「はい。アフガニスタンの黒人の子、
まだ幼い童子。チーと申します。」
主は笑みを浮かべ、
「両目を失った黒の子ですね。」
主は知っているようだ。
天界の神もこれには大きく反応した。
「あの子どもは毎晩、私に話を聞かせてくれる。
その日にあった楽しい事のみを。
けして悲しい事を叫ばない強い子どもだ。」
カンが聞けばまたチーの痛みを背負いそうだ。
俺がふと阿弥陀如来の後ろの庭に目を向けると、
「か、カン!。」
庭にカンが現れた。
あいつ・・・なんで。
神々も後ろを向いて現れたカンに目を向ける。
ただ、カンから伝わる大きな気は怒りで満ちていた。
「・・・なんの会議や。
最高神ばっか集まって、午後のティータイムか。」
「お、おい!カン、おま、。」
「弥勒。」
俺は立ち上がって様子のおかしなカンを止めようとするも、
阿弥陀如来の手に止められ、
「我が娘よ。」
天界の神が立ち上がり自分の愛娘のカンに微笑みを見せて、
手をさし伸ばす。
カンは冷やかにその手を見ては触れようともしない。
「ここで弥勒の話し聞いてるっちゅーことは、
俺らがアフガニスタンに行った時、
アンタらはなーんも見てへんかったってことやな。」
コイツ、キレてる。
「天の子よ、今は神々が集まっているのです。
挨拶を。」
大日如来は礼儀にとても厳しい方。
だが、今のカンには火をつけるだけで、
「あ?はっ、はは・・・なんや、
なーんも出来ん、子ども一人救われんアタシは、
アンタらに膝まづいたらええんか。」
思ってた以上にカンは心に傷を負っている。
薬師如来は心配気にカンを見つめ、
天界の神は我が子の胸の痛みを深く感じては目を閉じ、
それに比べて大日如来はいたって冷静で顔色変えず、
阿弥陀如来と主は微笑んだまま。
主が立ち上がり、
「我が妹よ、。」
カンに声をかけようとするが、
阿弥陀如来がゆっくり腰を上げて、
「主よ。」
微笑んで顔を左右に振ってみせた。
俺にはまだ神々のこの暗黙のやりとりを読み取る事が出来ない。
俺はまだまだヒヨっこの神だ。
「ここで・・・ここでこんな話し聞いてる間にも、
女、子ども、年寄り・・・みんな死んでいってるんや!
なぁ~・・・みんな、死んでいって・・。」
「カン・・・。」
立ったまま両手を顔にあてて俯いて、
泣き声で神々に訴えるカンは痛々しくて。
カンの悲しみや怒りはあの世や下界までにも感情を与え、
大きな雨粒の雨を降らせ雷を響かせた。
悲しい涙と怒りの雷。
俺がカンと同じ気持ちになったって、
こんな現象起こせやしない。
でも、俺が一番驚いたのが、
カンがみるみる幼くなっていった事。
泣きながら立ってるカンは背がどんどん低くなって、
小さな女の子の姿に。
心を痛め過ぎて、全てを忘れたいと思ってるんだ。
この国は感情の世界。
姿は感情のまま変化する。
「ふぇ・・ぇっ・・・。」
小さな子どもになったカンは何度も目を擦って泣く。
俺は見ていられなくて、カンの側に行こうとするも、
天界の神は幼くなった我が子を抱き上げ、
「もうよい。お前がこれ程まで苦しむ事はないのだ。
死して戻るがよい・・・天の子よ。」
「ちょっ!待ってください!
カン!お前、なっ!。」
情けない事に俺は言葉を詰まらせる。
天界の神の言葉は肉体を殺し、天界に戻れと言う事だ。
地球を放棄するのか?。
今までやってきた事を無駄にする気か?。
大樹、シロ!。
「わ!洗濯物!。」
慌ててベランダに出て洗濯物を取り入れる。
「急に降って来たね、雨。すごい雷。」
これがカンの涙なんて気付いてやれなかった。
ただただ、カンが帰って来てホッとしてたんだ。
弥勒の叫びにも気付かない。
「カンっ!。」
大きな体でカンを包み込んで光に変えようとする天界の神。
俺は名を叫ぶ。
必死にカンの心に聞こえるように。
「我が愛しい妹よ、ジャンヌを覚えていますか?。」
ジャンヌ?。
主が静かに問いかけた。
天界の神は主に顔を左右に振ってみせる。
主は、
「いいえ、父よ。このままカンを天界に戻せば、
カンはもっと大きな傷を負うでしょう。
この子はそんなに弱くない。
今までも立派に自分と闘って来た。
この時が来るのも我々は解っていたはず。
カンよ、聞きなさい。
昔、神の声を聞き、忠実に動き、苦して死んだ英雄達が、
この神々の国で修業し、
新たにまた下界に降りたっているのです。」
そうか。
「カン!ジャンヌだ!彼女はオルレアンの乙女。
英雄ジャンヌ・ダルク!。」
大日如来は俺に小さく頷いた。
「アグネス・ゴンジャ・ボヤジュもマハートマー・ガーンディーも、
自らの意思で再び降りたっているのです。」
アグネス・ゴンジャ・ボヤジュは神の愛の宣教者マザー・テレサだ。
マハートマー・ガーンディーは偉大なる魂の政治指導者。
そして、英雄ジャンヌ・ダルク。
阿弥陀如来は言う。
「この者達以外にも進んで修業を終えた者が、
どんどん下界に降りる事を志願しています。
それは、カン、お前の事を聞きお前や弥勒、チビ神の力に、
なろうと皆、降りたっているのですよ?。」
俺は一気に安心した。
「カン!チーはもう大丈夫だ。
あのジャンヌが側にいるんだからな!。」
天界の神の腕の中の幼いカンは、
顔からゆっくり手を離して俺を見つめる。
「カン、まだまだ俺らの役目は終わってない。
戻ろう!大樹の元に。
チーや仲間がいる世界に。」
カンはそのまま光になって消えた。
「っ!。」
神々は俺を囲み、
「弥勒菩薩よ、頼みますよ?。」
「我々はお前達をいつも見守り、。」
「お前達を愛し、。」
「信じているのです。」
「さぁ、行きなさい。
次に来る時代を進むのです。」
「我々ではなく、自分を信じて。」
「はっ!。」
目が覚めた時にはベッドの上。
「・・・カン!。」
慌てて飛び起きて部屋を出た。
「あ、起きてきた。弥勒、疲れは取れた?。」
コタツの大樹の声。
「ちょーど飯の出来た時間に起きてくるんかよ、お前わ。」
キッチンから聞えたカンの声に顔を向ける。
俺の顔がどんな顔をしてたのか自分では解らない。
ただ・・・、
「なんや、その顔。アッホみたいな顔して。」
「あの・・・カン?。」
「あ?。」
「コロシテイイデスカ・・・。」
心配した俺が馬鹿だったのか・・・?。
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