vol 88:願いを叶えます



「おぉ、弥勒よ。」

「お久しぶりです、お師匠様。」

俺は高野山で以前厄介になっていた寺の住職から手紙を貰い、
久々に高野の山に向かった。
寺は相変わらずの様子で、住職は皺が増えたか。

「お師匠、俺に頼みたい件っていうのは。」

「退魔の依頼でのぅ。
もう、そう言った依頼は引き受けてないと申したのだが、
先方が聞いてはくれんで。」

この寺は俺が辞めたと同時に退魔の仕事も辞めた。
住職には経を読む程度しか出来ないからだ。

「住職が押されるような内容なんですか。」

「娘が夜な夜な魘されて、
何やら怯えているようで、このままだと自殺でもしかねんそうだ。
生死に関わると、なんとも・・・。」

住職は眉尻下げて困った顔を俺に向ける。
俺もまた困った顔を向ける。
だが、この世を導く者として、
小さな命を見捨てるのは間違っている。

「解りました。」

「引き受けてくれるか?弥勒よ。」

「はい。これも御仏のお導き。
俺が責任持って引き受けます。」

「うむ。頼んだぞ。」

住職から依頼者の住所を聞いて、その家に向かう。
その間、俺についてくる一人の霊がいた。
男の老人だ。

「あんた、なんか用でもあるのか?。」

俺が老人に問うも返事をしない。
ただただ、後をついてくる。
嫌な気を纏っているわけでもなし、
好きにするといい。

普通の住宅街にあるマンションに辿りついた。
エントランスで依頼者の部屋番号を押してインターホンを鳴らす。
ここでマンションに入る承諾を貰わなければ、
中に進めないようだ。

「高野山の寺より参りました、弥勒と申します。」

「どうぞ、お入りください。」

返事が返ってくると、自動ドアが開いて、
俺はエレベーターに乗って依頼者の家に向かう。
老人はもう居ない。
家に辿り着くと母親が出迎えた。

「どうも、すみません。
中にどうぞ?。」

「お邪魔します。」

リビングに通されソファーに腰掛ける。
平日の昼間だ、父親の存在はなし。
湯気のたつお茶を出され座った母親に話を聞く。

「私は弥勒と申します。
今回の依頼の件ですが、娘さんが毎晩魘されると聞きました。」

初めて見た時から感じてはいたが、
母親の顔色が悪い。
この家自体からは何か感じるわけではないが、
リビングに入るまでの廊下にあった部屋のドアからは、
ムンムン寒気が感じとれた。

「えぇ。娘の愛が毎晩魘されて・・・。
時折、悲鳴を上げたり・・・何か怖がっているんです。
寝てる様子もなくて、布団にくるまっていて。
大学生なんですが、学校にも行けない状態でして。」

「廊下の部屋ですよね?娘さんの部屋。」

「ええ、はい。」

「娘さんに異変があった原因は御存じですか?。」

母親は俯いては、切なげに笑みを溢し、

「うちはね、父親がいないんです。
私は生計を維持させる為に夜勤もしてまして。
看護師なんです。
娘には小さい頃から寂しい思いをさせていて・・・、
心の病気かと始めは思っていました。
ですが、悲鳴に怯えた顔を見て・・・、
あぁ、ごめんなさい、とか、助けて、とか。」

「謝っているんですか?。」

「謝っているのかしら、
でも、必ずそう言って泣いて震えています。」

「それは一日中?。」

「いえ、決まって日が暮れてから始まります。
朝になると寝ているみたいですけど。」

「そうですか。
今日はここに泊まらせてください。
実際に起こっている時に判断します。
もう直に日が沈む。」

「はい、解りました。」

「貴女の顔色も優れないようですが、
何かあるんですか?。」

母親は俺に微笑んで、

「私は今回の娘の件で参ってしまって。」

自分のせいだと思っているのか。
俺は母親を安心させる為に微笑み返し、

「大丈夫、貴女は立派な母親ですよ。」

そう言葉を並べると母親は自分は酷い母親だと、
今までの人生の話しをしだした。
これは退魔となんの関係もないが、
話しを聞いてやるのもまた、人を救う事。

母親の話しを聞いている内に日も沈み夜に更けていく。
始まった。

「いやぁあああああ!。」

悲鳴に母親の話しも止まる。
俺は立ち上がり、

「貴女はここに居てください。」

そう言ってリビングを出て廊下を歩き部屋の前に立つと、
ドアノブに手を掛けてはゆっくりと回した。

そこで見た光景に俺は。




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