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vol 169:不動明王の国
「あっつ。」
大日如来の国にある、火に囲まれた国。
ここは不動明王の国。
カンに言われて俺はひとりその国に来た。
入り口の門が見当たらない。
「こ・・これ、入り口がないよ。」
国を囲っている燃え上がる炎。
どうやって中に入るんだろう。
中に入るにも、火の中を行くのか?。
どれだけ考えたかわからない。
どうしよう。
早く止めなきゃいけないのに・・・。
炎に手を近づけてみる。
「ちっ!。」
熱い。
無理だ。こんなの中に入れやしない。
俺はカンを呼んだ。
暫くしてカンは来てくれた。
あの世では女の子で・・・俺の可愛い愛しい人。
「大樹、おま・・・なにやってんねん。」
「え?あ、ここ入り口がないんだよ。
全部火で囲まれてて。」
俺の言葉にカンは頭を掻いて顔をしかめ、
「お前はほんまに黄泉の国の出身者か?。」
「え?・・・ちょ、カン!。」
そう言ってカンは普通に炎の中に歩いて行く。
慌ててカンの手首を掴んで引き寄せた。
「危ないよ!何考えてるの?!。」
「大樹・・・不動明王の炎の意味は?。」
不動明王の炎の意味?
「意味って・・・地獄の業火・・・。」
「それと?。」
「暗闇を照らす火?。」
「正解。それと?。」
「それ・・・と?。」
「感情の世界のこの炎、目で見るから熱いと思う。
怖いんやったら目瞑って歩け。」
逆にカンに手を掴まれ引っ張られた。
燃え盛る炎に近付いて行く。
カンはなにくわぬ顔で歩く。
怖い。
俺は強く目を閉じた。
耳には炎のゴーゴーという音が鳴り響く。
「大樹・・・。」
「大樹!。」
「ん?。」
「目開けろ。」
カンに言われて瞼をゆっくり持ち上げた。
沢山の彼岸花が咲いた地面に山から水しぶき。
滝だ。
何人かの人がいる。
「うわぁ~。すごいな。
カン、どうやって中に入ったの?。」
「・・・まだ言うか。
神の業火に焼かれると思ってんのか?
しかもあの世の不動明王の国に入る事で。」
そう、俺は炎と言う物を見てた。
人間でいたせいか、人間としての感覚で。
心を落ち着かせ、もう一度炎に指を近づける。
無心のまま何も考えず。
炎の中に手を入れ出迎える温かい不動明王の炎の感触。
「はぁ・・・カン。
俺情けないよ・・・、こんなにも温かいのに。」
カンは俺を見て笑った。
「あはは、しゃーないって。
大樹の反応がごく普通や。
この国の第1の修業は、この燃え盛る炎の門をくぐる事。
それが出来ない奴は不動の国で修業は出来へん。」
「ごめんね、カンも阿弥陀の国に行ってたんだろ?。」
「あー、まぁかまへんよ。話しの途中で出て来たんやけどな。」
笑顔で話すカンに自分の情けなさが増す。
滝に向かって歩き出すカンに俺は、
「カン、もう大丈夫。
俺一人で行くよ。」
「え・・・俺もついて行くで?。」
「ううん、俺ひとりで行かせて。
俺の初めての役目だから。」
「大樹・・・。
そっか。わかった。ほんなら、後は任せたで?。」
カンは優しく頷いて消えた。
俺はカンが向かおうとしていた滝に向かって歩く。
早くしなきゃ・・・たくさんの人が死んでいく。
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