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vol 129:怒りの行動
夕刻になり兄様から連絡が入った。
「あぁ、うん・・・わかった。すぐ行くわ。」
カンが携帯電話という物を切ると、
「弥勒、シロ、あの男が物色しはじめた。
近所の小学校の通学路らしい。」
弥勒は立ち上がり、
「大樹はもう現場に行ってるのか?。」
「いや、今蛇達から連絡が来たから、
高校から向かうって。」
「なな、一緒に。」
弥勒が童子に手を差し出す。
「弥勒よ、この童子を再びあの男に会わせるというのか。」
自分の命を奪った者に、
このような幼い童子を。
「シロ。この子があの世に行くキッカケになるかもしれない。
辛く怯えても、俺らが居る。
大丈夫だ。」
「はよぉ~、行くでぇ~!。」
玄関でカンが叫ぶ。
まだ納得いかないが、弥勒菩薩の言うことに、
我の迷いよりも信頼感がある。
「ちょ、おま、自転車?。」
「2ケツや、2ケツ!
弥勒、運転せぇ!。」
「あのなぁ~。」
弥勒が自転車に跨り、後ろでカンがタイヤのネジに足を掛けて乗る。
「ゴーーー!。」
童子はカンにおぶさり、我は白蛇の姿で、
童子の首に巻き付く。
「大樹は車で行ってるはずや。
歩いてやったら間に合わんやろ。
犯人が車に連れ込んだ瞬間に捕まえるで?。」
(うわ~!うわ~!。)
童子は自転車に乗っている事にはしゃいでいる。
今から、自分を連れ去った男に会うというのに。
学校とやらの通学路を走る。
辺りを見回しながら。
弥勒が自転車を止めた。
「・・・あいつじゃないか?。」
弥勒の言う方に視線を向けると、
深くハット帽をかぶった小太りの男が女の子に声をかけている。
我は童子から降りると、
人形に姿を変えて男に近付いた。
無論、我の姿は見えぬ。
「さやかちゃん。おじさん覚えてないのかなぁ?
ほら、ママの弟の。」
身内になりすまして声をかけている。
何故名を・・・。
この童子は学校の帰りで、
胸には名札をつけている。
声を掛けられている童子は黙っていたが、
徐々に男の巧みな演技で自分の母親の弟だと、
信じていく。
カン達の方に振り向くと、自転車のみ置かれそこに姿はない。
我は白蛇に姿を変えて男に登る。
「おじさんもちょうど姉さんの家に行くところだったんだ。
一緒に・・・っ。」
我は男の首に巻き付き絞めつけた。
「あのアホ、なにしとるんや。」
「やばいな。」
我の行動を隠れて見ていた弥勒は、
その場に座り込み、肉体から抜けて、
霊体で我の元に来ると、
(シロ、何やってる。男から離れるんだ。)
(・・・。)
「おじさん?。」
「っ・・・く。」
男は見えない我の体に触れて理解出来ぬ苦しさをあじわっている。
このまま絞め殺そうか。
何人のこれからという幼き希望を奪ったのだ?
(シロ!。)
弥勒は我の体を掴み引き離した。
「はっはっ・・・。」
「だいじょうぶ?おじさん。」
「あぁ・・・大丈夫だよ。
行こうか。」
男は青褪めながらも、童子の手を掴んで車に向かう。
(シロ・・・何をやろうとしたか解ってるのか。)
弥勒は我を手のひらに乗せて見つめる。
その瞳からは悲しみが伝わってきた。
(我は・・・我は悔しい。)
(シロ・・・。)
(弥勒よ。我は人間が嫌いだ。
だが・・・何故、童子に憐れみを感じるのだ?
何故・・・今、あの男に怒りがうまれる?
わからぬ・・・わからぬ。)
自分の感情についていけぬ。
胸が潰れそうに苦しい。
我は一体何をしておるのだ。
我は。
弥勒が我の体を優しく撫でた。
(白蛇神よ。貴方は人間を愛しく感じている。
天の子のように。
自分の感情を受け入れよ。
すれば、迷いもなくなります。)
「おりゃっ!。」
カンの叫び声に我と弥勒は振り向いた。
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