vol 176:伝わらないこと






静かに泣いて地面が揺れる度に地面を撫でるカンの手は、

土で汚れている。

「ここは、どこなの?カン。」

うつ伏せのままのカンの背中をゆっくり撫でてやりながら、

少しずつ話しを聞く。

「ここは・・・地球の上。」

「地球の上?
さっきから苦しそうな息遣いは?。」

カンは片頬を地面に触れさせ、

「地球。」

ポツポツと言葉を漏らす。

今俺が座っているこの地面が地球だと言う。

地面が揺れる度に苦しい息遣いは地球だと言う。

「大樹・・・俺わからんようになってきた。」

「ん?。」

「自分は地震を止めてもらう為に、地球に頼みに来たんや。
昔、パパとここに来たことあって・・・。」

「・・・うん。」

静かにカンの話しを聞く。

「そん時は綺麗なサラサラな砂地やったんや。
その砂で遊んだ。地球と一緒に遊んだ。
それが・・・こんなに硬い赤黒い土になってて、
主の血が流れた場所だけがサラサラの砂で・・・。」

カンが話す間にも地球は苦しそうに地面を揺らし、

カンは上半身を起こして声を荒げた。

「地球がこんなに苦しんでるんは人間のせいや!
こんなに苦しんで我慢して来た地球に、
俺はまだ我慢せぇ言うんか?!
なんも変わらん人間の為に、我慢するしかない地球に、
まだ我慢せぇ言うんか?!。」

「・・・カン。」

「そないなこと・・・おかしいやろ・・・。」

怒りと悲しみに満ちたカンの叫びが、

なぜ、全ての者に伝わらないのか。

カンもきっと同じ事を思っているよね。

なぜ、地球のこの声が聞こえないのか、

この苦しみが伝わらないのかって。

「カン?。」

俺は顔を伏せて泣くカンの頬に手を伸ばして触れた。

「俺にはカンの気持ち伝わってる。
誰よりも伝わってる。」

「たい・・じゅ・・・。」

そっと顔を上げて眉尻下げて見つめるカンに、

俺は親指で頬を撫で、

「でも、それはきっと、俺はカンを愛してるから。
いつもカンを想って、いつもカンを見てるから。
地球をいつも想って、いつも地球を見てる人がいれば、
少しでも、サラサラな砂が戻るんじゃないかな。」

「地球を想って・・・地球を見る・・・。」

カンは少し考えたように動きが止まり、

何かを思いついたように俺の手を握って、

「そうや!そうや大樹!
それや!。」

俺は自分の言葉がカンに何を与えたのか解らなかった。

カンは自分のエネルギーの全てを、

両手を地面につけて地球に注いだ。

地球の揺れは徐々に小さくなり、

揺れは完全に止まる。

地面に崩れ落ちるカンに俺は慌てて抱きしめ、

「カン!何やってる!。」

「大樹・・・応急処置や。
地球・・・ごめんなぁ。苦しくなったら力、
ちびっとやけど、あげるから・・・、
もう少し待ってて?。」

「・・・カン。」

「大樹、悪いんやけど、連れて帰ってくれ。
自分で体に戻れそうもない。」

弱々しく笑みを向けるカンの体を抱き上げて、

子狐たちに目を向けると、

子狐たちは、カンを真似るかのように、

地面に頭ごとつけて地球に力を分け与えていた。









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