vol 98:出会い



「何?付いて行くだと?。」

「はい。」

「学校はどうする?。」

「勉強も大事ですが、父さんのやっていることの方が、
今は大事に思う。
それに、勉強はどこでも出来るので。」

僕は父親に了承を得る為、
学力テストの順位表を手渡す。

「・・・おぉ!1番じゃないか!。」

父親は見事に喜んだ。
フフ・・・人間の愚かな一部。

「だから、今の授業には十分過ぎる程ついていけてる。
お願い父さん、手伝わせて。」

「・・・お前がそこまで言うのなら、
これも神のお示しかもしれん。
準備しなさい。イエス。」

「あ、ありがとうございます!。」

僕は清らかに子供らしく笑みを見せた。
父親は母親に電話をするんだろうねぇ。
また、イエスが神に近付いたって。

僕はトランクを持ってリビングに行く。
父はリビングの壁に掛けられている十字架に膝まづき、

「主よ・・・どうか我々をお守りください。」

そう、祈っている。

「イエス、お前も祈りを捧げなさい。」

トランクから手を離して、
父の隣に膝まづく。
僕の最大の楽しい時間。

「主よ、僕は今日、尊敬する我が父にお許しをいただき、
貴方の子羊として救済活動に参加します。
どうか、一人でも多くの者を救う事が出来るように、
力をお貸しください。
アーメン。」

(主よ、僕は今日、馬鹿な人間と共に、
お前の子羊を救いに行く。
いやぁ、救う?
違う違う。
希望を持たせ、大いに暗闇へと導く為。
お前はもう天界へと昇り、
今や高見の見物状態。
フフ・・・最高の毎日を見てるといいよ。
神と共に。)

肉体の口から発せられる言葉。
心で発せられる言葉。

「イエスよ・・・立派な祈りだ。」

「父さん・・・。」

僕の祈りに感動した父親に、
僕は大笑いしそうで我慢するのに必死だった。

父親と共に家を出て空港に向かい、
遠く離れた今もなお内戦が酷く続く国、
アフガニスタンへと向かう。
父は神父の服装をし、
僕は白いカッターシャツに紺色のリボンを首に結び、
紺色のブレザーにズボンの格好。
僕が外に出れば、皆、僕を一度は見る。
真黒の肌に金色の髪が目立つんだ。
今、闇の世界に居る、この体の持ち主のイエスは、
この容姿も気にくわなかった。
黒人なら黒いチリチリした髪、
白人なら白い肌に金色の髪。
自分はどちらでもないと。
いつも人目を気にして俯いて歩いてた彼と僕は違う。
この容姿だからこそ、目立つ事が出来る。
胸を張って終始笑みを絶やさない。
人間に植え付ける。
僕のこの風格を。

「イエス、今から行く所は良く知っていると思う。
危ない場所だ。
あちこちでテロが行われている。
我々は孤児院や病院に行って聖書を皆に読み聞かせ、
希望を与える。
けして、父さんから離れるんじゃない。
いいな?。」

「・・・はい、父さん。」

飛行機の中で僕は本を読んでいた。
医療関係の本。

「それは、。」

「母さんの本を借りたんです。
向こうで負傷者に僕も処置の手助けをと。
医者や看護師の数も少ない。
薬だって。
だから自然の力を借りる方法とか。」

「自然の力?。」

「えぇ。そこらに生えてる草の種類によっては、
止血剤になったり、痛みを麻痺させる作用があるんです。
薬が足りなくても、薬の代わりにはなります。
ただ、あの土地は砂が多く、草があまりないでしょう。
トランクの中に草を摘んで来ました。」

「イエス、お前はなんて素晴らしい子だ。」

「いいえ父さん、こんな事をしても、
事態を止められるわけじゃない。
今の僕に出来る事は小さな事。
でも、それで一人でも苦しみから解き放てれば、
父さんの聖書の言葉も疑う事なく聞き入れられる。」

本当はこんなこと思いたくもないんだけどねぇ。
でも、この行動と言葉が大きな意味を示す。

飛行機が空港に到着した。
父について歩く。
現地の父を呼んだ仲間が空港で出迎えた。
父に紹介されて僕は微笑み頭を下げた。
人間に頭を下げる事への屈辱に、
耐える事が一番つらい。

仲間と共に空港を出ると声が聞こえる。

(神よ、救いたまえ!。)

僕は目を見開き、死の覚悟の声に父親の腕を強く引いてしゃがませ、

「父さん!伏せて!。」

大きな爆発音と共に爆風が押し寄せる。
辺りは砂埃りの中、視界が遮られ、

「い、イエス!大丈夫か!。」

「・・・うん。」

はっきり見えない視界の中、
大勢の悲鳴に僕は胸が高鳴る。
あぁ・・・なんて心地良い声。

次第に視界がはっきりすると、
向かいの建物から煙や火が出、
路上に人が飛ばされては倒れている。

騒がしい中に聞こえる声。

この声・・・。

「み、弥勒!この子、まだ生きとる!。」

その声に目を向ける。
眩しい光を纏った人間。
ずっと人間で会う事を夢見てた。
天の子。
カン・・・。

僕は吸い寄せられるようにカンに近付いた。

『あの、おねいさん?。』

流暢な日本語を使ってみせる。
振り向いたカンは僕を見つめる。
僕もカンを見つめた。

『あ・・・ごめんなさい。
女の人だと思って。』

カンの手に触れる。
やっと掴める。

やっと触れられた天の子の体。

僕に気付いていないのかい?。

『お兄さん、ここに居ると危ないですから。
こっちへ。』

やっと出会えた。

「おい、イエス!何をしている、そこは危ない!。」

「はい!父さん!今行きます!。」

嬉しいよ、カン。

君となんの話をしよう。

僕はカンの手を引いて父親と仲間のいる場所に向かったんだ。







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