vol 108:哀れな死




電気のない部屋はガラスのない窓から射しこむ月の灯りで、
俺を起こす弥勒の顔はハッキリと見えてる。

ラドゥンが、死んだ。

弥勒によると、女の悲鳴を聞いて部屋から出ると、
同じく悲鳴を聞いた神父と出くわして一緒に見まわったら、
廊下に銃を持って倒れているラドゥンと、
座り込んで震えているシスターを見つけた。
シスターの話しによれば、
見回りをしてたら廊下にいるラドゥンを見付けて、
声を掛けたら銃を額にあてて引きがねを引いたらしい。

「ら、ラドゥンが自分で?!。」

「あぁ。シスターによればそういう事になる。」

「せ、せやけど、なんで・・・。」

俺は悲しみよりも、ただただ信じられない気持ちしかない。

「で、・・・ラドゥンは?。」

弥勒に連れられてラドゥンの遺体のある部屋に向かう。
施設の子供たちは気付かずに眠ってるみたいや。

部屋にはシスターと神父のジム、
サタン、そして数名の大人。
ベッドにはシーツに包まれたラドゥンが寝かされてる。
サタンは俺に目を向けた。
俺は、ベッドに近付いて生々しく赤く染まったシーツを、
ゆっくりと捲る。

「っ!。」

瞼が半分落ち、生気の全くなくなった目を見せては、
額に穴を開けた無残なラドゥンが露わになる。

「ら・・・クッ。」

ここで初めて悲しみが押し寄せて、
下唇を噛みしめた。

『一体どうしてこの様な事が・・・。』

ジムは胸の前で十字をきる。
弥勒は俺の隣に立って、マジマジとラドゥンの死体を見ている。

「カン、おかしいと思わないか?。」

日本語は幸いにも俺と弥勒とサタンしか解らへん。

「なにがや・・・。」

気持ちの大きな痛みに俺には余裕がない。

「自殺するとき、人は自分の額を撃つんだろうか。」

「は?。」

「普通はこめかみに銃をあてて撃つんじゃないのか?。」

映画やドラマ、漫画やアニメ。
こういった所での表現は大概が銃での自殺はこめかみから撃つ。

「何を言いたいんや、弥勒。」

「銃は殺した後に本人に持たせる事が出来る。」

殺されたと思ってるんか?。
でも、弥勒が言うことに違和感は感じんかった。
だって、ラドゥンが自殺する理由があるとは思えん。
不自由な体でも明るかったし、
友達もおった。
なんで自ら死を選ぶ理由がある?。

内戦の激しいこの国では何人もの人が、
いろんな理由で死んでる。
日本と違って、ここで誰かが死んだからって警察に連絡するわけでもない。
しかも、ここにいる子供たちは孤児や。
生きてても死んでても、
本人以外は重要視されてない。

「ラドゥン・・・。」

生気のない目は見るのも辛い。
ラドゥンのまだ硬直してない瞼を下げて目を閉じさせる。
ここで違和感を感じた。
霊となったはずのラドゥンの姿がない。
この国で死んだ人はなんで見えへんねやろう。

『とりあえず、今日はこのままで部屋に戻ろう。
明日、彼の遺体を埋葬しようではないか。』

神父の言葉にみんなが頷いて自分の部屋に戻っていく。
俺と弥勒はラドゥンの部屋に残った。
そして、サタンも。

「なぁ、サタン。」

「・・・いい加減、ここでその名前はやめてくれるかい?。」

サタンは苦笑しては腕を組み壁に凭れて立っている。

「お前はなんもしてへんよなぁ?。」

悪魔への疑いは拭えない。

俺の問いかけにサタンは目を閉じて静かに呟く。

「この子を殺しても僕になんの利益も生まれやしない。
それに、彼は殺さなくても長くは生きれなかったはず。」

そう。ラドゥンの命は元々短かかった。

「イエス、お前はどう思ってる。
これが自殺だと思うか?。」

弥勒はサタンの考えを聞いた。

「いいや。彼は殺された。」

「どうしてそう思う。」

俺はジッと二人の会話をただただ聞く。
サタンが暫く黙っている間に一匹のカラスが窓から入って来て、
サタンの肩に止まった。

「この施設がおかしいのは気付いていたからねぇ。
コイツに監視をさせていたんだ。」

「だったら、ラドゥンが死んだ時も見ていたのか。」

「あぁ。彼はシスターに銃で撃たれた。」

「し、シスター?!シスターが殺したっちゅーんか!。」

俺の張り上げた声にカラスが羽根をバタつかせる。

「カン、煩いよ。」

サタンは呆れた顔をしてはカラスの胸元を撫で、
俺と弥勒の居るラドゥンのベッドに近付き、

「じゃ、彼の記憶にお邪魔しようか。」

サタンはラドゥンの体に手を置き、
空いた方で俺の手を掴み、

「弥勒菩薩、君はカンの手を掴むといいよ。」

言われた通りに弥勒は俺の空いてる手を掴んだ。










               108       次のページ



107話に戻る
戻る

花手毬