vol 210:死に近い場所






イスラエルの空港を出て、

街を見て驚いた。

「なんなんだ・・・此処は。」

行きゆく人々に天使達がピッタリと憑いている。

全員と言っていいほどに。

「シロ・・・。」

「うむ・・・。」

俺はシロとその光景に圧倒されて暫く立ち竦んだ。

しかし、

やはりこれだけの天使の数。

我々の存在は直ぐにバレてしまう。

(もし?。)

年老いた老婆の天使が声をかけてきた。

(やはり私共が見えるのですね。)

「あぁ。我々は黄泉の国の者。」

(黄泉の国・・・。)

「そうだ。貴方達の聖域を一目見たくて来たんだが・・・。
この国では、ずっとこの状態なのですか?。」

再び、人々に目を向ける。

(この状態とは・・・あぁ、天使達の事でしょうか?。)

「えぇ。」

(いいえ。時が近づき、天界の神や主、
アラーの神を信仰する者に、
それぞれの天使が憑きだしたのです。)

老婆はニッコリと笑んだ。

不思議な事に、時とは、終りの事。

普通なら悲しみに満ちているはずなのに、

笑んで話しをする老婆。

俺は敢てそこを聞く事をしなかったんだが、

「そなたは何故、この状況を笑むのだ。」

シロにはその察するということがまだ欠けているようだ。

(何を申されます。
終りが来れば、楽園が待っているのです。
ここにいる神の子たちは、
皆その時を心待ちにしているのです。)

「楽園・・・。」

「弥勒・・・。」

シロが俺に言いたい事は解る。

だが、今それを言うと一気に罵倒として捉えられる可能性がある。

シロに小さく首を左右に振った。

「どうもありがとう。」

老婆に礼を言うと、シロとホテルへと向かった。

ホテルの部屋の全体を他の霊が入って来られないように、

結界を張る。

「ここの霊共は現状を理解していないのか。」

「みたいだな。」

「天界の教えはどうなっているのだ・・・。」

「天界の神や主が言わないわけもないだろう。
天使だが・・・修業中の者や、
教えている者が問題のケースなんだと思う。」

天界にも様々な場所があり、

頂点は神だが、

様々な場所にはまた、神がいて、

その神にもピラミッド型に天使達がいて。

どこかで、教えや理解が変わって下の者に伝わっていく。

「なぁ、弥勒よ。」

「ん?。」

「おかしいと思わぬか?。」

「天使ばかりで、闇の者がいない。」

「うむ・・・。
天使がいるからなのだろうか。」

天使達の数で、

闇の者がここには何も出来ないのか。

そこに疑問が生じる。

「いや・・・違う気がする。
あの考え方は、まるで終りを待ち望んでいる。
闇の者が手を下さなくても、
ここでは常に聖戦の観念があるから・・・。」

「ほっといても自滅というわけか。」

「死して楽園とは考えていないだろうからな。」

シロは顔を顰めて俯き顔を左右に振った。

守っている者が、終りを望んでいるからだ。

じゃあ、

ここで人々に憑いている天使は何故憑いているのか。

守っているというのは理が合わない。

死を心待ちにしているのだから、

守る必要はないわけだ。

「弥勒よ・・・。
お前がとても葛藤しているお前の役目を、
ここの天使たちは喜んで待っているのではないのか?。」

「!?。」

俺は絶句した。

そうだ。

終りが来て、この者達は助けるわけでもなく、

ただ、自分の憑いている者が亡くなるのを、

心待ちにし、

自分たちの場所に連れて行くことを、

喜んでいる。

「頭が狂いそうになるな・・・。」

聖地の国。

ここは、特別な場所であり、

始まりの場所であるが故に、

清らかさよりも、一番死に近い場所に思えた。







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