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小林正明相模原市議会議員 トップ >> 平成24年11月29日 平成24年12月議会 代表質問


議案第149号相模原市下水道事業の設置等に関する条例 反対討論

相模原市議会議員 小 林 正 明


49番、小林です。

市民連合を代表して議案第149号相模原市下水道事業の設置等に関する条例について、反対の立場から討論を行います。

討論は、時間制限のないことが最大の魅力、今回は約1時間程度・・・・のお付き合いとも思いましたが、時間をかければ全てよしでもなく、「我思う、故に我あり。我ら議論する、故に我らあり。」の心で、討論に入りますのでご静聴の程宜しくお願い致します。

今回の論点は、議会の議決権と公営企業会計が両立可能かどうかです。

ズバリ言えば、現実的には可能です。本議会が本条例を否決すればです。

早速、討論に入ります。

議案第149号の条例は、現行の地方財政法に基づく公営企業から、地方公営企業法を一部適用して企業会計方式を導入しようとするもので、条例が可決されれば特別会計による公会計から企業会計に変わります。

法律の適用や会計形態は変わりますが、@公営企業であることやA独立採算の原則及びB雨水公費・汚水私費の原則は今までも今後も変わりなく同じです。

議論の展開としては、先ず市の考え方を整理した上で、議決権に関する論点に入ります。

先ず、市の考え方を整理します。

下水道事業に企業会計を導入する市の目的として@独立採算の原則及び雨水公費・汚水私費の原則を明確化するA現行は「必要に応じて必要な額」を一般会計から繰入していたものを、今後は国(総務省)の繰出基準を基本に公費・私費の区分の明確化を図るとしています。

市は、説明や答弁の際、殊のほか独立採算の原則及び雨水公費・汚水私費の原則を強調していますが、先ほど触れましたように現行の公会計処理にもこの原則は適用されています。

ここで、下水道の役割について考えてみたいと思います。

代表質問でも言及しましたが、公共下水道には二つの役割があります。

一つ目は、トイレの水洗化等に見られるように個人の生活の便益が向上することに着目した場合の私的役割、個人的な私益的な役割です。

二つ目は、公共用水域の水質保全等の公益的な効果に着目した場合の公共的役割です。

即ち、公共下水道の役割は、私的役割と公共的役割の二つの役割があり、決して私的役割のみではなく、公共的役割があることに着目することが重要です。

だからこそ、独立採算の原則及び雨水公費・汚水私費の原則適用とはいえ、公費負担として一般会計から下水道会計に繰入金を繰り出してきたのです。

ここでは公費負担とは繰入金のことで、使用料とは私費負担のことです。

下水道事業経費は、雨水経費と汚水経費に分類されます。

ご存じのように、雨水経費は全額公費負担ですから全額繰入金で充当されます。

汚水経費は、私費ですから使用料で充当されるのが原則です。

しかし、汚水にも公共的役割がありますから汚水経費にも公費が充当され、計算式では汚水経費=私費負担+公費負担=使用料+繰入金となります。

公費負担(繰入金)の内訳は、総務省通達に基づく公費負担としての基準内繰入と自治体の政策判断に基づく基準外繰入の合計です。

市は下水道の公共的側面に言及することなく、下水道会計の収支不足分(赤字)を「必要に応じて、必要な額」を繰入し赤字の解消に努め、現行の繰入の根拠が恰も薄弱であったかのような説明をしています。

雨水経費は当然公費ですから、下水道会計に対する一般会計からの繰り入れとは、汚水経費への公費負担のことであり、@総務省の通達による基準内繰入とA公共的役割としての自治体の政策判断に基づく基準外繰入のことです。

現行の@汚水経費に対する市の政策判断に基づく基準外繰入及びA総務省通達の基準内繰入の経過を「必要に応じて、必要な額」と市は表現しています。

市は「必要に応じて、必要な額」を一般会計から下水道会計に今までは繰入したけれども、今後は国(総務省)の繰出基準を基本に公費・私費の区分の明確化を図るとしています。

要するに、市は現行の政策判断に基づく基準外繰入を止めて市独自の公費負担を廃止するのです。

ここでは、市の考えを整理するのみにして、これ以上議論するつもりはありません。

次に、議決権に関する論点に入りますが、その前に現状を整理します。

平成22年から24年の3年間に亘り約1億円の費用で企業会計導入の為の資産調査やシステム構築は既に完了しており、企業会計システムを活用して、議案第154条までの下水道料金の値上げ条例が提案されています。

事実上、企業会計システムは既に稼働しているのです。

次に、現状を踏まえたうえで議決権の論点に入ります。

市は、経営改善や市民への説明責任の向上を図るために、企業会計方式を導入するといっています。

現行の公会計では3億円以上の「工事又は製造の請負契約等」の場合には、地方自治法第96条が適用され議会の議決が必要で議会の議決権が保障されています。

しかし、企業会計に移行すれば地方自治法第96条の不適用により議決権の行使ができなくなるのです。

市にとっては良いことでも、議員・議会にとっては議会の議決権がなくなるのです。

議決権がなくなることは、議会の監視・チェック機能が現行より縮減することに他なりません。

市は議員に情報提供をすると答弁していますが、情報提供とは議員のレターボックスに紙情報を入れることです。

土地開発公社の場合は報告案件として議場で質疑が可能ですが、下水道の場合は質疑もできないのです。

勿論、一般質問で契約案件を取り上げ議論することは可能ですが飽くまでも議論であり、議決権の行使をして契約を否決すること等は不可能です。

このような議決権の課題に対して、問われているのは議会の対応であり、市にとっては痛くも痒くもないことです。

ここで、代表質問でも触れましたが議決権に関する議論の参考として、H18年に全国市議会議長会からの諮問を受けた「都市行政問題研究会」による「分権時代における市議会のあり方に関する調査研究報告書〜市議会の現場から議会制度を見つめ直す〜」を紹介します。

その報告書のP12には「(4)地方公営企業にかかる契約に議会が関与できるようにすること」に関して

「地方公営企業については、予算の審議議決、又は決算の審査認定を通じて議会が関与する機会はある。

しかし、地方公営企業にかかる工事又は製造の請負契約の実態として、契約金額が極めて高額に及ぶ場合などがあるが、議会の個別議決が不要とされ、毎年度の予算の一括承認で足りるとするのは不適当ではないかと考えられる。

公営企業の自由かつ弾力的な経済活動を阻害することなく、極めて高額で重要な契約については議会の議決など議会が関与できるような方策を検討すべきである。」と記述されています。

地方公営企業導入の際には、無自覚であった論点に対する反省が込められているともいえますが、後の祭りです。

この報告書が指摘している議会関与の方策として、三重県議会の「議会の議決すべき事件以外の契約等の透明性を高めるための条例」があり、地方公営企業の業務に関する予定価格5億円以上の工事又は製造の請負の契約内容を、知事が議会の定例会に報告するものとしています。

議会の議決など議会が関与できるような方策は、@事前的対応として本条例を否決する方法A事後的対応としては、条例による報告案件化です。

まとめに入ります。

企業会計と議決権は現実的には両立可能です。

何故なら、既に資産調査・システム構築は完了していますから、システムを活用して、地方公営企業法の適用を避ければ、議決権の行使も可能で、企業会計の利用も可能になり、議決権と企業会計の両立が可能になるからです。

そして、相模原市議会ではこの間、下水道工事の請負契約や変更契約に関して、様々な議論をしてきた経過があります。

地方分権一括法が施行されて、地方の自己決定権と自己責任が拡大して、議会でも議決・監視機能の強化が従前にもまして重要であり、議会の議決権の拡大なら格別、議決権の縮小に直結することを見過ごすことはできません。

公営企業法の適用を避け、構築したシステムを利用して事実上企業会計を導入すれば、議決権の確保も可能であり企業会計とも両立可能であること、そしてこの方法こそが議会の議決など議会が関与できるような方策であることを再度表明して議案第149号に対する反対討論と致します。

尚、議案第149号が可決された場合には、契約案件をブラックボックス化しないために相模原市議会としても、議会の議決など議会が関与できるような方策の事後策として三重県のような「議会の議決すべき事件以外の契約等の透明性を高めるための条例」が必要なことを提言して、討論を閉じます。

ご静聴有難うございました。


資料1


1 法律の適用⇒地方財政法(公営企業)と地方公営企業法


2 会計形態⇒公会計(特別会計)と企業会計


3 議決権⇒地方財政法(○)と企業会計(×)


4 共通項その1=独立採算


5 共通項その2=繰入金


6 使用料について

従来の独立採算と企業会計の独立採算


7 繰入金について

従来の繰入金と企業会計の繰入金


資料2 議決権に対する無自覚⇒後の祭り!


分権時代における市議会のあり方に関する調査研究報告書

〜市議会の現場から議会制度を見つめ直す〜

都市行政問題研究会(H18全国市議会議長会)P12(抜粋)

(4)地方公営企業にかかる契約に議会が関与できるようにすること


このように地方公営企業については、予算の審議議決、又は決算の審査認定を通じて議会が関与する機会はある。しかし、地方公営企業にかかる工事又は製造の請負契約の実態として、契約金額が極めて高額に及ぶ場合などがあるが、議会の個別議決が不要とされ、毎年度の予算の一括承認で足りるとするのは不適当ではないかと考えられる。

公営企業の自由かつ弾力的な経済活動を阻害することなく、極めて高額で重要な契約については議会の議決など議会が関与できるような方策を検討すべきである。




資料3 


1 公共下水道の役割


@公共的役割=公共用水域の水質保全等


A私的役割=トイレの水洗化等


2 下水道の財政(建設費+維持管理費)


@建設財源=国庫補助金+地方債+受益者負担金+一般会計繰入金(※)


※一般会計繰入金=都市計画税+一般市税


A施設維持管理財源=下水道使用料+一般会計繰入金(※)


※一般会計繰入金=交付税+一般市税


3 経費負担


@下水道使用料対象経費=維持管理費+資本費(市債の元利償還金)


A基本的考え方=雨水(公費=繰入金)+汚水(私費=下水道使用料)


B公共的側面の存在⇒汚水にも公費負担の存在


4 公費負担(一般会計繰入金)


@雨水経費=全額公費負担


A汚水経費=私費負担+公費負担(基準内繰入+基準外繰入)


※基準内繰入=総務省の通達で公費負担としての繰入


※基準外繰入=自治体の政策的判断により公費負担としての繰入

相模原市議会議員 小林正明 Mail:masaaki@kuh.biglobe.ne.jp 相模原市緑区町屋4-16-9 TEL:042-782-5969