平成22年3月議会反対討論
相模原市議会議員 小 林 正 明
私は、議案第1号平成22年度一般会計予算に対して、反対の立場から討論を行います。
平成22年2月19日の朝刊には、「市税過去最大の減収、厳しい財政、危機感募る(朝日)」、「政令市移行経費膨らむ・
独自事業に足かせ・希望と誇り見えず(毎日)」、「財政健全化が課題に(神奈川)」等の見出しが躍っていました。
新聞各紙とも、相模原市の市税収入が「57億円」落ち込み、政令市移行の歳入不足の補てんに約82億円もの市債を発行し、財政調整基金を65億円も取り崩さざるを得ない事態に陥った相模原市の苦しい財政状況を一斉に、かつ、ほぼ同じ論調で、報道していました。
確かに、世界同時不況の影響等で市税収入が過去最大の落ち込みになったのは、全国の自治体共通の問題であり事実でありますが、相模原市にとっては、政令市移行による余分な経費が足かせになっており、私たちがこれまで政令市移行の議論の中で繰返し指摘した懸念が、現実の問題になり、将に深刻な事態の到来であります。
昨日、新生クラブの佐藤議員も「財政問題が厳しくなっている」と指摘され、現状認識の共有化が生じていることは歓迎すべきことであります。
更には、本日も新生クラブの山岸議員も、今後は、基金と市債発行による財政運営は、早晩不可能になることを前提に、自主財源確保の必要性を指摘されました。
しかし、自主財源確保は、「言うは易く、行うに難し」であります。
以下、具体的に政令市移行予算の問題点から順次論及していきますので、暫くのご清聴を宜しくお願い致します。
T 政令市関連予算
(1)歳入の過大見積もりについて
市当局は、市民説明会の財政見通しについて、県の平成18年度の予算を前提に推計したとは言っていますが、それにしても、県税交付金の57億円の見通しは、その後50億円に修正したものの、結局平成22年度では38億円と約30%以上も減少し、結果的には、過大見積もり、過小修正であったことは間違いありません。
(2)財政調整基金取崩中止と市債発行
@地方財政法と条例
平成20年秋開催の市民説明会で市長は、財政調整基金143億円(平成20年度末見込)の存在を前提に、県税交付金等(98億円)の不足を市債(53億円)と基金取崩(23億円)で補充すると説明していました。
ですから、市民説明会の方針に従って、政令市関連交付金の不足を基金取崩で補充するのが、市長説明に適った方向ですし、行政としても優先課題であることは明らかです。
しかし、市長は、市民説明会での基金取崩をかなぐり捨て、平成22年度の予算では、一般会計の歳入不足(市民税57億円減)の補充の為に、基金から65億円を取崩し、その結果、平成22年度末(平成22年3月31日)の基金見込額が、82億円になる事態となりました。
予算の提案説明では、市民説明会の内容に触れることなく、単に、一般会計で基金65億円を取り崩した事実の説明のみであり、その理由は明らかにしていません。
説明すべきは、政令市関連で基金を何故取り崩さなかったのかその理由であります。
私は、当時の議論でも指摘しましたが、その理由は、相模原市の基金条例と地方財政法の問題にあると考えています。
現在の経済情勢は、将に世界同時不況の影響などで市税収入が落ち込んだ状況ですから、そうであれば、一般会計の歳入不足を基金で補充することは、寧ろ、その時の為の基金であり、地方財政法上何ら問題はありません。
地方財政法の第4条の4(積立金の処分)には、積立金は、次の各号の1に掲げる場合に限り、これを処分することができるとあり、相模原市の条例にあるように、無制限・自由・恣意的に取崩すことはできません。
限定的に取崩可能な場合として、地方財政法は、@経済事情の著しい変動A災害経費、災害による減収B緊急・必要止むを得ない経費C長期の財産取得経費D繰上償還の財源のみであることを、具体的かつ制限的に列挙しております。
従って、市民説明会で、或いは議会で、政令市関連の歳入不足を基金で補充する旨の説明は、地方財政法上、「不可能を、恰も可能な如く」市民・議会に説明したことになるのであります。
平成22年度の予算で、市民説明会の通りに基金を取り崩していれば、住民監査請求が起こる事態になることを避けるために、一般会計で基金を取り崩したのが真相であります。
政令市移行の議論で指摘したとおり、相模原市の基金条例は、地方財政法を逸脱した条例であり、早急に是正されるべきものであります。
A退職金積立金を侵食
しかも、この基金残82億円には、相模原市は「神奈川県市町村職員退職手当組合」に加入していない為、自前で用意している職員の退職金が25億円も含まれており、それを除けば、実質取崩可能額は57億円となります。
その結果、平成20年9月28日市民説明会の財政収支見通しに従って、平成22年から平成24年まで、毎年23億円の基金を取り崩せば、平成22年度末の残高は、57億円−23億円=34億円、平成23年度末の残高は、34億円−23億円=11億円、平成24年度末の残高は、取崩可能な基金は11億円となります。
敢えて取り崩す為には、職員の退職金積立分を12億円流用しなければならなくなります。
それでは、平成22年から平成24年度迄3年間、毎年23億円を取り崩すとした市民説明会での市長の説明が破綻してしまします。
結局、一般会計に基金を使用して、市長説明の整合性の欠如の露呈を「糊塗」したに過ぎません。
(3)日赤償還金補助引受について
@根拠・合理性なき負担
平成22年度予算計上の日赤償還金補助金は、県債償還金実質330億円の代替策であり、県債償還金自体がそもそも、法的引受義務の根拠ない、合理性がない負担金で、合併特例政令市特有のものであり、県に対する協力金でしかないのであります。
A県民税の動向
政令市移行の議論していた当時、即ち、平成16年度から平成18年度に於ける県民税は、「125億円から150億円」でしたが、税制改正の結果、平成19年度からは毎年「300億円」、議論していた当時の2倍の県民税が、県に上納されております。
市は、税制改革の事実を把握しながら、何故か、県との政令市移行協議の際、県民税上納の事実を踏まえて交渉する努力をしなかった結果の負担増でもあります。
(4)政令市移行時期選択の誤り(国直轄事業関連)
相模原市の財政逼迫の原因として、国直轄事業負担金の影響である、圏央道負担金約200億円があります。
国直轄事業は、平成24年度から廃止されるものの、それまでは現状維持であり、廃止効果は遡及しません。
まさに、市長の政策判断と議会の判断が同時に問われるのではないでしょうか。
(5)合併特例債
懐かしき言の葉、其(そ)は合併特例債、忘却の彼方から、今鮮やかに蘇りまして、本年度予算の中に陸続と登場しております。
合併協議当時の平成16年から平成17年頃は、なんと言われていたでしょうか。
曰く、合併期限までに合併しなければ、特例債は使えないと殊更強調され、さあ急げと不安を煽って合併を急いだ人・急がせた人がいました。
ここに至るや、合併を急ぐ理由はなかったことが、図らずも証明されたのです。
(6)政令市効果なし
市当局の説明では、平成22年度における政令移行による裁量権拡大効果の具体例は、国道と県道が交差する交差点改良箇所が4箇所あるのみで、他は県の継続事業のみであり、見るべき効果がないのです。
それもそのはず、先立つものはお金(財源)であり、いかに裁量権の拡大を標榜しようと厳しい現実は、権限では変わらないのであります。
(7)財源論(財政計画)なき巨大開発(箱物)事業
実施計画の見送りとは
総合計画と同時スタートを理由に政令市移行を急いだにしては、その実施計画を先延ばしにする前代未聞の事態になりました。
その理由
市長局は、その理由として、@政権交代による動向A市税の根幹である市民税の減少を理由に挙げました。
政権交代による動向は、全国自治体共通の問題であり、極めて説得力に欠けるものであり、本当は、市税減少が最大の理由で財政見通しが立てられなくなり、敢えて現時点で財政推計をして実施計画を立てれば、その裏付けとなる財源を見出さなければならず、しかし、見出すことができない現実に直面して、その回避策としての実施計画の見送りではないでしょうか。
首都圏南西部の広域交流拠点都市を標榜して、政令市が実現したものの、財政推計もできず、財源の裏付けのない無残な「砂上の楼閣」に過ぎないことが、白日の下に晒されるなることを回避したと言われても止むを得ないのであります。
当面10年間の総事業費の推計
何故なら、個人質疑でも明らかになりましたが、今後の巨大開発として、リニア新幹線(2200億円)、BRT新交通システム(285億円)、小田急延伸(1300億円)、補給廠有償返還(300億円〜400億円)、圏央道(200億円)、広域道路(約500億円)で、少なくとも約5000億円もの事業費が予定されています。
しかし、現実は巨大プロジェクトの花火は、言葉で打ち上げることができても、火をつける財源がないのです。
しかも、今後の日本経済の景気の見通しは決して明るいものではなく、更に人口減少等によるマイナス要因が懸念される状況です。
U まとめ
まとめに入ります。
私は、誤解を恐れずに言えば、政令市とは、「箱物行政」であると考えています。
政令市は「コンクリートから人へ」ではなく、コンクリートから更なるコンクリートの街づくりであり、北原白秋風に言えば、この道はいつか来た道、バブル時代への蘇りであると考えています。
平成22年度の一般会計予算は、世界同時不況だけではなく、政令市移行が最大の原因で財政悪化を招いた予算であることが明々白々であります。
しかも、日赤の償還金負担は、法的根拠も合理性のない県への協力金であり、圏央道にかかる国直轄事業負担金は、政令市移行時期の政策判断の誤りによるものであり、避けられた負担であります。
このような問題のある予算を、私は容認することができません。
以上をもちまして、平成22年度の予算に対する反対討論といたします。