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vol 91:ヘタレ卒業
カンの居ない家に帰る。
夕飯、買って帰らないと。
コンビニに寄って、美味しそうとは言えない弁当を、
弥勒の分も買って家路に着く。
「ただいまぁ~。」
玄関の電気は点いているもリビングは消えていて、
どうやら弥勒も居ないみたい。
「ハァ・・・一人か。」
カンや弥勒と暮らしてきて、
この家に一人になった事なんて殆どない。
俺ってこんなに寂しがり屋だった?。
そう思わせるような気分になる。
リビングの電気を点けると、
コタツにはラップのかかった料理が並べてあって、
置き手紙付き。
大樹へ。
おかえり。
夕飯、チンして食え。
ご飯も炊いてあるから、ありがたく食え。
弥勒の分はキッチンに置いてあるから、
また帰りが遅いようやったら先に食べるように!
ちゃんと風邪ひかんように寝ろよ~。
カンより。
「・・・一人で寝るんだもん、
風邪、ひいちゃうよ、カン。」
誰も居ない部屋で一人呟く。
俺、ヘタレ復活か。
でも、こうやって夕飯の支度までしてくれて、
それだけで胸が熱くなる。
それと共に、寂しさも倍増。
ホロリと涙が出そうになった時に、
弟が姿を現した。
(兄様、おかえりなさい。)
この時の嬉しさは半端ない。
「し、シロ~!。」
いつもは蛇の姿のシロが今日は人形(ヒトガタ)だったから。
シロに抱きついたけど、シロは霊だから通り抜けて床に倒れた。
(なっ!。)
「うぅ・・・シロぉ、なんで、なんで・・・。」
半泣きの顔をシロに向けるとシロは苦笑しては、
眉尻下げて俺にしゃがみ、
(兄様、今更の発言はやめてくれ。)
「だって、だってカンが居ない。」
俺はそのままうつ伏せになってはシクシク泣いた。
(兄様、カン如きでその様な事を。
早く、食事を済ませたらどうだ?。)
シロは冷たい。
起きあがっては料理をキッチンに運んでレンジで温める。
コンロに片手鍋が。
そこにも置き手紙。
大樹へ
味噌汁です。
温めて食いやがれ。
泣いてたら、殴る。
カンより
鍋の蓋を開けると、
「わぁ!俺の好きな豚汁!。」
俺の好物。
そう言えば・・・、
おかずも俺の好きなものばかり。
「・・・カン~。」
キッチンで再び泣く。
グズりながらコンロの火を点けて味噌汁を温め、
茶碗にご飯盛ってはコタツに運ぶ。
(兄様、達磨大師の修業はどうだ?。
やはり、キツいのか?。)
俺は今、達磨大師に修業されている。
決まって丑の刻。
あの世に行き、達磨大師の元で悟りの修業。
毎日熟睡出来るのは2時間程度。
「修業・・・自体はキツくない、よっ。
ただ、気力と体力がキツい。」
キッチンからリビングへと泣き声でシロに答えた。
生きた人間が体を離れると気力を消耗する。
そしてそれを体力がカバーするんだけど、
続けば、体力も消耗していく。
達磨大師によれば、
これもまた、修業だそうだ。
それに慣れる為には気力を大幅に上げる必要がある。
それが霊力にも繋がる。
出来あがった料理を運び終え、
コタツに座ると両手を合わせて、
「いただきます。」
感謝して食べる。
好きな人の作った料理は格別に美味い。
寂しさが幸せへと変わる。
「シロは何をしているの?。」
(我は、阿弥陀如来の元に。)
「へー、阿弥陀様。
どう?キツいかい?。」
俺は微笑んでシロに問う。
シロは顔を顰めて、
(キツいというよりも理解に苦しむ。
あの方は、どんな者にもそこには理由が存在し、
そしてどんな者にも慈悲の心をと言われる。
地獄を見せられたが、
どいつも未だ自分の事しかない。
自分が助ければ相手など、どうでも良い考えの者ばかり。
その者になんの慈悲を持てというのか。)
「じゃぁ・・・シロは俺が嫌い?。」
(は?。)
「シロは俺に慈悲を持ってはくれないの?。」
夕食を食べながら話す。
(何を言う。我が兄様に慈悲を持たないわけがない!。)
「どうして?
俺はシロが言う奴らと同じだよ。」
(ち、違う。兄様は自分の事以上に相手の事も、。」
(それは違う。
俺も自分が一番可愛いさ。
相手の事を思っている様に見えたとしても、
思っているとしても、
それは自分の為だと思うよ。
相手からすれば、要らぬお節介。
俺はもし、カンに何かあれば、
何かした奴にどんな理由があっても、
そいつを憎み、怨み、殺してしまうかもしれない。」
シロの表情は固まった。
「皆、自分の大事なものを理不尽な事で失えば、
それは怒りに変わり、
憎悪する。
俺もその一人。
いざとなった時に、相手の事を思ってやれるのか。
それは、その時にしか解らない。
それが出来るのが阿弥陀様。
だから阿弥陀如来になれた。
俺達があの方になろうと思えば、
そりゃなれるかもしれない。
でも、そんじょそこらじゃなれやしないよ。」
兄弟だからこそ言える本音トーク。
(兄様・・・。)
シロは一気に不安に満ちる。
それは相手の気で解るんだ。
「ただね、阿弥陀様の教えを知っているのと知らないのとでは、
大きく変わる。
理解出来なくても知っていれば、
憎悪や怒りも、なんの解決にもならない事が解る。
相手にただぶつけて終了。
それこそ相手にも自分にとっても何の行動にもならない。
でも、阿弥陀様の言う相手の理由を知れば、
憎悪や怒りが生まれても、
それを違う使い方が出来るかもしれない。」
(違う使い方?。)
「そ。違う使い方。
ごちそうさまでした。」
両手を合わせて完食。
シロは眉尻下げて俺にその先、
答えを聞きたいと言わんばかりに見つめてくる。
「駄目だよ。
これ以上は自分で悟らなきゃ。
俺は毎日、無の世界で静かに思いだされる過去に、
考え、静かに悟りを開くんだ。
結構、精神的にも苦労してるし。
それで解った事をお前に話してやるのは簡単。
でも、聞く言葉は自分の中で残るだけで、
自分の力にはならない。
解ってるだろ?。」
立ちあがって後片付けを済ませる。
(わ、解っている。だが、我には理解出来ん。)
シロはこう思ってるだろうね。
兄様は阿弥陀如来の告げる事を理解している。
それなのに、何故我は解らないのか。
シロが解っていて、
俺には解らない事なんて沢山あるのに。
でも、シロは人一倍自分を高めたい気持ちが強い。
プライドだ。
可愛い弟の大きな弱点。
リビングで難しい顔をしている弟に、
俺は洗い物をしながら声を掛けてやる。
「シロ・・・大丈夫。
時間はないけど、この世とあの世の時間は大きく違う。
あの世は早い。
この世は遅い。
シロは優秀な蛇の国の神子なんだよ?
焦らずに素直になれば、直、解けるさ。」
家の電話が鳴りだした。
慌てて泡の手を洗い、受話器を取る。
「もしもし?。」
『大樹かぁ?。』
「カン!。」
嬉しく名を呼ぶ。
『飯、ちゃんと食った?。』
「う、うん!勿論!
すっごく美味しかったよ!
俺の好物ばっかりだった!。」
興奮が納まらない。
『どーせ、俺がおらんからシクシクメソメソするんちゃうかな~、
って思ったからなぁ。
泣いたら殴るけど、泣いた?。』
「な、泣くわけないじゃん!。」
既にまた涙が溢れてくる。
『お!偉いやん。ヘタレ大樹卒業やなぁ。』
胸が痛い。
「今、ホテルなの?。」
『いや、出版社の社長と飲んでるとこ。
今後の話しも含め。』
「え、そうなの?
電話してていいの?。」
『アカンけど・・・なんや気になって。
ちゃんと飯食ったみたいやから安心したわ。
今日も修業あるんやし、
早めに寝て備えとけよ?。』
カンは優しい。
「うん。解ってる。
ありがとう、カン。」
『おう。ほんなら明日帰るから。』
「待ってるよ。
おやすみ、カン。」
『おやすみ~。』
「愛して、。」
『ツーツーツー。』
切られた。
愛してるって言いたかったのに・・・。
俺もやって聞きたかったのに・・・。
「うぅ・・・。」
俺は床にうつ伏せになり、
泣いた。
「ただ・・・、わ!大樹が死んでる!。」
弥勒が帰宅。
廊下から見えるリビングでうつ伏せに倒れている俺を足で突く。
「うぇ~ん、弥勒ぅ~。」
俺は泣き顔を上げる。
「大樹・・・鼻水が2本も出てるぞ。
・・・ギャハ!。」
弥勒は当分、俺の泣き顔で笑い転げていた。
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