ジーニアス・レッド

01 こうして二人は出合った(1)
「びっくりしただろ! 何でこんなトコで寝てるんだよっ!」

02 こうして二人は出合った(2)
「名前! 下の名前も教えろよっ」

03 どうしてアタシなの?(1)
このブレーカーを返さなくちゃいけない。でも、いっそのこと知らぬフリをして、黙っていようか。

04 どうしてアタシなの?(2)
冬にしては暖かい日だまりの中で、自分の手を握る久志の熱い体温を感じ取り、目の前がクラクラする。

05 これはきっと恋じゃない(1)
「やめとけ。三浦という生徒は、お前がちょっかいを出していい、相手じゃない」

06 これはきっと恋じゃない(2)
一度見えてしまえば、雪代の絵の中にそれを認めるのは、簡単だった。

07 助けてといえたなら(1)
世界は、そんなに優しくない。人間も弱肉強食を原則として、地球上に生きている。

08 助けてといえたなら(2)
彼女は赤く汚れたトイレットペーパーを便器に投げ入れると、コックをひねり、流れ出る水の渦を見つめた。

09 迷える子羊(1)
オマエの世界が孤独で、孤立しているものなら―――オレも、そこへ行く。

10 迷える子羊(2)
何をいった? 今、彼女はオレにむかって、何といった?

11 ジーニアスレッド
だったら、こう呼ぼう。A genius red―――非凡な赤。

12 雪代の過去(1)
彼の視線がほんの一瞬、どこに向かったか。思い出しただけで、恥ずかしさに全身が熱くなる。

13 雪代の過去(2)
右腕の針を刺していた場所から、赤い線を描いて、血が流れ出ていた。

14 だから、彼女を守る(1)
雪代が泣く理由は、たくさんある。安易に同情してはいけないと、久志はわかっていた。

15 だから、彼女を守る(2)
『親でさえ、見放してる』「だから、助けたいんだ」

16 家族(1)
紹介され、顔が強張る。何か、悪い冗談のように思えた。

17 家族(2)
あぜんとする雪代の左手が、強く握られ、彼女は体を固くした。

18 久志の苦悩(1)
杉浦は、「つくづくお前らって、変な組み合わせだと思うよ」と呆れたようにいった。

19 久志の苦悩(2)
走っているうちに、頭が真っ白になる。そして疲れ切ったら、寝てしまえばいい。

20 解け合う夏(1)
久志は父親が、事故で死んだとは思っていなかった。

21 解け合う夏(2)
「そんなあたしを、嫌いになって欲しかった」

22 勝利をこの手に
久志にとってマウンドを退くことは、体の投げろ、投げろ、という要求に逆らうことだ。

23 帰郷、そして再会(1)
通り過ぎる車の中から、懐かしい気持ちになって眺める。家はもう、すぐそこだった。

24 帰郷、そして再会(2)
顔を上げて、久志は父の遺影を見た。

25 たどり着いた、その先に(1)
テストが終われば、午前中で学校も終わるこの日を、雪代は心待ちにしていた。

26 たどり着いた、その先に(2)
「あたし、ずっと怖かった」

27 遅い思春期(1)
野球をしていなければ、気がつくといつも、彼女のことばかり考えていた。

28 遅い思春期(2)
ゆっくりと変化し始めた生活が、これまでにない大きな転換期なのだと痛感する。

29 過去との決別(1)
正気を失うほどに、とつぶやき、目まいがした。

30 過去との決別(2)
初めて名前を耳にした時、聞いたことがあると思ったのは……。

31 こうして二人は結ばれた(1)
雪代の右手をつかみ、引き寄せると、久志は歩道の真ん中で立ち止まり、彼女と唇を重ねた。

32 こうして二人は結ばれた(2)
雪代は、満面の笑顔になった。「久志と一緒なら、大丈夫」

33 大人になるということ(1)
久志は笑いながら、「ここにも、もう一人子供がいるよ」と、雪代の体を揺らした。

34 大人になるということ(2)
「……お母さん」何も返事はなかった。「雪代、です」

35 大人になるということ(3)
雪代は気が付いた。久志が指を置いたのは、ナイフで刺された傷の跡が残る場所だった。

36 そして世界は赤く染まる(終)
きっと、もっと好きになる。そして、もっと、もっと好きになる。