2013年前半

平成24年12月30日~平成25年1月1日
Indian Killer(Sherman Alexie)☀☀


 シアトルに起こる殺人。被害者は白人、はがされた頭皮、残されたフクロウの羽根―全てが、「インディアン・キラー」を示唆している。続いておこる殺人も、子どもの誘拐も、みな被害者は白人である。「インディアン・キラー」は一体誰なのかというサスペンス調の物語に、生まれた直後に白人夫婦の養子となった青年、インディアンの女性と結婚し、つまらないインディアンを嫌悪し子どもに暴力を向けた白人の父を持つ青年、インディアンに傾倒して大学でインディアンは何かを滔々と教える白人学者、そうした彼の厚顔に怒りを隠せないインディアンの女性、自分がインディアンだと信じこむ白人男性等、そして、その彼等を取り巻く人々の物語が織り込まれ、お互いに関係しあって、物語は進展する。一度だって平等であったとはいえない歴史の中で、アイディンティティの葛藤、怒り、復讐、暴力――人々は、多くを失い、その喪失を生きてきたのだ。誰が「インディアン・キラー」なのか? 自分ではないと居直ることは出来ない。誰も無垢ではないのだ。
 登場人物の口から、今まで読んだどのアレックスの本よりも格段に激しい怒りー彼の想いでもあるはずーを語らせていると感じた。それでも、彼の優れた文章は、鋭い、でも完全には詩情を失わないままで、まるで何かずっと鳴り響く低音のメロディに載せたように、物語を一気に最後まで読ませてしまう。
 31日の夜、丁度、家族で話していてグールドの話題が出た。年を越した夜、続きを読もうと本を開いたら、インディアンの赤ちゃんを養子にした白人夫婦が疲れて乗っている車で聞くのがグールドだった。グールドもそうだよね。何がノーマルか、奇矯なのか、正しいのか、間違いなのか、真実なのか、私たちは本当のことを知らないまま、でも生きるしかない。でも、人生も、芸術も、その問いに真摯であれば、必ず誰かに何かの意味を持つように、歴史も、多くの誤りを内包しているがゆえに、人は真摯に怒り、振り返り、生きていくしかないのだろう。作家もまたそうしているのだし、読者も応えるべきなのだろう。

“Part thriller, part magical realism, and part social commentary, Indian Killer…lingers long past the final page.” (Seattle Weekly)


平成24年1月2日~3日
The Graveyard Book (Neil Gaiman)☀☀☀


 墓場の近くの家で、一家が惨殺されるが、偶然に偶然が重なって、赤ちゃんだけが生き延びる。その彼が墓場の死者達にNobodyと名付けられ、Bodと呼ばれて、彼等の巧みな連携プレーで、生きる者としての生を墓場で続けていく。女の子との出会い、死者達との触れ合い、死者の過去が見せる外の世界の現実、外の世界への憧れ、過去からの殺人者の影――ファンタジーの世界が、それを意識させることもなく、自然に描かれて、一人の少年の成長物語となっている感じ。話題となった児童書というだけで読み始めて、途中でダメだったらやめればね、ぐらいだったけれど、とんでもない。十分引き込まれ、ちょっと涙が出て、それでも元気な気持ちに満ちて終えた。物語の始まりにハリー・ポッターを思い出したけれど、こちらの方がずっとずっと好き。「ハリー・ポッター」で作者が描く死や魔法の力の認識に、興ざめして途中から読む気になれなかった私も、このお話の生と死の扱い、他者との関わり、人間が持つわかること、わからないものやことへの恐怖、には共感したし、最後の、少女の反応も納得した。生きる者はそうなのだし、またそうでなければまたならない。死に対して畏怖するから、生を渇望し、私たちは生きている者でありえる。戻ってくる場所は同じでも、予期できない生を必死で生きる。“I want everything.”―Podの言葉が生きるということ。大人を十分生きてきた私もまた、Podのように、“Leave no path untaken” で「生きること」を最後まで頑張らなければ。

“This is an utterly captivating tale that is cleverly told through an entertaining cast of ghostly characters.” (ALA Booklist)

準備したものを全て消化。お寿司、年越しそば、お節料理、お雑煮、鍋、カニ、エビーー冷蔵庫に入りきらなくて、どうなることかと思ったすべてが綺麗に片付いたし、よい本も読めたし、お正月らしいお正月も終わり。




長い間、このノートを記さないで過ぎました。
新しい小説は一冊きちんと読むことが全くない半年だったかも。
面白いかもと買った本を読み始めて、どうしても入り込めなくて途中で止めることは数回あり。
今となっては、わざわざここに書く気にもなれないので止めておきます。
結局、そばに本があれば読む時間も見つけるけれど、そうでない場合は、自分が読みたい本を探すほどの暇がないまま毎日が過ぎていくというのが、私の半年だったのでしょう。今年前半は、ベッドの側の本棚においてある今まで読んだ本を眠りにつく前に読む、それもすぐ眠りに・・・ということが多かったです。
その中でも、物語の粗筋を知っているので、もう読まないままでとただ持っていただけの一冊の本の素晴らしさを知ったのが、この半年での一番のよい読書かも。ただ、これについては、最初に読む気がなかったので、途中からちらっと拾い読み、拾い読みをさらに続け、それを最後まで続けて、結局、抜かした箇所に戻って全て読むという読書とは言い難い読み方となってしまいました。このノートには、原書を最初から読んでみたものだけ書いてきたので、例外となりますが、それでも書いておきます。

平成25年3月~5月
To Kill a Mockingbird (Harper Lee)☀☀☀☀


  1930年代のアラバマの町で起きた白人女性のレイプ事件。彼女が犯人として名指ししたのは黒人男性。無実の罪をきせられた彼を救うために努力する弁護士Atticusの娘Scoutの視線で見た事件、裁判、判決、裁判後が、後に彼女によって回想され語られる。人種差別、偏見、人間感情の引き起こす複雑な様相、家族といったテーマが重層的に重なっている物語でもある。Atticusの人間性がただただ素晴らしい。物語に描かれた人間の中でも、最も尊敬を覚える一人である。ただ途中を拾い読みしながら最後までいって、最初に戻って読むという読み方をしてしまったので、最初からきちんと読んでいたら物語にどの位引き込まれ、最後にどのように感じたのかがわからないことが残念。それでも、普通に最初から読んでいたら、ただただ引き込まれて、深い感動を覚えたのだろうなとは推測できる。変則的な読み方にしろ一度全てを読んでよかったと感じる本です。心に残る言葉の連続です。特にタイトルのMockingbirdのくだり。粗筋をすでに知っている本だからと読まないままでいなくて本当によかった。結末も秀逸。心に残ります。