vol 5 : 事情 


ベッドの上で、吐き気と重さ、胸の苦しさで苦しむ。
辛い。辛すぎる。
元々が体の内の痛みに弱い体質な為、尚更かもしれない。
自分で望んだ事の深さはこの時は解らない。

(たすけて)

またや。俺は今の状態に苛立ちすらも感じ怒鳴ってしまう。

「何がや!理由あるんやったら言えや。誰やねんお前!」

暗がりの部屋に俺の声が響く。

(姫!姫様っ!)

姫?
助けを呼ぶ声は感覚から言うて女やった。
せやけど、姫と言う感覚は男や。しかも5、6人の気配。
そして俺の体は動けなくなった。金縛り。
金縛りは、とてつもない睡魔に襲われる。
だからと言って眠れるわけでもなく、睡眠と現実の挟間にいるような感覚。
恐怖に無理に体を動かそうとし、目を開けようとするも、
結構、無駄な抵抗やねんな・・・これが。
自然と抵抗も疲れ身を任せるようになる。
目を閉じているにも関わらず、山道の中の光景が広がる。
まるで映画かなんかを見てるみたいや。
山道の真ん中にまだ小学生くらいの女の子が蹲って泣いている。
シクシク悲しそうに。
奇麗な着物とは違う変わった服・・・昔話のおと姫様が着てるみたいな。

(姫!姫様っ!)

あの声や。
数人の槍のような物を持った男達が現れる。

(姫様!こんな所にお1人で。いけません!貴女は我が大和の大事な姫君)

(わたしは!)

(なりませぬ。姫様は我々がお守り致します。ですから勝手な行動は
なりませぬ!)

自由がない。
一人も許されない。昔のしきたり。

(たすけて)

フッと体の自由が戻る。吐き気の重さもない。
起き上がりベッドに座り込み考える。
なんや・・・今の。
説明するのは難しい。
俺のさっきの感覚は、その姫さんって呼ばれてた女の子の意識みたいな。

「だぁぁぁぁあ!なんやってん!」

訳が解らない。霊か?それとも俺の妄想か?
夢なんやろか。でも寝た気は全くせぇへん。
下の階から名前を呼ぶ声がする。ご飯らしい。
不思議なことに、あんだけ辛かった体は全くなにもなくなるから、
これまた不思議なことに、その出来事をすぐに忘れてしまう。

次の日、大和の姫が気になって、学校の図書室に足を運ばせ、
この地の歴史の本を探し調べてみた。

それによると、例のバイト道は昔、大和を納めていた一族が住んでいた場所。
その一人娘、大和姫。
大和姫は6人の家来に囲まれ育つ。
ずっとずっと家来に守られ一人になることも許されなかった。
大和姫は反乱に巻き込まれ殺されてしまう。
家来と共に。

この続きが今もあるということ。
死んでもなお、家来達は姫を守ろうと、姫を一人にしない。
死んでいても関係ないってことや。
そんなん・・・家来はすごい忠誠心やけど、姫さんは自由は一生ないやん。
俺は悲しくなった。
あの、たすけての意味はきっと自由になりたいって事なんやと思う。
授業中もそのことばかり考えてた。
学校が終わり、自転車を漕いで大和の古墳に向かった。
自転車を入口の石の所に停めて、歩いて細道を登る。
そこには大きな石が積んであり、木札に由来が書かれてある。

(大和姫・・・聞こえるか?)

俺はそれが聞こえていなくとも心の中で話しかけてみた。

(なぁ・・・ごめんな?俺な、まだ聞こえるだけやねん。
君が悩んだり悲しい気持ちは伝わるんやけど、俺にはなんでか、
胸が苦しくなったり頭痛がしたりで堪らんようになるねん。
せやから、君の声も聞こえにくくなるんや。
自由になりたいやろな。死んでまで・・・)

風が強まり大きく木々が揺れザワザワと音がする。

(貴様!何を申すか!姫様がなぜ辛い!我々が守っているのだぞ!)

家来達が俺の声に反応し怒りに満ちている。

「違う!それは違うんや!・・・生きてる時はな、
アンタらが守る使命は素晴らしい事やと思う。
せやけど、せやけど今は守らなあかんか?もう敵はおらんねん!」

(我々は誓った。姫と共に過ごし姫を守ると)

「違うねん・・・そうやないねん。大和姫の気持ち聞いたって欲しいねん。
生きてる時も自由なく一人になれることもなく・・・」

上手く言えない、上手く伝わらない事に頭の中がグチャグチャになる。
なんなん俺。何がしたいん?その時代を解ってないからか?

(小僧!無礼者め!)

家来達が罵声を浴びせる。辛い。

(待ちなさい。)

大和姫の声や。俺は罵声に顔を上げれずに伏せたままやった。

(幹・・・幹、ありがとう。来てくれたのですね?)

可愛らしい幼い声と共に悲しみじゃなく暖かい気持ちが溢れてくる。
何かがフワリと俺を包み込む。

(幹、私の気持ちを解ってくれてありがとう。それだけで私は幸せです)

(姫様!何を!)

(ごめんなさい。この者が申した通り、私は好きにしたい。)

(姫様!)

(もうよいのです。我々の時代は終わったのですよ?
皆も自由になりなさい。勤めは終わったのです。)

(・・・)

家来達はザワつき、初めて自分たちに反発した姫に戸惑いを隠せずにいる。

(我々はそれが使命。それがなくなれば我々の存在の意味がない。)

「あるよ。」

(何?)

「存在の意味はあるよ。あんた達は道具と違うやないか。
今から使命を離れ、自分たちのやりたい事を見つけたらええんよ。」

(幹・・・)

「なぁ、大和姫。こいつらもいきなり言われたら寂しいもんやで?
姫について来てもええやん。これからは姫も楽しんで、その楽しみも、
こいつらに味あわせたってや。そしたら自然とみんな意味が解って来るよ」

(・・・そうですね。今までこんなに慕ってくれたもの。そうですね。)

大和姫が微笑んだような気がする。
家来達は、初めての姫の笑みに強気だった気持ちが綻んでいく。
身に染みて感じたんや。

(幹、ありがとう。たすけてくれましたね。
我々はあの世に参ります。ですが、そなたに何かあった時は必ず、
力になりましょう。そなたの元に参ります。家来達と一緒に。)

優しく落ち着いた声。
家来達はまだ同様してるようや。
風が再びザワザワと音を立てる。

「姫?」

呼んでも何も返事がない。
空を見上げると午後の青空が広がる。
なんや・・・嬉しい。
これが松吉の言うた聞くということから始まり、事情を知って、
解決に終わる。解決できたのかは解らない。
でも、これだけは言える。
大和姫は泣いていた始めと違って、今は堂々と活き活きとしていたこと。

俺の携帯が鳴り響く。

「もしも」

『もしもし!カン?お前大丈夫か!』

「大樹・・・」

『今どこだ!大丈夫なんだろうな?』

「・・・大丈夫やで。大丈夫や。今から松吉のとこ行く。」

俺の明るい声に大樹は良かったと安心をする。
こんな気持ち初めてや。
この空の様に清々しく凛とした気持ち。
やっぱり、かなり地味やけど・・・これ俺が望んでたことかも。

俺は細道を下り、自転車に乗って日課の織田家に向かった。

                





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