vol 125:あの世にいけない理由





「名前は?。」

(・・・。)

兄様はしゃがんで童子に話しかけた。

童子は脅えて我の服を掴み黙っている。

「はは、シロを信用してるんだね。」

兄様は立って笑みを我に向けた。

「あ、せや!ホットケーキ食うか?。」

カンが童子に話しかける。

「何を言う。
魂になった者が食事など出来るわけがないであろう。」

弥勒は我に言う。

「勉強不足だな、シロ。」

カンがキッチンから皿を運んでくると、
コタツに座って、

「俺の膝に座ってみ?。」

童子は我を見た。
まるで我の判断を仰ぐかのように。

我がゆっくり頷くと、
童子はカンの膝に座る。
座ると言っても、
カンの肉体と重なるのだ。

カンが大きく鼻から空気を吸い込んだ。

「ほら、えぇ匂いやろぉ?。」

(うん。バターの匂いがする。
シロップと・・・甘い匂い。)

「ほんなら食べよっか。」

フォークを掴んで一口大に切ると口に運ぶ。
実際の光景はカンが、ただ食べているだけだ。
童子も口を開ける。
不思議だ。
童子が口を動かしている。

「死んだ人は感情の世界。
物を食べてると自然に思えば食べられるんだよ。
お供え物を良くするけど、
自分がその人と思って食べれば、
味や匂い、触感まで伝わる。」

兄様の説明に我は、ただただ驚いた。
知らない事ばかり遭遇し、
自分の小ささを思い知る。

「うまいか?。」

(うん!これ、おねぇちゃんが作ったの?。)

「お、おねぇ・・・、。」

「ぶっ!。」

弥勒が吹き出した。

童子から見ればカンの肉体ではなく、
本来の姿で見えるようだ。

「あー、いや、ん~・・・俺は、。」

「そうだよ?おねぇちゃんが作ったんだ。
すごくお料理が上手なんだ。」

弁解しようとしたカンに、
すかさず、兄様が言葉を入れる。

(ななのママはお料理へたなの。)

童子はクスクスと笑ってみせた。

「そっかぁ。ななちゃんのお母さんはお料理が苦手なんだね。」

(うん!。)

童子は兄様と笑みを交わす。
すっかり心を見せている。

「シロ。どうしてここに連れて来た。
あの世に行けない理由でもあるのか?。」

弥勒が我に問いかけて来た。

「我にも解らぬ。
死後に迎えに行き、童子も上へあがることを了承した。
だが、行けぬのだ。
家に行ったが、狂乱している母親が居る。」

「それは見せとくわけにいかないな。
母親の感情で行く妨げになっているとは考えられないか?。」

「母親は娘の死を受け入れている。
ただ、殺した相手を探す意志のみが伝わってくるが。」

「殺されたのか?。」

「うむ。」

童子が殺された事を聞くと、
カンも兄様も我を見た。

「阿弥陀はなんて言うてるん。」

「我も問うたが、返事がないのだ。」

兄様が童子の隣に座り童子に問いかけた。

「ななちゃん、今ななちゃんは何がしたい?。」

童子は兄様を見つめて小さな口を動かす。

(ママが・・・、。)

「うん。」

(ママの声が聞こえるの。)

「ママはなんて言うてるんや?。」

そこにカンも問いかけた。

(ママに、ママに教えて。)

「何を教えて?。」

(ななを連れ去った奴を教えて。)

「上へ行けない理由はこれか。」

弥勒の言葉に我も頷いた。
母親をなんとかせねばならぬのか。

「なな、覚えてる事を思い出せ。」

「え、カン!。」

(・・・。)

カンは何をしようと言うのだ。

「ななちゃんに一番辛い事を思いださせるって言うの?。」

「大樹、大事な子供を殺された母親の気持ち、
解るやろ?。」

「わ、わかるけど、。」

「出来るだけの事したったら、
母親の今の強い感情も変わるかもしれん。
それに、子供を殺した奴が、その辺ウロウロしてんねんぞ!。」

兄様は弥勒に視線を向ける。
弥勒は小さく頷いた。








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