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vol 100:盲目の分別
古い車に数名が乗る。
その中に俺と弥勒と、
サタン。
『しかし、弥勒もカンも若いのに救済活動とは実に素晴らしい。』
前の助手席から神父のジムが話しかける。
『いや、こんな時代です。
日本もいろいろな事が起きていますが、
ここに比べれば平和そのものだ。』
弥勒が答えている間、窓の外を見つめてた。
銃を持った兵士がそこら中に居る。
日本に居る限り、見れへん嫌な光景。
「カン、食べる?。」
バンには運転手の隣にジム、
後ろは席が2つになっていて、サタンともう一人、
その後ろの席に俺と弥勒が座ってる。
前の席からサタンが手のひらに飴玉を置いて俺に差し出した。
「・・・いらん。
毒でも入ってるんやろ。」
俺は冷たくあしらう。
サタンは目を丸くするも、ニッコリ笑み、
「そうだねぇ、じゃ、これは孤児の子供にあげるよ。
毒入りの飴。喜んで欲しがる。」
「なっ!。」
俺は慌てて飴玉を奪うと袋から開けて口に入れた。
誰かがコイツの犠牲になるくらいやったら、
俺が死んだ方が俺的に後悔ない。
この行為にサタンは不思議そうな顔をして、
「毒入りだと思っているのにどうして。
自己犠牲のつもり?。」
「お前に犠牲者を与えるぐらいやったら、
俺が死んだ方が俺的に後悔せんからや!。」
「・・・ぷ、クックク。
知ってるの?それが俗に言う無駄死に。」
俺はカッとなって目を見開きサタンの肩に手を伸ばそうと、
「まぁ、それが無駄死にだとは限らないけど?
お前にとっては、その行為は屈辱で堪らないはずだ。」
弥勒が無表情に呟いた。
俺は手を下げる。
サタンは弥勒の言葉に一瞬無表情になったからや。
サタンは静かに体を前に向けた。
弥勒が1本取ったみたいやなぁ。
どれくらい走ったやろう。
車が止まった場所は空港から離れた古いボロボロの大きな建物。
元は白い壁に思えるけど。
『さぁ、着いた。』
「降りるぞ、カン。」
車からみんなが降りる。
エンジン音のせいか、建物の入り口からオバサンが出てきた。
『ジム!。』
『やぁ、エリー!変わりないか?。』
オッサンとオバサンが抱き合う。
この光景すら日本では考えられん。
特に俺らの世代では。
『いいえ、ジム。
子供達は増える一方で、もう我々の手にはおえないわ。』
「カン・・・見てみろ。」
弥勒に言われて孤児院の入り口に目をやった。
今にも転びそうに出てくる4、5歳の女の子。
片足がない。
その後ろから出てくる男の子。
両腕がない。
ぞろぞろと子供達が出てくる。
両目が潰れたような子供に、口から顎が半分ない子供、
顔や腕がケロイドの子、そんな子供ばかりが。
「酷い・・・。」
酷い。
天界から戦争の被害者はたくさん見てきた。
でも、生身で見るのとは全く違う。
ジムはここには頻繁に来ていて子供達も知っているはずなのに、
なんやろう、この脅えた感じ。
「酷いが、この子達は生きてる。
でも、心は死んでるも同然だ。」
弥勒はゆっくり足を進めて子供たちに近付いた。
サタンは、
サタンは目を細めて子供たちを一人一人、
物色するように見てる。
『こんにちわ。』
弥勒の声に俺は、サタンを睨む目を向ける。
弥勒は子供達と同じ背丈になるようにしゃがみ、
話しかけてるけど、
子供達は、まるで今にも泣きそうな表情で後ろに下がる。
「カン!来てくれ。」
弥勒は俺を呼んだ。
なぜ呼ばれたんか解らんけど、俺は弥勒に近付き隣に立つ。
したら、
両目の見えない子が近付いて来て、
俺の服を震えた小さな汚れた手で掴み、
『テンシさま?。』
塞いだ両目は青く腐ってるようにも見える。
この子が何を言うたんか解らん。
弥勒が眉尻下げ、
「天使さま?ってさ。
目は見えなくても、この子の目にはお前の光が見えてる。」
俺の光?。
『さぁ!みんな、おいで。
甘いチョコレート。みんなに持ってきたんだ!。』
大きな声でサタンが子供達に告げる。
金色の髪に黒い肌のその容姿こそ、
まるで天使のよう。
『チョコレート・・・チョコレート。』
そんな菓子なんて食べたこともない子供達は、
食べ物と言うだけで空腹の体が疼き、
必死でサタンの元に行っては両手を伸ばしてる。
入り口に居た子供は全員サタンの元に。
『お前は行かないのか?。』
俺の服を掴んでるこの子は、行かへんかった。
弥勒の問いかけにコクコクと頷いて、
『悪い奴。オレ、そんな奴のほしくない。』
『お前にはどう見えてる?。』
『いつも暗い。でも、テンシさまは眩しい。
アンタはお日様が落ちる時の色。オレンジ。
でも、アイツは赤い。真っ赤。
血の色よりも赤い。』
「弥勒、なんて言うてるねん?!。」
「なぜ行かないって聞いたら、
イエスは血よりも赤い色だからって。
俺はオレンジ、お前は眩しいらしい。」
「・・・。」
俺はしゃがんで問いかけた。
「お前、名前は?。」
『テンシさまが名前は?って。』
『チー。』
「チー?。」
『チー。』
頷いて俺に名前を教える。
「俺はカン。カ、ンや。」
自分に指をさしても見えてるわけでもないけど、
俺も名前を教える。
『か・・・』
「カン。」
『カ、ン・・・カン。』
「そう!カン。」
2文字の名前が相手に通じた時、めちゃめちゃ嬉しかった。
チーは服を離して両手を震わせながら俺の顔に触れて、
ペタペタ触っていく。
『カンの鼻はシスターより小さい・・・カンの目は大きい、
口、柔らかい。』
「お前の顔を覚えようとしてる。」
俺はチーの両目を見つめる。
痛々しい両目。
そっと、頬に指先を触れさせた。
チーは指に鼻を近づけ、
『カンの匂い・・・覚えた。
あんたも覚えたい。』
『俺は弥勒だ。みーろーく。』
弥勒がチーの手に触れた。
チーは俺から手を離して弥勒の顔を触り始める。
『み~ろぉ~?。』
『く。』
『み~ろぉ~くぅ。』
『そうだ。弥勒。』
『ミロク。カンより大きな手。』
微笑ましい光景を隣で眺めてたら視線を感じる。
目を向けると、サタンがジッと俺達を見てた。
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