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vol 158:止められない怒り
「大日如来!居るか!。」
黄泉の国、大日の国の如来のいる場所。
大きな神社の様な場所に、
たくさんの大日の国の信者が座り、
俺はそれを掻きわけて前に進む。
(何者だ!。)
(天界の子!。)
(無礼な!。)
あちこちで声が上がる。
無理矢理入ってきた俺の腕を掴んで止めようとする奴ら。
「離せや!大日如来!どこや!。」
叫びながら、信者を振り払い、
前へ前へ。
ようやく一番前で少し高い台に胡坐をかいて座ってる、
大日如来の姿が見えた。
「ばぁちゃん!。」
現状も忘れて祖母と呼び、
細い大日如来の目がゆっくり俺に向けられた。
「はぁ!はぁ!。」
何十人もの信者を掻きわけて来たから、
息切れや。
「どう言うことや!。」
(天の子よ。皆の御前。)
また、礼儀か。
「誰の前であろうが関係ない!。」
俺を囲み群がる信者。
俺はその信者を何度も振り払う。
(もう良い。皆下がりなさい。)
大日の声に群がってた信者がぞろぞろと建物から出て行った。
(カンよ、座るがよい。)
「アタシがなんで来たか解ってるんやろーが!。」
怒りを剥きだす俺は大日の言葉は耳に届かなかった。
(・・・はぁ。)
大日は溜息を吐くとゆっくり手を俺に向けて、
人差し指を曲げる。
「ぐわ!。」
俺の体はまるで手足に強烈な鉛をつけられたみたいに、
重くなってその場に座り込んだ。
(カン、私は恥ずかしい。
お前は礼儀だけは変わらぬ。)
そんな言葉に俺は大日を睨んで、重い唇を動かす。
「弥勒へのやり方・・・卑怯やないか・・・。」
(弥勒も神として生まれ、菩薩になる者。
学ばなければなりません。)
「それはえぇ。死んだ奴の救済もえぇ。
けど!なんでそれを黙ってた!。」
(黙っていたのではありません。
聞かれなかったのです。
行く末の人間の救済、
それだけで納得をしていた。)
「はぁ?何を子どもみたいな事言うとんねん!
弥勒が生きたもん助ける為って思ってたん知ってるんやろーが!。」
(勿論知っています。)
「それやったら、なんで教えたらへんねん!
傷つくんも解ってるやろ!。」
(傷つき、悩み、苦悩を知るのもまた修業のひとつ。)
冷たい言葉に俺は怒りがこみ上げ、
眩しい光を放ち大日の力を振り払って建物を出た。
話しにならん。
なんなんや。
最高神やろーが。
なんなんや。
(カン。・・・カン。)
小さな声で名を呼ばれ、
その方向に視線を向けると、
「じ、じいちゃん。」
薬師如来が木に隠れながら手招きしとる。
俺はためらう事なく薬師の元に歩んだ。
「なにしとるん・・・。」
(おいで。)
薬師は俺を片手で抱き寄せると瞬時に自分の国に連れて行き、
海のど真ん中のような水辺に立つ。
「うわぁ~。すんげーなここ!。」
見渡す限り水で、
空には月があり、とても気持ちが落ち着く場所。
(のぅ、カン。お前は今まで大勢の自分に関係のない、
人間の事で黄泉の国に来ていた。)
俺はしゃがんで水面に手を入れてみた。
水の中にはいろんな魚が居て、
クジラやシャチも見える。
「うん。」
(それが、初めてお前の大事な仲間の一人の為に、
黄泉の国に来た。)
俺は薬師を見上げた。
(信念から来る怒り、大事な仲間の心の痛みの為に。
わしは嬉しくも感じ、
お前の心の痛みが辛くも感じ、
神々の苦悩も感じているが、どこにもぶつけられず、
大日にぶつけるしかなく此処へ来たお前の気持ち。
それは嬉しく思う。)
「じぃちゃん・・・。」
薬師は優しい微笑みを俺に向ける。
「わかってるんや・・・。
言いたくても言われへんのも。
一番本人よりも辛い気持ちなんも。
せやけど・・・あんな強い弥勒が、
初めて泣いたんみたら・・・。」
薬師が俺の隣に同じ様にしゃがんで、
指をちょんと水面に触れると、
下から大きなシャチが上がってくる。
水面に体を出した。
初めて見るシャチのデカさに俺は少し怖くなる。
キューと鳴き声をあげるシャチに薬師は頭を撫で、
(カンよ、この子と少し遊んでおいで。)
薬師を見つめてからシャチを見、
薬師が触れてるから俺もシャチに触れてみた。
ゆっくり撫でる体はツルツルしてる。
(ほら。)
薬師に抱き上げられてシャチの背中に乗せらされた。
「わ!。」
怖くてシャチに必死に掴まる俺に薬師は笑み、
シャチはキューと鳴いてゆっくり泳ぎ出した。
背びれに掴まって永遠にも見える海を進む。
「うぉお!スゲー!。」
安堵を抱くとそのまま水の中に進み、
水中を探索。
イルカがサメと体を擦りあって遊んどる。
人間界やとありえへん光景。
どんだけ遊んでたんやろ。
最後にはシャチから降りて一緒に泳いでた。
肉体が朝を迎えるのがわかる。
「そろそろ帰らな。」
キューキューって鳴きながら俺に顔を擦りつけてくるシャチ。
可愛くて仕方ない。
水面に顔出すと薬師が手を掴んで引き上げてくれる。
「じぃちゃん、ここまた来てもえぇん?。」
(勿論。わしの国。いつでもおいで。
弥勒や蛇の子達も連れて来てやりなさい。)
「えー!アタシの秘密の場所にしたい!。」
なんや子どもの頃に戻ったみたいや。
何もかも忘れて興味あるがまま遊んだ。
(はっはっは!それも良かろうが、秘密にしておけるか?。)
「う・・・無理かも。」
(カン、そのシャチ、誰だか解るか?。)
「え?。」
(何故言うか・・・。)
シャチが言葉を話し、ゆっくり姿を変えていく。
水面に立ったんは、
大日如来やった。
「ばぁちゃん!。」
(全く薬師如来・・・言わなくても良い事を。)
(そなたも楽しそうだったのでつい。)
俺は大日に抱きついた。
「ごめん!ごめんな、ばぁちゃん!。」
大日は俺を抱きしめ、
(カンよ・・・大事な娘の子。
私の可愛い孫。
お前の痛みも弥勒の痛みも感じています。
ですが、我々もお前達が我慢や耐えているように、
耐えなければなりません。
弥勒にお伝えなさい。
もっと甘えなさいと。
いつでも帰って来なさいと。
阿弥陀如来もそれをいつかいつかと待っています。)
「阿弥陀が?。」
(カンの事もいつも、いつ此処に来るかとばかり言っていますよ?
怒りが溢れそうな時は私にぶつけなさい。
天界の神にはぶつけられぬでしょう。)
みんなの前で見せる事のない優しい優しい微笑み。
「うん・・・パパは・・・、
ぶつけたら悲しみばっかりになるから。
人間やめて戻れって言うし。
せやから・・・。」
(カン、起きる時間だ。)
薬師の声でゆっくり大日から身を離す。
(今や我らはお前の祖父母。
洋子も心配している。たまには顔を出してあげなさい。)
「うん!。」
二人に満面の笑みを見せて俺は肉体へと戻った。
仕事を少し早めに切り上げて、
何ヶ月ぶりかに実家に帰って、
オカンにこの事を話したら、
オカンは孫には優しいなぁ言うて笑ってた。
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