vol 206:弥勒とシロの決断





「カン、大樹話しがある。」

弥勒が珍しく改まって話しあるとかぬかす。

大樹と俺はリビングに呼び出されて、

弥勒、大樹、シロ、俺が集結。

「なんやねぇ~ん。
俺まだ映画版の脚本書かなあかんねんって。」

ぶぅ~ぶぅ~言う俺に弥勒が真顔で重大発表。

「俺とシロでエルサレムに行こうと思ってる。」

「え?。」

大樹の表情が強張った。

「なんや急に。」

「いや、言い方は良くないが実体験してこようと思うんだ。」

「実体験て・・・。」

「ま、待ってよ。
シロはまだ子どもだよ?
それに、実体験ってどういう意味?。」

シロは大樹の言い方に不服そうに、

「兄様・・・我は子どもではない。」

「エルサレムに何をしに行くん。」

弥勒は説明する。

「あの場所ほど、宗教に密接していて、
人間が宗教での争いをしている場所はないだろ。
ユダヤ教、イスラム教、キリスト教が、
自分達の聖地だと戦火の及んだ回数は半端ない。」

「そ、そんな所に言って何を知りたいんだよ!。」

大樹が感情を乱した。

心配なんや。

大樹の気持ちは解る。

「せやけど・・・お前、
ユダヤ教・・・やぞ?。」

「ユダヤ人は過去、とても差別の中で生きて来た人間。
彼等の声も聞いてみたいんだ。」

なんで、黄泉の国の弥勒が、

天界の方の国に行こうとするんか。

それは、天界が始まりの神やからや。

神と人間に密接した関係がある国で、

俺の兄、主が命を落とした場所。

「主が永遠の魂を授けた場所にも行ってみたいしな。」

弥勒は笑んで俺を見る。

「ゴルゴダの丘か・・・。」

「あぁ。」

「でも!シロには危険すぎる!
何があるか解らないし、
それに、あの場所は・・・。
シロやお前は異教徒になるんだ!
霊だってあそこの神だって、
お前らを見たらどういう態度に出るかわからないだろ!。」

怒り口調で声を荒げる大樹の手を握り、

「ちょー、大樹、落ちつけ。」

「カン!平気なの?!
自分たちの宗教が唯一の存在で、
その為には血を流すことも平気な人だっている。
俺は生きてる人間よりも死んだ宗派の霊に、
弥勒やシロの存在を知って何かされるんじゃないかって、!。」

「大樹、それを怖がってたら、
俺たちは前に進めない。」

弥勒が大樹に声をかけた。

「兄様、我らはもっと知らなければならない。」

大樹は歯を食いしばり立ち上がって寝室に入って行った。

「めちゃめちゃ心配なんやな。」

「そこまで心配しなくても・・・。」

「いやぁ~。だってほら、
いくら魂は黄泉の国の神でも、
ここでは脆い人間やん。
死にもする。」

ヘラリと笑って言う俺に弥勒とシロは真顔になる。

「しかし、カンよ。
我らにはお前の国の教えで、始まりの宗派の人の争いを、
もっと目の当たりにしなければならぬ。
最後の日が近付いていることも、
彼等が一番知っていそうだ。
その上で、どう考えているのかを知りたいのだ。」

「・・・。」

「ここで死んだら俺らの意味がないだろ。
神々の御加護もあるし、
何よりそれ程、心強いことはないよ。」

弥勒は笑みをこぼす。

「わかった。
大樹も、理解はしとると思うし。
ただ、シロが心配なんやろ。
見た目は子どもやし?。」

俺は立ち上がって、大樹を落ち着かせてくる言うて、

寝室に入った。

大樹はベッドに座って俯いてる。

「た~いじゅ。」

隣に座って大樹の肩に甘えるように頭を預けた。

「カン・・・ごめん。
取り乱して。」

「ん~?いやぁ、当然やろ。」

「大丈夫だって解っているのに、
ずっと一緒に居たから・・・。」

「そやな。寂しくなるな。
けど、すぐ帰ってくるやん。
シロも、どんどん成長しとる。
アイツなんか、元々は自分の国しか認めませ~んの奴やったやん。
なんや、俺は嬉しいわ。
いや・・・俺も行きたい・・・。」

俺の言葉に大樹は顔を上げて抱きしめ、

「だ、駄目!
カンは駄目だよ!
これ以上、全てを背負わなくていい!
悲しい思いしなくていい!。」

「大樹・・・。」

大樹を抱きしめ返して、

「今の俺にはやること身近にいっぱいあり過ぎて、
それを放棄できんから行かれへんて。
でも、兄ちゃんが苦しんでまで、
命張ってまですごい事した場所には、
1回行ってみたいなぁ。」

「うん・・。」

「そん時は大樹も一緒に来てくれる?。」

「も、もちろん!
絶対行く!。」

「おう。」






ある意味、

弥勒やシロが行こうとしている場所は、

俺にも関係してる場所やと思う。

神々が人間に神業を見せた場所でもあり、

再びチャンスを与えた場所でもあって、

神と人との始まりの場所とも言える。

その場所に俺が立つ日は、

そう遠くないって思った。









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