これは学生時代の話になります。その日はバイトで病院のトイレの清掃に入りました。数人のパートのおばさんと一緒に仕事に入ります。私の担当は排気口の清掃でした。
あるフロアの男子トイレの排気口の清掃がが終わり、その隣の女子トイレの排気口の清掃を行う事になりました。
ちょうどその時、お婆さんが点滴をぶら下げた棒を片手に女子トイレに入っていきました。女性は薬焼け、もしくは、酒やけで肝臓に負担がかかっているかのような土色の肌でいかにも調子悪そうでした。その女性が便所の奥から2番目(だったと思う)の部屋に入り、ドアを閉めました。こちらは便所の入り口で他のおばさん達と一緒に、そのお婆さんが出てくるのを待ってました。
しかし10分経っても、そのお婆さんは出てきません。さすがに皆怪訝に思い始めました。しかもノルマがあります。何より便所が長すぎるのも気になります。
そこでおばさんが、そのドアの所に行き、ノックをしようとしました。するとそのドアはカギが掛かっておらず、すっと空きました。おばさんが「あれっ、誰も居ないよ!」と言いました。
確かにお婆さんがそこに入っていくのを見ました。そしてドアも閉めました。実際他の個室はドアが開いており、そこだけ閉まっていました。
そぉ、お婆さんは消えてしまったのです。背筋が凍りつきました。さすがに便所に入って掃除しようという気になれません。
その時、一人のおばさんが「よっぽど小便したかったんだね」と言いました。その言葉に皆が噴き出しました。ようやく恐怖を払拭した私達は便所掃除を終わらせました。
実は、この話、今までの2回と違い、タネが無いのです。入り口は一か所、時代が古く(1980年代後半)、車いす用の便所等が無い等、便所の使い勝手は今ほど便利じゃ無かった頃です。学校の便所みたいな感じです。お婆さんが消える経路は他に無いのです。
あの時の現象だけは今になっても合理的な説明が付かないですね。ただ、あの頃の私は技術者では無く、単なる大学生(工学系)で、まだ不思議な話をやや素直に信じており、論理的な思考を欠いていたため確認が甘かったですね。なので、今、論理的な説明を付けるとすれば、別の出口があったが見落としたという事になりますが。それは考えにくいんだよなぁ。
ちなみにあの恐怖で凍り付いた雰囲気をたった一言「よっぽど小便したかったんだね」で和やかな雰囲気にしてしまったおばさんは当時凄いと思いました。幽霊よりも現実の生活が大事で、皆がそれぞれ一生懸命生きていました。あの時の仕事をしていたおばさん達は輝いていましたね。懐かしいです。
ちなみにこのバイトでは色々な体験をしました。それは又別の機会に。
(2013/8/12 記)
価格:2,721円 |