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vol 99:企み
黒い肌に金色の髪、
そして、イエスという兄の名を持つ男の子。
彼に手をひかれる。
「み、弥勒っ!。」
咄嗟に不安に駆られ気付いていない弥勒の名を叫んだ。
「カンっ!。」
俺の声に気付いた弥勒が慌てて駆け寄ってくると、
弥勒は俺の逆側の手を掴み引きとめ、
イエスという男の子は弥勒に顔を向ける。
「・・・ここに居たら危ないから、。」
日本語で話すイエスに、弥勒は目を細め、
「ここに来てこんなにすぐに会えるなんてな。
聞いてた通りの姿だ。」
弥勒はこいつを知ってるのか?。
イエスはジッと弥勒を見つめているものの、
弥勒の言葉に柔い笑みを見せた。
「弥勒、知ってるん?。」
「あぁ。良く知ってるさ。」
イエスは笑み、弥勒に笑みはない。
『イエス!イエス、何をやって・・・、
その人達は?。』
牧師が英語を話して近付いて来た。
『父さん、彼らは日本人のボランティアに来た方々だそうです。
2人で・・・。』
弥勒が英語の解らない俺の耳元に口を近づけ、
「俺達はボランティアに来た奴らだって、
父親に説明してる。」
通訳。
『ふ、二人でこの内戦の地に?。』
父親は目を見開いて、
『そんな危険な!この地域を解ってるのか、この人達はっ!。』
いや、俺はここまで悲惨とは知らんかったで、オッサン。
『父さん、とにかく彼等も目的は同じです。
一緒に行動を共にしてはいけませんか?。』
「何?。」
弥勒は目を細めた。
「どないしたん?。」
小声で弥勒に問う。
「あいつ、俺らを同じ場所に連れて行くつもりだ。」
弥勒は黒人の金髪青年を知ってる。
俺は知らない。
イエスという名でも、兄と違うことは確かや。
でも、なんや俺もめちゃくちゃ知ってる気が・・・。
『お前がそこまで言うのなら。
手を貸していただけたら、こちらもありがたい。』
サタンは俺達に顔を向け、
「僕達についてきてくださ、。」
「何を企んでる・・・。」
弥勒が言葉を遮り、声が低くなる。
「何をって・・・フフ、やだねぇ。
そんな殺気立たせなくてもかまわないよ。」
こ、この話し方・・・。
「別に、今君達を手に掛けても、
それは僕にとって自殺行為にすぎやしない。」
黒い肌に金色の髪の青年が、
徐々にサタンの容姿が二重になって浮かびだす。
「さ、っう!。」
名を呼ぼうとした時、弥勒に口を塞がれた。
『神父様、我々は日本からアフガニスタンで起こっている状況を、
調べに来た者です。
滞在は明日まで。宿もとってない状況です。』
弥勒はサタンにではなく、神父に話しかけた。
『貴方は国家の者ですか?。』
『いいえ。ただの一般人。
ですが、今もなお続く戦争に心を痛めています。
我々はそんな戦争で被害にあって苦しんでいる人に、
少しでも何か出来ないかと思い、
一度この地の状況を調べに来ました。』
神父は弥勒の言葉を聞くと笑みを浮かべて手を差し出し、
『そうですか。我々と同じ。
私は神父のジム・ブロッド。』
神父は俺にはサタンにしか見えなくなった、
イエスの肩に片手を置き、
『こっちは、息子のイエスだ。』
弥勒は神父の手を掴み、
『私は弥勒、彼はカンと言います。
彼は英語が話せなくて。』
弥勒は俺に顔を向けて、
「カン、神父のジム・ブロッドさんだ。
で、息子のイエスだ・・・そうだ。」
弥勒の通訳を聞きながら、
神父と、イエスになっているサタンをジッと見つめる。
「フフ、カン、そんなに緊張しないでよ。
僕も会いたかった。
この日をどれだけ楽しみにしていたか。」
サタンの軽い態度に怒りが込み上げる。
さっきの自爆テロもきっとこいつは楽しんだに違いない。
弥勒は俺の肩を強く掴み、
「落ち着け、カン。
神父は自分の息子だと信じている。
体は人間の体にすぎない。」
『それでは、仲間の車が近くにあるそうだ。
今から孤児院に行く。』
弥勒から孤児院に行くと聞かされる。
「弥勒、ちょっと待てや!
ホンマに一緒に行くつもりか?
何が起こるかわからんねんぞ!。」
不安に駆られる俺。
孤児院でサタンが何かした時の光景に俺は耐えられる自信がない。
弥勒は眉尻下げて言う俺の頬に触れ、
「カン、あいつはまだ何も出来やしない。
ジム・ブロッドは有名なボランティア主催者だ。
そんな人間の子供になぜなったと思う?
しかも・・・宿敵なはずの神の子の名前の子供に。
あいつは、人間の最大の弱みを理解している。
究極の状態になったときに、人間がすがる存在。
それは神への信仰だ。」
何が言いたい?。
「とにかく、今あいつは人を傷つけることはしない。
救う事をしても、傷つけやしない。」
「さ、サタンが人を救う?。」
「カンさぁーん!弥勒さーん、行きますよぉ~!。」
先に歩きだした神父達と共にいるサタンが、
笑顔で手を振る。
『イエス、お前いつ日本語を覚えたんだ?。』
『父さん、僕は世界中の言葉を知っています。
何故だかわからないけど、知ってるんだ。』
息子の異変を神の生まれ変わりだと思っている父親。
それを周りの仲間に興奮しながら伝え、
それが伝染していく。
イエスとなったサタンは、こうやって名を広めていく。
神の生まれ変わりだと。
そう、俺の兄、主の生まれ変わりだと。
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