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vol 136:静かな花嫁
酷い雨や。
傘さしてても服もズボンも濡れてる。
仕事の関係で旅館に泊ってるんやけど、
煙草が切れて、俺の吸うてる煙草が旅館に売ってへんし、
少し歩いた所にあるコンビニに行くことにしたんや。
田舎だけあって、
やたら暗い道。
深夜1時の田んぼ道。
月明かりと離れた間隔にある街灯の道を歩く。
コンビニに辿り着いて、
煙草とジュースとチョコレートを購入。
ビニールの袋片手に、
来た道を、また歩く。
街灯の真下にあるバス停。
ベンチがあって、
白い花嫁衣装の着物姿の女が座ってて、
勿論、霊なのは一発で解る。
そのまま、俺は通り過ぎた。
霊は結構わがままやったりして、
気付かれると追いかけてきては、
話しを聞いて欲しがる。
せやけど・・・。
彼女は追いかけて来ない。
少し歩いて足を止めた。
「・・・はぁ。」
俺は振り向いて、バス停に戻る。
女の隣に腰掛けた。
びしょ濡れのベンチに。
「・・・誰か待ってるん?。」
女の顔を見ずに雨空を見つめながら問いかける。
(・・・。)
小さく呟いて返事をする女。
黙りっぱなし。
「・・・綺麗な花嫁衣装やな。」
女は顔を上げて横から俺を見つめてる。
俺は顔を見ない。
見なくても脳裏に浮かんでくるからや。
両目の真黒な花嫁の顔が。
俺が話しかけんなら、なんも言わん状態やし、
言いたくないんやったら俺がわざわざ聞くもんでもない。
「ほんなら、はよ、見切りつけて、
行くべき場所に行きや?。」
それだけ言うて俺は旅館に戻る。
ついて来ると思ってたけど、
女はついて来んかった。
朝になって、何気に旅館の女将に問いかける。
「あのー、コンビニに行く途中にあるバス停の場所って、
昔からあるんすか?。」
「あぁ、あの場所?
やだ!もしかして・・・見ました?花嫁。」
「え?。」
「有名なんです。あのバス停に夜になると、
目の真黒な花嫁衣装の女の幽霊が出るって。」
「はぁ・・・、いや、見てませんけど・・・、
あの場所って昔からバス停やったんですか?。」
誰を待ってるんやろう。
「いいえぇ。あそこは昔は道じゃなく家が建ってましてねぇ。
道路にする為に取り壊されたんですよ。
でね、ここらで花嫁が行方不明になる事件があって、
いまだ、死体も発見されてないんですって。
もう、何十年も昔の話しですけど。」
女将さんは、俺が詳しく聞かんでも、
自分からベラベラしゃべってくれた。
「この辺に花屋さんってあります?。」
「花屋さん?。」
「カン、どこに行く?。」
一人で行くつもりが、
ハランがついてきよった。
昨日の雨が嘘みたいに晴れてる。
「あー?。」
「花束・・・誰にあげる?。」
「んー。」
隣を歩くハラン。
「今後、発見されることのない花嫁になぁ。
あげようと思って。」
ハランは首を傾げてる。
バス停に着くとベンチに彼女はいない。
夜になったら現れるんやな。
ベンチに花束を置いて、
「ちょい、ハラン手伝ってくれ。」
重い石がついたバス停の看板をハランと一緒に持ち上げて、
少し横に移動させる。
「カン、こんなことしてもいいの?。」
「ええんや。俺が許す。」
ベンチも横にずらして、
元々あったベンチの場所に花束を置いた。
両手を合わすことなく、
俺は地面のコンクリートを撫でる。
「ハラン、一生見つかることのない花嫁が、
ここに埋まっとる。
誰かに、私はここにいるねん!って、
言うこともせんと、でも、掘り起こされるんを待ってる。」
「・・・。」
「花嫁さん・・・綺麗やったで?。」
ハランから見たら、
俺はコンクリートを撫でてるだけやろう。
俺が撫でてるんは、
俺だけに見えてる、
ボロボロになった花嫁衣装を着た、
ミイラ化になった女の頬を撫でてる。
怨むでもなく、
訴えるでもない、
今後亡骸を発見されることもない、
道路に埋まった静かな花嫁。
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