vol 173:黄泉の国の神とは






頭では理解しているのに、

肝心の心がついて来ない。

かっこ悪い。


口から出る言葉は意外なもので、

「だいたい、お前に何が解る?!
幼い頃からこの役目の為に学び、
あの世での俺の人生は決まってたんだよ!
でも、それに疑う事すらしなかった。
俺は生きる者を救う為にと・・・っ、。」

地面に崩れ座り込む俺。

カンの言う通り、

俺は今まで何をやってきた?。

死んだ人間を救うと、後半で解ってた事じゃないか。

「弥勒・・・その気持ち大事にせぇよ?。」

今の俺の状況で、そんな言葉を言われ、

度肝を抜かれた。

ゆっくり顔をあげると、

カンは笑んで俺の肩に手を置いた。

「それが、神であろうとぶち当る壁なんとちゃう?
今まではほら?
頭で考える事が多かったやん。
せやけど、実際目の前に起こったら、
躊躇したり、悩んだり、新たな感情が出てくるのは、
おかしな事やないよ。
神でも完璧な神なんかおらん。
お前がここで何も出来へんねやったら、
それはそれでかまへん。
代わりに俺がやるだけや。
そこで見とけ。」

カンは俺から離れると、
彷徨う魂、一人一人に近付いて、

(なんで死んだ!
嫌だ、まだ生きるんだ!。)

暴れ狂う魂に、

「もう肉体は無いんよ・・・。」

言葉に詰まらせながら説得する。

(アンタ神様か?。)

「あー・・・キリスト教の方の、。」

(俺はキリスト教なんかじゃない!
阿弥陀様ぁ~。
阿弥陀様ぁ~。)

男は泣きながら両手を合わせ自分の宗派の神を呼ぶ。

カンは男の腕に触れるも、

振り払われ、

それでも、あきらめずに声をかけ、。

俺は下唇を噛みしめた。

駄目だ。

駄目だ駄目だ駄目だ!。

こんな乱れた俺を認めてくれてる仲間が、

必死で自分のやる事を後回しにしてでも、

俺に教えようとしてる。

解ってるだろ、弥勒菩薩。

俺は弥勒菩薩。







目を閉じて心を落ち着かせる。

無になり、

大慈悲の教えを思い浮かべる。

我々の存在。

我々の役目。

俺を信仰し、信じ手を合わせて来た人々。

全てを思い出した時、

俺はオレンジ色の光を放った。

宙に浮き、

皆に声をかける。

心に届く声を。






「我は弥勒菩薩。
苦しむ者よ、我の光に集まり、
阿弥陀の国へ。」

ゆっくり合わせた両手を広げ、

その場に黄泉の国への入り口を作りだす。






(おぉ、弥勒菩薩様!。)

(菩薩様・・・。)

(ありがたや・・・ありがたや・・。)






沢山の魂が俺に向かって集まりだす。

「ほら、アンタの神さんが来たで?
もう、何も心配ないやろ。」

カンが声をかけていた男も俺の光に寄って来た。






「カン・・・悪い。
もう大丈夫だ。お前のやるべき事に向かってくれ。
ここが終われば、水害の場所に向かう。」

カンは俺を見て片手を上げて、

「おう!頼んだで?弥勒。
後で、一緒に愚痴大会しようや。」

俺は何も変わらないカンに笑みを見せた。






神であろうと、感情のある生き物に変わりない。

ただ、人よりも力を持ち、

自分の事よりも弱い者の力になろうと日々動いている。

天界は知らないが、

黄泉の国の神は元が人であった神が多い。

人の感情を上まってしまい、

もっと、自分に出来る事はないかと悩み苦しみ、

永遠に問う事を終わらせない人々。

それが黄泉の国の神なんだ。

神であろうが、

生きている者と感情は何も変わらない。

紙一重の欲を理解し、殺し、

怒りを理解し、殺し、

人の幸せとは何かを求め、

人の幸せを自分の幸せのように喜び、同じ幸せを感じられる。

それが我々、黄泉の国の神なんだ。









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