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vol 95:1年の始まり
除夜の鐘が鳴る。
「年が明けたなぁ~。」
「あけましておめでとう、カン、弥勒。」
「おめでとうさん・・・弥勒潰れとるし。」
テレビは新年での盛り上がり。
俺は新年への不安。
「カン、黄泉の国に行く?。」
「おー、そうやなぁ。」
俺たちは眠りにつくと、あの世に行く事が出来る。
結局、肉体は休んでいるも神経は起きたままで、
気力は休まない。
(お帰りなさい、チビ神。)
(ただいま、みんな。)
大樹は黄泉の国に行き、
俺は天界へと向かった。
新年であろうも変わらないバタつきに目を奪われる。
皆は俺に頭を軽く下げるだけで慌ただしく動いてる。
やっぱ、帰ってくるのも気遣うなぁ。
天界を歩いていると兄を見かけた。
声を掛けようか迷ってる時に兄が気付いて、
(カン!お帰りなさい。)
主は俺の元に笑顔でやってきて、
俺は眉尻下げた。
(あー、帰って来たけど、なんや忙しそうやから。)
そんな俺を主は抱き締めて、
(忙しくても、お前がここに帰って来てくれて、
喜ばない者などいない。
神とは会われたか?。)
(いいや。今戻ったばっかやから。)
(そうですか。
一緒に行きましょう。)
仕事中にも関わらず、俺と共にいようとしてくれてる。
主と二人で神の元へ。
(父よ。天の子が帰ってまいりましたよ。)
部屋に入るとパパは相変わらず庭にいた。
(おぉ!我が娘。)
大きな両手を広げているパパは、
笑顔にも関わらず、悲しみに満ちていた。
俺は主に背中を押されてパパの元に行き、
広い体に抱きついて、
(ただいま。)
(良くぞ帰って来てくれた。)
俺の頬に当たる硬い物に顔を離して見ると、
それは以前サタンから神に渡してくれと言われた、
真っ赤な滴、サタンの涙。
神は受け取ったその時から首に掛けている。
パパは俺の後頭部を大きな手のひらで撫で続けては、
思い耽っている様子を見せる。
(パパ?。)
(蛇の子達は元気か?。)
(うん。毎日頑張っとる。)
(そうか。)
(神よ、葡萄酒を飲みましょう。)
(おぉ、それはいい。)
主の声に父に手を引かれて部屋に入ると、
3人でグラスを持ち酒を酌み交わす。
(主よ、皆を全員集めよ。)
(・・・はい。)
集める?。
(何するん?。)
神は酒を飲み干すと再び俺を引いては庭に出て、
自分の想像を形に表す。
庭はあっと言う間に高く聳える丘になり、
その真下には天界の住人達で埋め尽くされた。
主が戻ると、俺を真ん中に並んで立ち、
住人は俺達を見上げる。
(おぉ!神だ!。)
(神がいらっしゃる。)
天界に住んでいて、神の元で仕事をしていても、
神を目の前にする機会なんか滅多にない。
神は天界でも雲の上の人なんや。
羽根の生えた天使達が見守るなか、
神が声を上げる。
(私の可愛い子供たちよ、聞くがよい。
また、新しい世が始まった。
今以上に天界への死者も増え、
今以上に皆の仕事も増えるであろう。
だが、私と共に力を貸して欲しい。
我が娘にどうか力を。)
住民が手を上げて湧き立つ。
神は俺にも言葉をと告げてきた。
何を話せ言うねん。
(カン、皆への想いを話せばよいのです。)
主の言葉に、俺は唾を飲み込んで口を開く。
(アタシは・・・今人間をやってる。)
俺の言葉に静まり返る。
(天の子として、ここで生まれ育って、
今は人間になった。
人間になって解る事は良い事も悪い事も沢山あって、
欲のなかったアタシの心にも、
今は欲が存在する。)
住人達からしたら、
俺は神の子で完璧な存在。
せやから、欲の言葉には皆が頭を左右に振っては、
表情も悲しみに満ちた。
(せやけど、せやけど、その欲にも、
いろんな欲がある事に気付いたんや。
平和を望むのも、一種の欲の一つ。
物欲も愛情もなにもかも、欲に当てはまる。
その欲の中で人間は善悪を学び、
善悪を判別し、真実を学ぶ。
ただ、それはすっごく困難で・・・、
負けてしまう人間が多い。)
天使達の白や灰色の羽根が元気なく垂れさがる。
(みんなが頑張ってくれてたり、
こんな神の気持ちも解ってなく、
その気持ちを人間の理想に解釈して伝えられてる世の中が現実で、
心底、みんなの存在を信じてる奴なんかごくわずか。
そのわずかな人間をどんだけ増やし、
神の産物を救うかはアタシの役目。
そして・・・お前達の役目。
どうか、黄泉の国の神々のような、
大きな慈悲を持ち、
この天界の神や主のような大きな愛で、
小さなアタシの光に力を貸して欲しい。)
俺は人の姿を元の光の姿に変えた。
小さな小さな白い光。
(これがアタシの姿。
神の子はこんなにも小さな光。
でも、この光に沢山の光が集まれば・・・。)
主が俺の想いに答える様に光に変わり、
俺とひとつになる。
俺の光はサッカーボールくらいの大きさへ。
そこに天使達が光に姿を変えて、
次々と俺に重なり、
光の玉はどんどん大きくなっていく。
(天の子よ!
だが我々は光にはなれない!。)
天使や神使い達は、
光になる方法を知っている。
でも、死んで天界に来て、神の元で仕事をしながら修業している、
まだ間もない者達は光になる方法を知らない。
主は言う。
(お前達の心。
お前達が本当に慈悲を持ち、愛を知り、
神のお考えと同じであれば光になることができる。
さぁ、目を閉じ、自分に問うのです。
お前達の気持ちに問うのです。
天の子に力を貸したいのか。
そうでないのかを。)
住民達は皆目を閉じる。
ここで、人間を助けたって、
そんな気持ちが少しでもあるようなら光にはなれやしない。
徐々に受け入れる者達は小さな光になり俺に交わってくる。
光の中は神も住人も神使いも天使も抱きあい、
優しさで満る。
自分に問い、答えを見つけた者は、
どんどん光になり集まり、
答えを見出せない者が人の姿で残ってる。
それを見た神は、
(お前達、お前達の家族の為ではないか。
まだ生きているお前達の家族を救おうではないか。)
神の言葉に気付いた者は光に変わり、
それでも光に変われない者を神は風で引き寄せて、
大きな大きな光の玉の中に、その者達を入れる。
光の中の神も天使も何もない中、
愛情と優しさの中で徐々に全員が光に変わり、
最後に神がその大きな光に加わると、
光の玉は天界全てを真っ白な光で包みこんだ。
それはあの世にも溢れ、
黄泉の国は勿論、地獄にすら光が届き、
人間界の真っ暗な空をも、一瞬眩しい光が放った。
この天界の光に、
黄泉の国の全員の光が加われば、
それは偉大な力となる。
ただ、この光は善、愛、優の力であっても、
滅ぼすことにも変える光の玉。
皆の霊力の塊でもあるんや。
俺は言う。
(この想い、
この光をどうか忘れんといて欲しい。
その日が来たら、みんなにこの力を借りるから。
どうか・・・どうか・・・。)
「・・・。」
新年が明けて、ただならぬ気を感じた僕は、
ずっと夜空を眺めていた。
星が煌めく夜空。
「おかしな空気だねぇ。」
そう言って窓を開け冷たい夜風も気にせずに、
一心に空を見つめる。
大きな何かがどんどん迫ってくる感覚に目を細めると、
真っ暗な夜空が眩しい光に包まれた。
「くっ!。」
一瞬で消えた光でも、
僕にはその光の威力は直ぐに感じ取れる。
僕は眉尻下げては髪を掻き上げ、
「まいったなぁ~。」
天界は盛り上がってきちゃってる様子。
ここまでの光なら、地獄にも届いただろう。
窓から頭を出して地面を見つめ耳を澄ます。
(ギャァァァァ!。)
(ヒァアアアアア!。)
悪魔達の呻き声。
闇の者にとって、神々の光程、苦しいものはない。
「はぁ・・・。
やってくれるよ、全く。」
僕は窓を閉めてはベッドに腰掛け、
口元を緩ます。
「カン・・・お前何をやったんだい?
天界と言えども、まだ未熟な霊も多いはずなのに、
ここまでの光を集めるのには天界全員じゃなきゃ出来ない神業。
・・・ククク・・・っ、あははははは!
やるね。少しビクビクしてるよ、僕。」
自分の体に恐怖の寒気が走る。
それと共に喜びも。
僕は笑いが止まらなかった。
ベッドに仰向けに転がり天井見つめ、
「ハッピーニューイヤー。
聖戦の始まりだ。」
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