|
vol 157:菩薩
「チャリティーイベント?。」
「そう、参加どうする?
有名な著名人も参加するし、カンも今や有名人だ。」
「規模デカいん?。」
「大きいよ。なんたって、あのイエス・ブラッドが来るんだからね。
カンにも声がかかったんだ。
是非って。」
「い、イエス?。」
「あれ?知らないわけないよねぇ。
テレビでもイエスはカンの事、大ファンだって言ってたし。」
知らへんわけない。
サタンの人の名を。
兄の名を使った名を。
「どうだろ?。」
「スケジュール空いてるんやったら出ますよ。」
「そう!またこれで話題呼ぶね。」
マネージャーは嬉しそうや。
家に帰って、その事を大樹たちに報告する。
「えぇ!イエスがカンを?。」
「大樹・・・イエス言うな。
サタンや。」
兄の名をアイツに使われてるだけでも腹だたしいのに、
それを知ってる奴に呼ばれたらもっと腹たつ。
「あ、ごめん。」
大樹は肩を落として申し訳なさそうにしとる。
「いや・・・ごめん。
その名前で呼ばれるんが、今のアイツにしたら普通やねんもんな。
なんか・・・嫌やねん。」
「カン・・・。」
「お前、出るの?そこに。」
「・・・うん。
アイツからの誘いや。断るわけない。」
弥勒は不服そうに顔をしかめた。
「何か企んでるんじゃないのか?。」
企み?。
「お前を呼び出して、お前の評判上げる目的は?。」
「それはー、ただ、おもしろがっとるだけやろ。
今の俺なんか、何もアイツにとって不利なとこもないやん。」
最近、弥勒がおかしい。
イライラしてて、たまに見せる不安そうな顔。
「俺はやめといた方がいいと思うけどな。」
「我も思う。」
漫画を読むシロが話しに加わる。
「お前もか!。」
「うむ。今のお前になんの力も存在しなくても、
ここで、落としておけば、大きな我らの損害になる。」
「シロ・・・その格好で言われても。」
子どもになって漫画を読むシロに、
まともな発言をされても吹き出すだけや。
笑ってる俺に弥勒は立ち上がり、
「真面目に考えて行動しろ。」
冷やかに呟いて自分の部屋に入っていった。
「なんや、アイツ・・・。」
呆気にとられる俺に大樹はコーヒーを差し出して、
隣に座る。
「弥勒、最近おかしいよね。」
「アイツ、また機嫌悪いん?。」
「外にも出ず、部屋にこもっている。」
最近、弥勒が家に居る事が多いから、
シロの面倒は弥勒がしてるらしい。
面倒言うても、ただ家におるだけやけど。
大樹は俺のアシスタントしたり、
海外ボランティアに行ってる、
マツキチや千代さんに頼まれる資料をつくったりしとる。
「こもって、何しとるん。」
「それが、ただ、座って煙草を吸ってたり、
寝てたりしてるみたいなんだ。」
大樹は心配そうに弥勒の部屋のドアを見つめた。
「・・・おし!。」
「カン?。」
「ちょっと様子見てこよ!。」
大樹が用意した弥勒のコーヒーのグラスを持って、
俺は弥勒の部屋へと足を運ぶ。
「そっとしといてやれ・・・。」
「やかましわ・・・ボケ。」
シロに言うと、弥勒の部屋のドアを開けて中に入った。
部屋は煙が充満してて、
陰気くさい。
「お、まえ・・・換気しとるんか。」
弥勒は床に座ってベッドに凭れて煙草吸うてる。
「なんの用だ。」
「んー?大樹がせっかく入れてくれたコーヒー持ってきてん。」
弥勒の横に俺も座って弥勒の前にグラスを置いた。
「なぁ弥勒。なんかあったん?。」
煙草を咥えて火をつけながら弥勒に問いかける。
弥勒は無表情のままグラスを持ってコーヒーを飲んだ。
「・・・別に。」
「別にやあらへんやろ。
お前最近、変やで?。」
弥勒は俺を睨みつけ、
「あ?。」
「ほら。余裕ないやん。
なにが、あ?やねん。弥勒菩薩。」
菩薩の名を呼ばれると弥勒は辛そうな顔を見せる。
「なんやぁ~?死んだ人の救済はそんな嫌か。」
「お、お前。」
俺の言葉に弥勒は目を見開いた。
「カン!お前!。」
俺が知らんとでも思ってたんか。
「お前の役目、俺が知らんってか?。」
フッと笑みを浮かべて弥勒に顔を向ける。
「・・・いつから知ってた?。」
「んー。この間、天界に行った時にな、
パパから聞いた。」
「・・・。」
弥勒は顔を伏せる。
とても、辛そうに。
とても。悲しそうに。
「大樹たちも知ってるのか?。」
「ううん、言うてない。」
「そうか。」
「役目なんやから、事前に言うとけよなぁ。
如来軍団、何を残酷な事を。」
「ハハ・・・笑わせるなよ。」
弥勒は小さく弱々しく笑う。
「どこまで知ってる?。」
「大勢が死ぬとこまで。
そっからは、どうなるかわからんらしい。
天界の神は、サタンに任せるみたいやなぁ。
サタンもまた、神の手の中や。
アイツはそれにアホやから気付いてないんちゃう?。」
「・・・平気か?カン。」
眉尻さげた顔を俺に向けて問う弥勒。
「んー?あはは、聞いた時はキレてもーたな。
大樹には言えん思った。
アイツは真っ直ぐやから、そないな残酷な事、
許されへんやろうし。」
笑顔を弥勒に見せる。
「せやけど、俺はお前と違ってすぐ感情に出すから、
大泣きや。」
「・・・っ。」
弥勒は顔をめいっぱいしかめて、
俯いて体を小さく震わせた。
俺は煙草を消して、
初めて泣いた弥勒を抱きしめる。
「弥勒・・・よう一人で我慢してた。
ほんまにお前は立派な菩薩や。
俺に対しても、気遣ってくれてたんやろ?。」
「っ・・・く・・・。
お、まえに・・・助けるために人となり、
記憶も消してここまでやってるお前に、
言えることじゃないと思った。」
声を震わせながら俺の背中に触れて泣く。
「ありがとうな。
俺も、お前にも言えんと思ってた。
天界にも、黄泉の国にも腹たって、
殴り込みに行こうとしてんけど、
きっと・・・神には神の考えがあるって思ったんや。
俺らと同じくらいに悲しく思ってるって。
せやから弥勒、
俺はな?俺は自分のやってる事、
やろうとしてる事、あきらめへんことにしたんや。」
「カン・・・。」
「そうなるって言われたけど、
そうさせへん。
神にそれこそ反発したろやないかってな。
俺ら4人も神やで?弥勒。
出来へんことはない。
アフガニスタンのチッチもジャンヌも、
まだ生きて・・・必死に生きてるみたいや。
その他の子どもたちもな。
誰が殺させるか。
神が生を授けた命、神が滅ぼしてたまるか。」
弥勒を離して両手で両頬を包みこんで、
涙で濡れる弥勒の瞳をジッと見つめる。
「弥勒、俺の考え、お前はついて来れへんか?。」
「・・・。」
弥勒は言葉を聞いて、いつものしっかりとした眼差しになって、
「ここまでお前と共に過ごしてきたんだ。
その考えに俺ものった。
こんな役目、くそくらえだ。」
ニッと笑みを浮かべる弥勒に俺も同じように笑み、
「神への神からの反乱や。」
「おう。正当なな。」
157 
|