vol 207:若者の苦しみ





「今日の気分は?。」

「すごく煩い・・です。」

「どんな声が聞こえる?。」

「たくさんの重なった声・・・。」

「何を言ってるのかわかりますか?。」

耳を澄ましてみる。

(オマエノコトハ変人ダト思ッテイル。)

(言ウダケ無駄ダ。)

(マタ、薬?。)

(我々ハ存在スル。)

俺は耳を両手で塞いだ。

いくら塞いでも塞いでも、

頭の中に声が響く。

「松本さん?
松本さん、大丈夫ですか?。」

看護師さんが先生の声で、俺の塞ぐ両手を掴んだ。

「いつもの薬出しておきますんで。」

「はい・・・。」

診察室を出て待合で薬が出るのを待つ。

安定剤と睡眠薬。

まだ俺は高校生なのに、こんな精神的な病気にかかっている。

学校も行けずひたすら家でボーっと過ごしてるんだ。

幻聴に悩まされたのは、

ここ、何ヶ月か前で。

微かに聞こえていた声も、今じゃハッキリと聞こえる。

「どうだった?。」

「別に。いつもと同じ。」

付き添いの母親。

声を遮断したくて、ヘッドフォンを耳につける。

音楽を聴いてると声が聞こえなくなるんだ。

「お母さん、先生の話し聞いてくるわね。」

母親が診察室に入っていく。

「先生、あの子は元に戻るんでしょうか。」

「お母さん、ストレス要因がわかれば、
少しづつそこから離していけるんですが、
彼の場合それが何か解らない。
話しを聞こうとしても、
耳を塞ぐばかりで。
家では暴れたりしますか?。」

「えぇ・・・。たまに。
一人なのに大声で叫んで部屋で物を投げたり・・。」

「・・・最悪、施設で入院させた方がいいでしょう。」

俺の声は他の奴に聞こえない。

母親と電車に乗っている帰り道。

「わ!。」

「どうしたの?。」

「クソ!クソ!。」

ipodの充電が切れた。

やばい。

やばい。

最近、使い過ぎのせいか、切れるのが早い。

(誰モ理解シテハクレナイ。)

(変人メ!。)

(死ネバ楽ニナルノニ。)

煩い・・・。

煩い煩い煩い。

「う・・るさい。」

両手で両耳を塞ぐ。

自然と体が前後に揺れるんだ。

必死で声を遮断しようとしてるから。

(見ロ。母親ノ顔。
オマエガ変人ニ見エル。)

(カッコワルイワ。死ンデクレナイカシラ。)

「うるさい・・・うるさい・・・。」

「ちょっと、薬飲む?。」

「うるさい!。」

車内で大声を母親に向かってあげた。

「どうせ、俺の事変人だと思ってんだろ!
はっきり言えよ!
死んで欲しいんだろ!かっこ悪いんだろ!。」

自分がもう解らない。

母親は涙を溜めて憐れそうに俺を見る。

「落ち着いて。ね?。」

再び両手で耳を塞ぐ。

体を前後に揺らし。

そこに男が近寄って来た。

「あの~、隣座ってもいいですか?。」

母親はその男をキョトンとして見、

「いえ、あの・・。」

どう答えていいのか解らないみたいだ。

それでも男は俺の隣に座った。

(コイツモオマエヲ面白ガッテル。)

(変人ヲ見タイ。)

「んなわけあるかい。」

男が小さく呟いた。

「どこが変人やねん。
お前らがそうさせてるだけやろう。
この子は正気や。」

(・・・。)

(オマエ何者ダ!。)

(我ラノ声ガ聞コエルノカ!。)

「おう、はっきりなぁ。」

俺は驚いた。

俺にしか聞こえていないはずの声と、

隣の男が会話をしてる。

「お前らどこのもんや。
闇の住人か?。」

(偉ソウナ人間メ!。)

(何者ダ!。)

(何者ダ!。)

「こんな若い子がターゲットなんやなぁ。
見た以上、ほっとかれへん。」

男は両手を俺の頭に触れさせた。

「お前は病気でもなんでもない。
これは現実や。
もっと、自信もたな操られて命落とすで?。」

男は目を閉じた。

何ヶ月も重かった頭が軽くなってくる。

何が起こってる?。

「あんた・・・俺の声が聞こえるのか?。」

「めっちゃ聞こえるで?
よう今まで耐えたなぁ。
よう、頑張ったなぁ。」

母親は目を丸くして俺達の会話を聞いてる。

(ギェェェェェ。)

(グヌヌヌヌヌヌヌ。)

(ナンダ!コノ光ハ!。)

(眩シイ!眩シイ!。)

(オマエハ誰ダ!。)

「俺か?
俺はお前らとは逆の者や。
この光で解らんのがドアホ。」

(ギャァァァァ!。)

最後に聴こえたのは、とても苦しんだ悲鳴だった。

男は両手を頭から離すと、

俺の肩を叩いて笑顔を向け、

「おし!これで声は聞こえんはず。
今後、聞こえたとしても、
負けんと、
無視するんや。
あんまり酷かったら、これやるから。」

玉?。

真っ赤な石の玉。

「これ数珠の1個なんやけど、
紐通してネックレスにしとき。
自分でどうにもならんとき、
この石を掴んで出て行け!って心の中で念じたらいい。」

「この、この声は一体何?!。」

ずっと疑問だった。

俺の妄想だと思ってた。

「悪魔や。」

ニッコリ笑ってから、

この時代に有り得ない単語を言う。

「お母さん、彼はどこも悪くないし、
声が聞こえてたんも事実。
この事実を母親であるアンタが一番理解してやって欲しい。
薬なんか飲ませたらアカン。
この子は正常なんや。
ええな?。」

母親はコクコクと頷いた。

そのまま男は車内を移動していなくなる。

何日か後。

「ちょっと!健!見てちょうだい!。」

「なに~?。」

すっかり幻聴もなくなって、

普段の生活に戻った。

たまに声が聞こえるも、

言われた通りにすると声は消える。

母親に言われてリビングに行くと、

「この人!。」

TVにあの男が映ってる。

「作家で有名人らしいのよ!。」

「えぇ!マジで?!。」

戌尾カン。

俺は命の恩人とも言えるこの人の事をネットで調べて、

小説も読んでアニメも見た。

手紙を書く。






カンさんへ

以前、電車の中で幻聴で苦しんでいた者ですが、

覚えていらっしゃいますか?

TVでカンさんだと知って母親と一緒に驚きました。

あれから、たまに声が聞こえるんですが、

どうしようもなくなったとき、

言われたようにやると声はなくなります。

悪魔の仕業って言ってましたね?

カンさんの小説も読みました。

アニメも見ました。

フィクションなはずなのに、

なぜかフィクションに思えません。

自分も体験したからだと思うけど、

カンさんのメッセージに、

フィクションだけどフィクションじゃないって。

もしかして、

世の中危ないんですか?

小説に書いていることが本当なら、

僕に何か出来ることはありませんか?

今度開かれるカンさんのチャリティーに、

母さんと参加しようと思っています。

本当に、お礼が遅れてしまいましたが、

ありがとうございました。


松本 健










「カンさん、ファンレター。」

「あー、どもー。」

数十枚あるファンレターの中で、

彼の手紙を見付けることは簡単やった。

健言うんか。

そうや、ちゃんと俺の言葉キャッチしとるやん。

こういう子が増えてくれると、

また、ひとつ光がでかくなる。

「きゃぁ!。」

「また地震!。」

この所、日本でも地震が増えた。

海外では大きな地震でまた被害者が続出してる。

そんで内戦。

「カンさん、大丈夫ですか?。」

「うん、俺は大丈夫や。
俺は・・・な。」












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