vol 118:麻薬






(たいじゅ・・・たいじゅ。)

意識を集中させると聞える女の子の声。

それと共に彼女の想いが押し寄せてくる。

「か、カン?。」

「あ?。」

(うん。)

目の前にいる恋人のカンと同じ名前のゲームのカン。

そのゲームのカンというキャラクターを操っている本人の女の子。

「大樹、なんやねん?。」

カンは自分の名前を呼ばれたと思っている。

「いや、あ、そうじゃなくて・・・。」

言いたくない。

説明したくない。

ゲームで知り合った子だなんて。

俺は言葉に詰まると俯いて、両手の指をモジモジしながら、
どうしようと考える。
ここで不利なのが、実物のカンも霊を見えて会話が聞こえること。

(たいじゅ・・・。)

女の子は俺の名を呼ぶ。
愛しそうに恋しそうに。

「お前、こいつの知り合い?。」

カンが女の子に話しかけた。
彼女はカンを睨みつける。
だって、霊体の彼女は俺の気持ちを知っているから。
俺に憑いてたんなら、
俺がなぜゲームをやっているのか、
俺が誰を愛しているか読み取ってるはず。

そして、また不利なのが、
カンは気の感じで死んだ霊なのか、
生きてる魂なのかの区別がつくこと。

「生きてる子ぉか。
大樹、生徒?。」

ここで嘘を吐いても、直にバレる。

「あの・・・ね、カン。実は・・・。」

俺は一連の自分の行動を説明した。
少し嘘を交えながら。

「はぁ?!ネットゲーム?。」

「う、うん。でもね!
ほら、カンは実際に若い子達に今の現状を伝えようと頑張ってるから、
俺も同じことをしたかったから、したかったんだよ!。」

俺、必死です。

カンは俺の説明に眉間に皺を寄せてはジッと見つめ、

「で?この子はその俺と同じ名前の、
しかもゲームでは男ってわけか。」

「・・・うん。」

カンは女の子に視線を向け、

「君は大樹に用なん?。」

俺にも伝わっているように、
カンにも彼女の気持ちが伝わってるはず。

俺に対して恋愛感情剥き出しな彼女のこの感情が。

「ちゅーか、大樹。」

「え?。」

「お前自分でなんとかせぇ。」

「な、なんで?!。」

「自分で撒いた種やろうが・・・。」

そう言ってカンは弥勒の部屋に入っていった。

(たいじゅ・・・会いたい。)

カンが居なくなると、しおらしい彼女。
勿論、俺は彼女の気持ちには応えられない。
その俺の気持ちも彼女には通じてるはず。
俺は部屋に戻ってパソコンを起動させて、
ゲームにログインした。
彼女もログインしていて、
俺がインしたことが解ると、すぐに会いに来た。
そこで始まるチャット。




たいじゅ《やぁ。》

カン《たいじゅ!会いたかった~。》

たいじゅ《今日は、カンに知らせに来た。》

カン《え?何をだい?》

たいじゅ《僕はゲームを辞めようと思う。》




すると、彼女の魂は大きく反応し酷い頭痛に侵された。




カン《いや!そんなの嫌だよ!》

たいじゅ《ごめん。》

カン《絶対いやだ!》

たいじゅ《でも、決めたんだ。》

カン《どうして?おれを嫌いになった?》

たいじゅ《そうじゃないよ。
でも、僕の大切な人が帰ってきたから。
もう、ゲームもする時間もないし、その人がいれば、
ゲームも必要ないから。》








暫く黙りこむカンの返事を待つ。
その間、カンの本体の彼女に言う。

「ごめんね。誤解させるような事しちゃって。
でも、君もこれは現実じゃない事わかってるはずだよ。」

(たいじゅが好きなの!)







カン《おれ・・・本当は女なんだ。》

たいじゅ《うん。》

カン《たいじゅは?》

たいじゅ《男だよ。》

カン《好きになっちゃってて・・・。》

たいじゅ《うん。》

カン《たいじゅが辞めるなら、おれも辞める!。》







くっ。

痛いところをついてくるな。








たいじゅ《カンには僕以外にも仲間がいるだろう?》

カン《いるよ。でも、たいじゅと居たいんだ。
たいじゅがいない世界なんか意味がないよ!。》

たいじゅ《ごめんね、本当に。》

カン《いや!行かないで!一人にしないで!。》







あーーーー!!!

どうすりゃいいんだ!

心配で辞められない。

俺が辞めて彼女が本当に辞めたら俺の責任だ。

・・・。

そのまま部屋を出て弥勒の部屋を開け、
弥勒と居るカンの腕を掴んで自分たちの部屋に連れて行く。

「おい!ちょ、大樹!。」

立ったままカンを抱きしめる。

「カン~。ゲームに本人が居るから、
本人にゲーム辞めるって言ってるんだけど、
俺が辞めたら彼女もゲーム辞めるって~。」

めそめそと言う俺にカンは眉尻下げて、

「おっまえは、ほんまアホや!。
彼女関係なく、自分はどうやねん。
ゲーム続けたいんちゃうんか?。」

顔を上げてまっすぐカンを見、
はっきり言える。

「俺はカンが側にいたら、ゲームなんかいらない。
それに、このゲームしてちゃ頭がおかしくなる。
辞めるべきだって思うよ。」

カンは俺をじっと見つめ、
唇に軽くキスをして、

「・・・わかった。貸せ。」

カンはパソコンに向かってタイピングし始めた。







たいじゅ《君が本当に辞めたいなら辞めなよ?
こんな非現実な世界にいたらダメ。》

カン《どうしてそんな事言うの?
ここでおれ達は出会って毎日あんなに楽しくしてたじゃない。
好きって言ってくれたじゃないか。》








「ほ~。」

「いや、あれはついノリで・・・。」

カンの後ろに座って抱きしめる。
情けない。







たいじゅ《ノリで言ったんだ。ごめん。
今、一緒に恋人もいる。
全部話したよ。このゲームのこと。》

カン《・・・恋人は辞めろって言ってるの?》

たいじゅ《いいや。僕に任せるって。
僕はいちいち君にこんな報告もせずにいくらでも辞めれた。
でも、ちゃんと君に言いに来た。
なぜだか解る?》








ここでカンの相手への思いやりと優しさが感じられる。
愛しい俺の恋人。








カン《・・・。》

たいじゅ《君と居て楽しかったからだよ。
恋人に会えない時に側に居てくれたから。
勝手な僕の気持ちだっていうことも十分解ってる。
たかがゲームだって思ってた。
でも、本当に楽しかったんだ。》








こんなにも相手の気持ちを尊重して話しているのに、
彼女はそれをくめない。






カン《そう。おれはもう必要ないってことだね。
おれには必要なのに。
恋人にまた冷たくされても、いいの?
帰ってこない恋人なんて必要なの?
浮気してるんじゃない、その人。
たいじゅ、騙されてるんだよ。》








「な!酷い!何言ってるの、この子!。」

文面に俺は怒りが込み上げた。
人の気持ちをくもうとせず、
自分ばかりじゃないか。

「大樹、これが普通。」

「もういいよカン。何を言ってもこの子に通じない。
それに、こんなにカンを侮辱するなんて、。」

「せやけど、そんだけお前に惚れたっちゅーことやし、
この子はそんだけ現実から逃避してるっちゅーことやん。
お前はその手助けしてたんや。」






この後、暫くまだ彼女の説得をしていたけど、

やっぱり彼女は、ただただ困らす事しか言わなかった。

カンもダメだこりゃって、諦めて、

さよならを告げてゲームを退会した。

カン曰く、この子はこのゲームを辞めないだろうって。

俺もそう思った。

依存出来る人が現れたらそれでいいんだ。

俺が居なくなったら、

その事をきっかけに、また新しい相手に相談し、

同じ想いを寄せる。

ネットゲーム。

カンは精神的な世界って言う。

リアルで出来ない事が出来て、

リアルでなりた自分にここではなれる世界。

それがどんなに怖い事か、

解りつつやっている子が多い、

麻薬のような世界。








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