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vol 162:本心と嘘
「カンさん?。」
「・・・。」
「カンさーん。」
呼ばれてる事になかなか気付かんかった。
肩を揺すられて初めて顔をスタッフに向ける。
「え?・・・はい?。」
「さっきから呼んでたんですよ?
スタンバイお願いします。
・・・大丈夫ですか?。」
「あー、はい。大丈夫です。」
さっきから呼ばれてたんや・・・。
仕事をこなして、疲労感とアイツの想いを抱えながらホテルに帰る。
「大樹?さっき帰って来て、風呂入った。」
(そう。お疲れ様。ごめんね?今回一緒に行けなくて。)
離れた場所にいる恋人に日課の電話。
電話が終わればメールに変わる。
「どない?資料作り。」
(コピー枚数が大変。そうだ。
向こうの子どもたちの鉛筆が足りないらしいんだ。
送ってやろうと思うんだけど。)
「あー、物差しとかクレヨンとかも送ったってや。」
(わかった。カンはどう?疲れ溜まってない?。)
「ちょっとしんどい。
変なだるさが抜けんで・・・結構つらい。」
(最近良く言ってるよね・・・。
朝も起き辛いようだし。
今度の休み、病院行こうよ?。)
「せやなぁ・・・ただの疲れと思うねんけど。」
(それだけならいいんだけどね。)
大樹と何気ない会話をして電話を切った。
ベッドに寝転んで目を閉じる。
浮かんで来るのは黒と赤しかない闇の国の岩山で、
サタンが一人苦しんでいる姿。
俺に何を思わせたいんや。
「ホント、なんだろうねぇ。」
部屋のソファーに足を組んで座った姿を現す。
「お前なぁ~・・・俺に同情しろとでも言うんか?。」
「フフ・・同情してくれるのかい?。」
寝返りをうって横向きに寝、ゆっくり瞼を持ち上げる。
「お前がさ、寂しい気持ちやら嫉妬を抱いたんは、
神の責任なんも否定はせんよ俺。
せやけども、神にその気持ちをぶつけへんかったお前もどうなんや。」
サタンはまるで小さな子どもと同じ。
ただ、それの気持ちすらも成長し大人の酷い憎しみに変わってる。
「当時は僕も子どもだったからねぇ。
それに、神の人間への愛情の理屈には納得いかなかった。」
サタンは言う。
幼き頃に憎しみも抱き、一つの嘘で追放され、
人間を殺めたら、もう殺め続けるしかないと。
その感情はとてつもない苦しさが伝わってくる。
後悔しても遅いと言う気持ちも。
「カン、君は知ってるかい?
この世の最後を。」
「考えたくも聞きたくもない。」
サタンに背を向けるように寝返ったら、
そこにはサタンが俺に向くように横になっている。
俺の髪に細く白く冷たい指を触れさせる。
「君もまた、神の人間に対して以上に愛されて育った子。
それなのに、神に逆らい続けて、
黄泉の国と天界をひとつにし、
誰も君に望まなかった人間へとなってこの世界を救おうとしてる。
なぜ?。」
サタンは悲しみとなんとも言えない表情を俺に向けて、
俺の髪をいじる。
「なんでやろーか。
考えた事もない。ただ、どんな困難でも乗り越え、
自分達でなんとかしてきた人間は素晴らしいとも思うんや。
それに、黄泉の国の神々は俺が人間になることを喜んでくれた。
天界の世界はこの世界の政治のようなもんやろ?
サタン、お前黄泉の国行ったことあるん?。」
俺が話しをしてる間に俺を抱きしめる。
とても冷たく暗い腕の中。
「ないね。彼等は所詮元は人間。
そんな国に用はない。」
連れて行きたい。
「行く気はない。」
「お前が欲しかったものを黄泉の国の神は持ってるんやで?。」
「人間の愛情などいらない。
こんなに神への愛情を今だ求めていて、
こんなに反発していても、僕は神の手の中。
結局は神に踊らされ、神の後始末を僕がさせられる。
カン・・・僕は最後塵となる。
永遠の命も闇の世界にも戻れない。
塵となるなら・・・はやくなりたい。」
サタンはめちゃくちゃ言葉が巧みで、
相手をだますなんか簡単な事や。
今の言葉には俺の気持ちを誘う気持ちと、
本心両方が込められてる。
「黄泉の国は天界みたいに真っ白じゃなくて、
色とりどりの花や建物、
緑の森、動物の国に、天界みたいに羽根のある馬なんかおらんで?
普通の馬、お前が創りあげた蛇も、
お前みたいにひんまがった奴もいるけど、
めちゃくちゃ優しい蛇もおる。」
俺は笑んでサタンの頬を摘まんで引っ張った。
サタンは俺の態度に目を丸くして、しまいには笑みをこぼす。
俺はサタンを黄泉の国に連れて行く事にした。
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