2012年前半

平成12月1月7日~9日
Special Topics in Calamity Physics (Marisha Pessel)☀☀☀


 主人公は16歳のブルー。母親を幼い時に亡くし、大学教員の父と暮らす。その彼女が、転校によって、ハンナ・シュナイダーなる美しい女性教員と知り合い、彼女の家に入り浸る5人の高校生のグループに入ったことから、今まで平穏であった日常生活がミステリーと化していく。冬休暇の旅、駅で買った雑誌に、この本の和訳版が絶賛されていた。これは、ともかく読みましょうと、旅行から帰ってすぐ購入。もともとニューヨークタイムズの年間ベスト5に選出されており、20歳代の作家のデビュー作という話題作の上に、素晴らしい書評が一杯掲載されている。これは、これはと期待して読み始めたけれど、80頁あたりで、う~ん止めようかな、だって思ったより退屈、500頁だし、と迷う。そして、180頁あたりで、うん、これはおもしろいからやっぱり読むべきか、と変わり、夜遅く380頁あたりで、さすがに寝なければと思った時には、続きも気になって本を置くのに迷ったぐらい。次の日、すぐに読み終えました。文学作品や他メディアからの頻繁な引用がちりばめられていて、私の力では、「ここは引用なのよねっ」と思うのが精一杯。それをおもしろくにっこりするほどの力はない私でも、それらをここまで引用できる作者のすごさには素直に感嘆はできる。何よりも、そんな迷宮に近い引用を全部は理解できなくても、最後まで読んで、最終テスト(あるんです。)を受けた後、解答を吟味して確かめてみる私がいた。また最初に戻って、そうか、と読んでみたり。結末がこうなるとは全く思わなかったけれど、最初からずっとヒントはきちんと示されていたのだから、フェアな終わり。やはりここまで話題になる本はすごいのですよね。主人公ブルーの強さもいい感じです。

“It’s always refreshing to find a writer who takes such joy in the magical tricks words can perform.” (Los Angeles Times)
“Pessel proves herself a precocious…novelist who’s more than capable of delivering a really good time…Playfully compelling…give the author an A.” (New York Daily News)


平成24年1月13日~15日
A New Life of E.M.Forster (Wendy Moffat)☀☀


 E.M.フォースターの生涯を、文献に残る彼の言葉と行動を丁寧に織り込みながら描いた伝記。学術書としての正確さを持ちながら、物語としての情感を持って、かくも著名な作家が描かれる時、一人の人間をよく知ったような、そして、その人の葛藤に、痛みに、幸福に、どれにも優しい気持ちを持ち得るような、そんな本だった。“but your love will.” (p.255)――文学者の言葉って、詩ですね。ジーンときました。自分のことをこのように描いてくれる研究者が登場した今は、彼にとっても、まさに “a happier year” なのでしょう。

書評を読んで
読み始めたのだが、その通りと感じた。
“A well-written, intelligent, and perceptive biography…Moffat, with considerable care and a sort of sympathy that Forster himself would have appreciated, makes the case for his life as an exemplary one.” (Colm toibin, the New York Times book Review)


平成24年1月29日
Goodby to Berlin (Christopher Isherwood)☀☀☀


 ナチスの台頭が影を落とす1930年初頭のベルリンに滞在する英国人の若者、クリスの目を通して描かれる様々な境遇に置かれた人々の物語。愛情を求めて裏切られて、それでも底なしに明るくふるまう英国人の女の子、トラウマから解放されることなく、愛情表現も上手くできない男性、変化しようとする社会でしたたかに生きる人々、そして生きることが出来ない人。結局、みな自分らしく生きるしかないゆえに、異質な者と出会って心乱され、それでも結局自分を生きていくしかない。孤独とこれを呼ぶなら、私達はみな孤独。ベルリンに生きる全ての人々から一定の距離をおいて見ているような視線が、出会う人々の「孤独」を見ることを可能にさせているのは確か。それは、自ら異邦人としてベルリンに生きるクリスの「孤独」でもある。作者の優れた筆致に引き込まれて読み、そして、静かな余韻が残った。まさに、小説を読んだ、という感じ。あまりに有名な作品だと、読む前から知っている感じで、読まないまま終わりそう、そんな作品の一つであるが、読んでよかった。“selfish”の定義、秀逸です。人間がよく見えている作家に、文才があれば、永遠に残る物語が生まれる、そして、その物語は、必然的に、その時代と文化を映し出す鏡となる、これは確かでしょう。

“Reading this novel is much like overhearing anecdotes in a crowded bar while history knocks impatiently at the windows.” (Guardian)


平成24年2月18日
The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian (Sherman Alexie)☀☀☀☀☀


 北アメリカの先住民スポーケン族の保留地に住む14歳の少年アーノルドが物語の語り手。みなが貧しく、希望を失って、そのことを当たり前として生きている、そんな保留地の高校から白人の通う高校へ転学した時から、保留地では裏切り者扱いをされ、一番の親友さえ失うことに。たった一人の「インディアン」となった転学先の高校生活も決して楽なわけではない。それでも、驚き、泣き、闘い、笑い、他者を求め、受け入れられたい気持ちを隠すこともなく、素直に自分に居場所を求めてすすむ。自分のアイデンティティを失わず、そして、「人生の希望」を求めることもあきらめない。主人公が描いているとして挿入されているイラストも秀逸。物語の中で、彼が泣いて、笑って、ひたむきに生きたように、私は、最初から(涙はかなり早くからでした。。)泣いて、笑って、本を読み終えるまでの数時間を、彼と生きた。本当に素敵なお話です。作者アレクシーによると、78%が彼の「自伝」だとのこと。
この作者の作品を何冊もその夜注文してしまった。
 数多くの賞を受賞している作品。読めば、それもうなずける。
“The National Book Award-nominated DIARY is a remarkable tale that is sure to resonate and lift spirits of all ages for years to come.” (USA TODAY)

特に、これは納得です。主人公は、ここ数年読んだ本の主人公の中で、もっとも記憶に残るものとなるでしょう。私の中で生き続けるでしょう。 “Sherman Alexie brings us a singular, true voice that’s heart-breaking, honest, and stubbornly memorable.”(Deb Caletti)
“What emerges most strongly is Junior’s uncompromising determination to press on while leaving nothing important behind.” (BCCB)
彼の「誠実」さが好きです。
家族にも、読んでみて、読んでみて、としつこく感動の共有を要求して、ついに読ませました!!


平成24年2月25日~28日
Reservation Blues (Sherman Alexie)☀☀


 北米先住民であるスポーケン族の保留地に、死者のはずの伝説のギターリストが姿を現して、自分のギターを置いていく。そのギターを持って、3人のスポーケン族の男たちがバンドを結成。メジャーを目指して、保留地を出ていく。アレクシーの作品を読みたくて、彼のまずデビュー作から読んでみた。思ったよりはずっと重いお話だったけれど、これが先住民の歴史なのだと思った。過去の苦闘が、「現代」になったからといって簡単に終わるような簡単なものではないことは、今ある「保留地」が示しているとおり。重いはずなのだ。 “He would live wherever his spit landed on the map. Still, he knew he would probably spit on his own reservation, just a green-colored spot on the map.”(p.256) “Spoken was only sixty miles from the reservation, but Thomas figured it was not closer than the moon.”(p.258) そうなのですよね。
そして、その重みを持ったまま、この現実的でかつお伽話のような、不思議な物語を詩情を漂わせて終えた作家の才能がすごいのでしょうね。“They were alive; they’d keep living.”(p.306) 終わりは、「希望」でしょうか。

“The mystical complexity of Reservation Blues is as mesmerizing as the poetic power of Alexie's writing.....Generously laced with bleak and sometimes wacky humor, but none of that detracts from the book's poignant theme.” (San Francisco Chronicle)

3月2日
The Hunger Games (Suzanne Collins)☂


 近未来社会、独裁国家が統治する。毎年、12区から一人ずつ少年と少女が選出され、殺し合う「ゲーム」が行われる。主人公のカットニスが、そのゲームの参加者となって、闘いに巻き込まれていく。映画化でかなりの話題になっているというニュースを見て、手にとってみた。もうダメ、もう無理と思いながら、もしかしたら急に引き込まれるかもと130頁まで頑張って続けて、ついに本を置く。これ以上、読むことは無理。「少女時代に読んでいたら」と仮定してみたけれど、読み続けたとは思えない。物語のセンセーショナルな設定、ステージ上の服選び、競争の仕方等の読者の関心を引き付けるための作為が全て見え見えで、三文小説って思ったでしょうね、少女時代に読んでも、きっと。

“A  violent, jarring, speed-rap of a novel that generates nearly constant suspense....I couldn't stop reading.” (Stephen King) 本当????でも、彼なら、そうなのかも。


3月9日~3月11日
The Lone Ranger and Tonto Fist Fight in Heaven (Sherman Alexie)☀☀


 互いに重なりあうようなストーリーからなる24の短編。その全てが、先住民の保留地の者達を取り巻くお話。閉塞感、アルコール依存、貧困、葛藤、諦め、それらが、時には悲劇的に、時にはユーモラスに語られていく。ヴィクター、トーマス、ジュニアといった、作者の別の物語の登場人物(らしき)も登場。厳しい現実に生きる人々の生を描いて、それでも笑いや詩情が漂う、そんな短編が続く。
“The ordinary can be like medicine.’(p.119)
“Imagination is the politics of dreams; imagination turns every word into a bottle rocket.・・・Imagine an escape. Imagine that your own shadow on the wall is a perfect door.”(p.153)
“because making fry bread and helping people die are the last two things Indians are good at.”(p.170)”
“The undertaker’s eyes always look like they’re measuring you for a coffin and the astronaut’s eyes are always looking up into the sky. My father was mostly unemployed. His eyes had stories written across the.” (p.220)
ふっと納得させられ瞬間が沢山あります。

“There is, to be sure, too much booze and too little hope on the reservation in Alexie's work, but also resilient real people—living and loving, and, above all, laughing.” (Seattle Post-Intelligencer)