2015年前半


平成27年1月19日
本を手に取ることもなくまま過ぎていきます。体調にかなり波があることもあることが理由。新年には魔法のように全てが元のようにとまでは期待していなかったはずだけど、それでもへこみます。そうだから余計に、今年最初に手にとって読む本で心が少しでも舞い上がるといいなあと慎重になっているかも。今週のタイムに、ヤングアダルトへ(もしくは「心はヤングアダルトへ」ですよねっ)のお勧めの本トップテン(それに加えて、15冊)が出ていました。その選択がとてもいいんです。だって、トップが私が数年前に読んで、本当に大・大好きと思った本で、家族にも「読んでみてよ」と共有したくて頼まずにはいられなかった本。結局、リストされている25冊の中に、私の大好きな本、☀☀☀☀級が8冊,今まで読んで十分楽しんだ本☀☀級も6冊はいっている!ということは、ここにリストされた他の本を私が好きである可能性は高いということ。補講が試験の最終日にもまだ三コマあるという1月。これらの準備、テスト、採点で、どうせ家でも読書の時間はまとまっては取れないし。今年最初に読む本は、この中から選んでゆっくりスタートすることにしました。トップテンの中で3冊まだ読んだことがない本があるので、まずはそこから。 自分の体が思うようにならない日が続く今、勇気をうんと与えてくれるといいな、そんな期待もして。


平成27年2月22日
The Railman (Eric Lomax) ☀☀


英国人エリック・ローマクス(1919-2012)の自叙伝で、同年の「エクスワイア」誌ノンフィクション賞を受賞している。英国の静かな港町に住む郵便局員一家の一人っ子として生まれ、父親と同じく郵便局に勤務する鉄道マニアの内省的な青年へと育ち、1939年に英国軍に入隊する。1941年、彼の部隊はアジアに送られ、シンガポール戦線に就く。日本軍の攻撃が激しさを増した1942年2月、英国軍の降伏とともに捕虜生活に入る。その20代での戦争体験を中心に、戦後50年以上を経るまでのローマクスの戦争後の長期間にわたる人生が描かれている。過酷な捕虜生活と拷問の記述にも圧倒されるが、拷問時の通訳である永瀬とローマクスの戦後の再会がこの物語のハイライトだと感じる。出来事の後をどのように生きるかがいつも問われるのだ。残酷な偶然性にどこまで翻弄されることなく、自分の人間性を高みにおいて生きていけるのか―自分にも問いながら読み終えた。“my total forgiveness”(p.318) は私には可能なのかと。そうあって欲しい。

“A profound and beautifully written story of heart-rending honesty.”(Sunday Times)


平成27年2月23日~24日
Unbroken (Laura Hillenbrand)☀☀


ルイス・ザンペリーニ (1917-2014) の伝記で、2010年出版された。2010年のタイム誌による “Top 10 Nonfiction,” 同年のロサンジェルス・タイムズブック賞等、幾つもの賞を得ている。ザンペリーニは、1936年ベルリンオリンピックに出場したトラック選手で、第二次世界大戦中、搭乗機が太平洋に墜落、47日間の漂流を経て日本軍の捕虜となり、日本に送還され、捕虜収容所で過酷な捕虜生活を送る。The Railmanと同じく、20代での戦争体験を中心に、戦後50年以上にわたる人生が描かれている。反日的という映画の批判に興味を持って読んでみた。旧日本軍の残虐さを強調し過ぎているという批判や歴史的事実が歪曲されているという批判がある。でも、戦争そのものの残酷さは、どちらの側から描かれても理解できる。そして、ザンペリーニは、少なくとも、この本に書かれている過酷な出来事を生きたことは事実なのだ。 “He was not worthless, broken, forsaken man that the Bird had striven to make of him.”(p.383) 「He」は、どちらの側にもいたのであろうし、「the Bird」もである。私達にとって気にしなければいけないことは、戦争そのものの愚行に気付き、両方の側に痛みがあるということをきちんと認識できる力を持っているかどうかのはず。
納得したのは↓。完全なハリウッド的ヒーロー物語のような展開ではあった。でも、ノンフィクション。
“Thrilling…stirring and triumphant…irresistible…Hillenbrand tells (Zamperini’s) story as nearly continuous flow of suspense.”(Los Angeles Times)



平成27年3月8日
A Wrinkle in Time (Madeleine L’Eengle)☀☀


 行方不明になっている物理学者の父親を探して旅に出ることになった14歳のメグ、幼い弟チャールズ、メグと同じ学校に通うカルビンの3人が魔女たちの助けで行き着いたのは悪の支配する惑星カマゾッフ。はたして3人は父親を探して、地球に無事に戻れるのかーというSFファンタジー。Timeの勧めるヤングアダルトへのトップ10 のリストの中でまだ読んだことがない三冊の本の中の一冊。これは4位でした。とても賢いのに、学校では不器用に振る舞って浮いてしまうメグと、天才的知能を持つゆえに敬遠され疎外されるチャールズ、家庭で孤立感を深めているカルビン、と3人がそれぞれ生きづらさを抱えている設定からも、なぜ悪が「悪」であるかについての説明からも、作者の子どもの本に入れ込んだ思いが分かる気がする本である。“Like and equal are not the same thing at all!”(p.177)、“Maybe if you aren’t unhappy sometimes you don’t know how to be happy.”(p.157) と大人にも考えさせる言葉がいくつも。でも、もともとSFファンタジーは苦手。時空の旅になった途端、自分も眩暈がしてくるタイプだから、はまるとまではいかなかった。でも、60年代に書かれた良書が、今でもその魅力を失っていないのはわかる。作者のニューベリー賞受賞の際のスピーチが本の最後についていて、それも良かった。作者が熱い思いをこめた書いた子どものためのファンタジー物語は時間を超えて永遠性を持ちえたのですものね。 “What have I got that IT hasn’t got?”(p.225) への答え、とてもいいなあ。私もそう、私が唯一持っているものだ、と思った。
タイム誌の言葉です↓
“Madeleine L’Engle’s surrealist adventure has provided generations of children with their first-ever mind-blowing experiences, as Meg travels across the fifth dimension in search of her father. But the sci-fi also has a message: Meg learns self-sufficiency and bravery in the process.”


平成27年3月22日
The Phantom Tollbooth (Norton Juster)☀☀


 何をするのにも意欲が出ない退屈しきっている少年Miloが、彼の部屋に突然出現した料金徴収所から、退屈しのぎに自分のおもちゃの車に乗って旅に出る。奇妙な場所を訪れ、不思議な出来事の連続の中で、彼には、二人の旅の仲間、番犬のTockと威張った昆虫のHumbug、と、旅の目的、Princess Rhyme とPrincess Reasonの救出、ができる。“I never knew words could be so confusing,” ”Only when you use a lot to say a little.” (p.44) 、smallest giant, the tallest midget のくだり(pp.111~114), the biggest 3,longest 8 (p.189) 、“As long as you have the sound of laughter,” “I can’t take your sense of humor-and, with it, you’ve nothing to fear from me.”(p.230)と、不思議な人々、言葉、数字、論理的な言い回しの遊びが満載で、そこに大人もそうよねとうなずくような言葉も度々出てくる。『不思議な国のアリス』の少年版という感じで最初は読んでいたけど、読後感はアリスとはかなり違うかも。学ぶことについての王女たちの言葉は誰でも納得するはず!!自分のまわりの世界に退屈していた少年Miloにとっては、この不思議な旅は貴重な学びの旅であり、だからMiloの最後の言葉ににっこりしてしまう。タイム誌のお勧めトップ10の9位。これで未読はあと一冊。

なるほどね。アリスにドロシーもはいっている。↓
“Most books advertised for ‘readers of all ages’ fail to keep their promise….[The Phantom Tollbooth] has something wonderful for anyone old enough to relish the allegorical wisdom of Alice in Wonderland and the pointed whimsy of The Wizard of Oz.” (Ann McGovern, The New York Times)

“I read [The Phantom Tollbooth] first when I was ten. I still have the book report I wrote, which began `This is the best book ever,’” (Anna Quindlen, The New York Times)


平成27年3月23日
Looking for Alaska (John Green)☁


 フロリダの公立高校では、友達もできないでいる主人公Pudgeが、父親が行ったアラバマの寄宿学校に転校。そこで彼が出会うのは、魅力一杯の個性的なAlaska。タイム誌のお勧めトップ10+15作品のうちの一冊。50頁まで読んで、もう止めようと本を置いた。この作者は、文章は上手いし、登場人物の会話も洒落ているし、前読んだThe Fault in Our Starsの時も、読んで、心も動いた。ただ、その時も、この作者の計算を感じてしまう瞬間があってちょっと気になったのは事実。でも感動的なストーリーだし、気にしないで素直に読み終えるべきよねと思った。今回、この作者は私にはダメだと思った。考えながら書いている作者が先に浮かんでくる感じで、こんなに作為性が気になるのでは、このまま最後まで読んでも主人公が物語の中で生きてこないのではと思えて、それ以上続けて読みたくなくなった。読み続けたら、Alaskaをめぐって驚くような展開が巧みに用意されているのだろうけれど、それなりに引き込まれて読んでしまうだろうけれどね。

そして読めば↓には感じたのだろうけれど。
“A terrific high-energy tale of teen love, lust, intrigue, anger, pain , and friendship.” (Booklist)


平成27年3月24日
Roll of Thunder, Hear My Cry (Mildred D. Taylor)☀☀


1977年ニューベリー賞受賞作品。タイム誌のお勧めトップ10+15作品のうちの一冊。1930年代のミシシッピー州、黒人のローガン一家の暮らしが9歳の少女Cassieを語り手として描かれる。12歳の兄Stacyと弟Christopher-John、Little Man、父David, 母Mary, 祖母、シカゴに住む叔父Hammerというローガン家のメンバーに、一家の農場を手伝うようになるMr. Morrison、次第に道を踏み外していく友達T.J. 、家族は人種差別主義者なのに、1人だけローガン一家の子ども達と友達になろうとする白人少年Jeremyといった人々が加わり、貧困、差別、搾取、リンチ、迫害、その真っ只中に生きることはどのような事であるのかが自然に理解できるような物語が展開する。「正しくない」と分かっていても、「正しくないことが正しいとされる社会」では、自分に出来ることは限られている、家族の安全も気になる、それでも自分の正義の思いを示して何らかの行動をしないではいられない―家族みんながそうした生き方をそれぞれが精一杯しているから、偏見に満ちた社会ではローガン家に大きな試練が降りかかる。でも、言葉で差別反対と言うのは易しいけれど、その中にいて「生きる」ことは大変なこと。自分が妥協できないことと家族を気に掛けることの両方を大事に精一杯生きようとしているローガン一家の幸せを祈らずにはいられない。“White people may demand our respect, but what we give them is not respect but fear…Now you may have to call Lillian Jean ‘Miss’ because the white people say so, but you’ll also call our own young ladies at church ‘Miss’ because you really do respect them.”(p.129) 不当さに憤るCassieに向けた母親の言葉。続編があると知って、すぐ注文した。

“Taylor…writes not with rancor or bitterness of indignities, but with pride, strength, and respect for humanity.” (The New York Times Book Review)


平成27年3月25日
The Miraculous Journey of Edward Tulane (Kate Dicamillo)☀☀☀☀


 美しい陶器の兎のEdwardは、彼を愛してやまない持ち主のAbelineの家族と一緒の旅の途中で、悪戯な子どもに海に落とされてしまう。拾われて漁師夫婦の家に、そしてまたもや、と転々としていく。彼は、時には彼女として扱われ、名前も代わる。一番大きな変化は、Edwardの愛することへの思いである。Abelineと一緒の時に、自分を本当に愛してくれる少女に対して、愛することは何であるかをわからないでいた彼が、愛することと、それゆえにおきる心の変化を知るのである。名前を持ち、名前で呼ぶ、そうした代替不可能な者を愛するがゆえに、喜び、痛み、希望、絶望がある。途中で涙があふれ出た。涙を目にためながら、最後まで読み終えた。生きることは易しいことでもなく、永遠でもないことがよくわかる今、心から愛する人々がいたこと、そして愛してもらえたこと、そのことが私の生の唯一のそして全ての意味だったのだと分かる。一度読むだけで忘れないような、そんな話。美しい話。終わりも挿絵も好き。 “Someone will come for you.” 私も、愛する人を残すしかない、その日が来た時に言いたい。愛する人のために希望を残して旅立ちたい。
タイム誌のお勧めトップ10+15作品のうちの一冊。この作家の作品はすでに2冊読んでいることに気付きました。他のも全て読んでみたいと思わせる作家です。

そうかもしれません。↓でも、私には、大人のために書かれた児童文学のような感じも。それとも、子ども時代に読めていたら、今自分を苦しめている後悔がなかったのかも。物語の中の "You disappoint me." -私にもまた向けられた言葉のようで、胸が痛みます。
“This is so good that I'm considering having it implanted as a false memory from my childhood." (Sunday Telegraph)
“Beautiful in every sense... I wish I had had it as a child."(Observer)

 

平成27年3月28日                                         Let the Circle Be Unbroken (Mildred D. Taylor)☀☀


 Roll of Thunder Hear My Cryの続編。ローガン一家の暮らしが9歳の少女Cassieを語り手として描かれるのは同じ。T.J.の裁判、一緒に住むようになるMariaの甥Budの娘Suzella、Staceyに起こる変化、組合運動、選挙登録、と一家をめぐる全ての出来事は、それが公的な空間であれ、私的な空間であれ、差別と関係しないではいられない。Suzellaが黒人の父親と白人の母親との間に生まれ外見が白人と見えるために起こる一連の出来事も、組合運動をめぐる弾圧が人種間の差別感情を利用することも、Staceyの大きな決断も、DavidとMariaの夫婦関係も、親子関係も、Suzellaのアイデンティティの選択も、である。安全という点では「賢い」選択でないことはあっても、ローガン一家の人々の選択は、自分らしく精一杯正しく生きている努力の中で出てきたもの。それはこの続編でも変わらない。裁判のあたりで、1960年出版の古典的名作、To Kill a Mockingbird を思い出した。1990年代に出版された人種差別を扱ったこの小説が影響を受けるのは必然といってもよいだろう。前者は白人の少女の視点から、これは黒人の少女の視点から描かれている。この二人が成長した社会で、はじめて差別のない社会への希望が生まれるのかも。そして、そう言えるのは、差別されない側だけが言えるようなお気楽な言葉であることも、この物語を読めばよく分かるのだけれど。

“Powerful…readers will be moved by the intense drama.” (School Library Journal)


平成27年3月30日
There’s a Boy in the Girls’ Bathroom (Louis Sachar)☀☀☀


 クラスメートからは完全に無視され、先生からも煙たがられている少年ブラッドリー。彼の前にも横にも誰も座らないし、誰も話しかけないし、彼もまた、授業に加わることなく一人の世界にはいっている毎日。唯一の友達で会話の相手となるのは自宅の部屋の人形の動物達。そのブラッドリーの日常が、空いている彼の横に座ることになる転校生ジェフとカウンセラーのカーラ先生の登場で変化していく。自分が傷つかないように自己否定をし続けるブラッドリーに気付いたら涙がじわっと出ていた。子どもに是非読んでほしいと思える、本当にいい話。ブラッドリーや子ども達へのカーラ先生の数々の言葉は全部私にも響いた。“I don’t believe in accidents.”―そうよね、私も自分に素直に生きなくては。タイム誌のトップ10が入っているHolesの作者の作品で、ネット検索の途中でとても誉めてあるのを見て読んでみた。あっという間に読める本なのだけど、物語の展開は、私の固い頭で予想することを次々裏切って、そして、それゆえにもっともっと納得できる。完全な「悪者」は登場しないまま、子ども達にもブラッドリーの家族にもみな優しい気持ちで読み終えられるのもいい。Holesはずいぶん前に読んだので、もう一度読んでみよう。

“A humorous and immensely appealing story.Readers are likely to come away with the sense that they've been rooting for themselves too.”(Kirkus)

体が元のようにはもうならないだけでなく、問題もあることがわかった今、食事の用意をする度に、この日常を出来るだけ長く続けることができますようにという思いで胸がしめつけられる。私が愛する人達のために唯一してあげられる食事をこのまま自分が作り続けることができますようにと。調子が悪い時には、その日常が今すぐに止まってしまうのではと今度は恐怖でいっぱいになって涙があふれる。お父さん、お母さん、いつかは私も会えるでしょう。会いたいです。会って至らなかったことをすべて謝りたいです。でもそれは出来るだけ遠いいつかであってほしい。愛する人々のために、どうぞ私を今いる場所に生かしてくださいと祈っている私がいる。普通に元気でいることのハードルが限りなくあがったまま、ついに一年以上が経ちました。