夏草薫る

01 雨上がる
良忠を良く知る加代にとって、早苗の稽古に付き添い、出仕途中の彼と毎度のように顔を合わせることは、苦痛でもあり、胸躍ることでもあった。

02 梅雨の晴れ間
中津村から、加代より三つ年上である兄の加平が、鈴木の屋敷まで彼女を迎えに来た、その日は、梅雨の時季には珍しく、朝からよく晴れていた。

03 夏祭り
さほど遠くない家に頼まれた包みを送り届けた加代が、祭りを見に行こうとして、多一郎と出くわしたのは、武家屋敷の間を抜け、町人町へ出ようとした時だった。

04 赤い櫛(くし)
たくさんの葉が生い茂る、大きな木が道の両側をふさぐ、人気のない辻で、良忠は突如、手綱を絞り、馬を止めた。