vol 104:人間らしさ



ちっさな子供の前で泣いてもうた。
なんや自分が無意味な存在な気がして堪らんねん。

これでええん?。

俺、今のままで何か役にたってるん?。

この世を救う為に。

『カン、だいじょうぶ?。』

「・・・カン、チーも皆心配してるぞ。」

ゴシゴシ腕で目元を擦る。
服で擦ったらヒリヒリするねんな。

顔を上げて、必死に笑顔を作って見せた。

でも、この子達は人の感情を読み取るのが上手い。
ラドゥンは目に涙を溜めだした。

「ラドゥン・・・。」

(カン、辛いんだね?とても悲しいんだね?。)

ラドゥンはボロボロと泣きだして、
チーも泣きだした。

俺が泣かせたんやろか。

弥勒とジャンヌは悲しげな顔をしとる。
俺の気持ちは、ここにおる奴等は理解してくれてて、
きっと、大樹が一緒におったら・・・。

「ごめんなぁ~。」

眉尻下げて再び込み上げる涙を堪えながら、
チーとラドゥンを抱きしめた。

俺は日本で不自由なく育ってきて、
大きな役目は背負ってる。
せやけど、俺の今までの経験なんか、
この二人の経験に比べたら事が違い過ぎて。
こんなに小さい心で今を生きてる。

俺が泣いててどないするねん!ボケがっ!。

『カンぅ~。』

(うぅ・・。)

「大丈夫や。もう泣かへん。
大丈夫。な?。」

チーとラドゥンの頬を撫でてやり心から笑んだ。
チーもラドゥンもコクコク頷いて笑んでくれた。

(あぁ、そうだねジャンヌ。)

ジャンヌが何かをラドゥンに言うたみたいや。

(チー、そろそろ戻らないとシスターにお仕置きされる。)

また出た言葉。
弥勒と視線を交わした。

『うん。じゃ、夕食の時にね?カン、ミロク。』

『あぁ。またな。』

弥勒が答えると3人は部屋から出て行く。
ただ、ジャンヌは出る際に俺をジッと見た。
彼女はなんや不思議や。
耳も無く、舌も無く、
悲惨な思いをしたのに、陰がない。
チーもラドゥンも寂しさは感じられる。
でも、負けん気持ちがあの二人にはあるんや。
ジャンヌは違う。
寂しさも感じられん。
やけに落ち着いてて、何か意志があるような・・・。

「お仕置き。気になって仕方ねーな。」

弥勒がベッドに腰掛けては、二人で視線を交わした事に触れてきた。

「え?・・・あぁ、せやな。
虐待でも受けてるんやろか。」

「シスターと言えど人。
それしか考えられんしな。でも、それが事実なら、
見過ごすわけにはいかない。」

俺も。

携帯がポケットの中で震えだした。
取りだして表示を見たら大樹から。

「・・・もしもし?。」

《もしもし?カン?。》

大樹の声や。

「たいじゅ~!。」

泣きそうな声で名前を呼ぶ。

《カン、何?なにかあったの?!。》

心配して声を張り上げる大樹。

「今すぐ来て、ハグしてぇやぁ~。」

滅多に俺からハグしてくれなんか言わんから、
大樹は、

《あー!も、やめてよ!そんな事言われたら俺ヤバいって!。》

電話の向こうでプチパニック。

なかなか連絡がないから心配して掛けて来たらしい。

《そっか。そんな状態なんだね。》

「うん。そっちはちゃんと一人で出来とるん?。」

《なんとかね。帰ったら真っ暗なのが寂しいけど。
ご飯は母さんが事情を言ったら食べに帰れって言ってくれて。
今日も食べてから帰ったところ。》

「コンビニ弁当よりもはるかに美味いもんな。
千代さんもマツキチも元気しとった?。」

《元気、元気。でも、二人ともカンに会いたがってた。
あ、父さんボランティアに参加するんだって。母さんと。》

「ボランティア?。」

《うん。なんか、シニア海外ボランティアっていうのがあるんだって。
人材育成、技術を教えたりして国造りを支援するんだって。》

「へぇ~。せやけど、またなんで。」

《カンの影響みたいだよ。》

「俺の?。」

《カンは寺で修行したり、いろいろしてきただろ?
俺もたまに電話でその事話したり、
カンが悩んだりした時にどうしてやったらいいかとか、
父さんに聞いてたんだ。》

「マジで?。」

《マジで。今回もアフガニスタンに行った事話したら、
カンが頑張ってるのに自分も頑張らないとって。
父さんは教員免許持ってるから、
現地の子供たちに、いろいろ教えたいみたい。
母さんは料理とか現地の人に教えて、
自分も教わりたいって。》

「そっか。せやけど腰痛は大丈夫なんかいな。」

《それを見つけてからは腰痛よりも毎日子供達の為に、
教材作ってるみたい。》

「・・・会いたい。」

《え?。》

「大樹・・・会いたい。」

《カン・・・俺もすごく会いたいよ。
今すぐにでも飛んで行きたい。》

「・・・うん。」

すっかり、弥勒の存在を忘れて大樹と電話しとった。
弥勒の視線を感じた時には俺は口から心臓が飛び出すんちゃうか、
思ったくらい恥ずかしくて、

「ほ、ほんなら、バイバイ!。」

《え?ちょっと、ま、。》

大樹、すまん。

電話切っては真っ赤な顔のまま、誤魔化すようにベッドに寝転がり、

「大樹、実家に飯食いに帰っとるって。」

「会いたい・・・。」

弥勒が茶化す。

「うっさい、ボケ。」

「アハハ、照れんなって~。
やっぱり心は乙女だな。安心した。」

「なんやねん、それ。」




マツキチがボランティアを始めるらしい。

俺は昔、霊の頭痛で毎日のように苦しんでて、

そん時に唯一真面目に話聞いてくれてたのがマツキチで。

霊に苦しめられてる俺を庇うんでもなく、

霊も俺も庇いながら、よう話してくれた。

「カン、霊も人も同じだとワシは思う。
霊は苦しめようとしてるわけでもないんじゃないか?
お前が泣く程、頭が痛い時は、
霊も泣く程、頭が痛い。
泣く程、気持ち悪い時は、
霊も泣く程、気持ち悪い。
だったらだ、話しを聞いてやれ。
何も出来なくても、まず聞いてやれ。
ワシが霊ならきっと、それだけでも救われる。」

霊を感じる事も見る事もないマツキチの言葉は、

今考えたら、なんで知ってたん?

霊の対処の仕方。

霊の気持ち。

不思議で仕方ない。

日本に帰ったら、まずマツキチに会いに行こう。

そんで、マツキチに俺が泣いた事を聞いてもらおう。

マツキチはどんなヒントをくれるんやろか。






『お食事の用意が出来ましたので、
食堂へといらしてください。』






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