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対話式カウンセリングに
向いている人、いない人


カウンセリングに向いている人、いない人のことをお話します。くれぐれも、カウンセラーに向いている人、いない人のお話ではありません。もっと言えば、さまざまな心理カウンセリングのなかでも、お話することが主となる対話式のカウンセリングの適否についてのお話になります。

カウンセリングのリサーチをしていて、最近になって当り前のことが見えてきました。それは、カウンセラーに対して自分の胸の内を話すことによって心が落ち着いたり、混乱が平静に変化したり、涙を流しながら語るなど深い情動体験を経験できるクライエントは、心理カウンセリングから得る恩恵が多いだろうということです。

反対に対話式カウンセリングにあまり向いていないのは、悩みをカウンセラーに対して話すことによって、話す前よりも混乱してしまったり、不安や緊張感がさらに強くなってしまったり、心の整理がますますつかなくなってしまったりする相談者の方々です。これは、いまある精神状態がカウンセリングによって悪化してしまうことを意味しています。

私がここで言う悪化とは、一時的なものではありません。カウンセリングが深まってくると、たいていの相談者は苦しくなることが多いのですが、それはあくまで一時的なものです。そうではなくて、話すことで心がかき乱されるばかりであって、それが永続的なものであることを言いたいのです。

このような意味で、カウンセラーの側には、カウンセリングにあまり向いていない相談者を見分ける方法があります。こうです。一番最初にクライエントとカウンセラーが顔を合わせる初回面接(インテーク)の際に、開始前と終了後の二回、不安・緊張を測定する簡単な心理テストを行います。初めて来談する相談者の多くは、とても、とても緊張しています。それはマックスに近い状態だと思います。そこから一時間程度お話を聞いた後、マックスの不安・緊張がどこまで下がって平静を取り戻しているか、リラックスしているか、それを知るためにまた同じテストを行います。

もしも数値が逸脱した高得点から、リラックス状態を意味する正常値に下降しているのであれば、クライエントは悩みをカウンセラーに話すことによって落ち着いたことを意味しています。この場合、クライエントは不安・緊張の緩和という意味で対話式カウンセリングに向いている可能性が高まります。しかし、数値がほとんど変化せずに高いままであったり、逆に高くなってしまう場合には、クライエントは話をすることによって変化しない、あるいは悪化してしまう可能性が高まります。あまり向いていないということです。

ちょっと専門的な話になりますが、初回面接のときに緊張感がぐっと下がる相談者の場合、カウンセリングが終わる頃には、日常生活における不安・緊張感もぐっと下がっている可能性が強いです。来談したときになかなか変化しにくい特性不安が高い人が、終結時には正常値まで下がっている可能性が高いのです。

分かりにくくなったかもしれません。専門用語を使って説明します。来談時に特性不安の高い人でも、初回面接時の状態不安が逸脱値から正常値に下降する場合には、カウンセリング終了時には特性不安が正常化するということです。まだデータ数が少ないのですが、初回面接の状態不安変化群の約90%の方が、カウンセリング終結時の特性不安変化群に該当することが分かりました。これは、さらにデータを増やして検証していくつもりです。

相談者側の不安の変化に焦点を当てて、カウンセリングに向いているのか、いないのかについて述べました。しかし、この数値の変化には別の意味もあります。それは、クライエントにとって初回面接が安心感・安全感を与えるような場であったのかということです。クライエントだけでなく、カウンセラー側の要因もこの数値には反映されているはずです。このように考えると、いまの時点ではこういえます。カウンセラーとして、もし自分がこのクライエントとカウンセリング関係を構築するのであれば、クライエントは不安緊張感に関して言えば回復するであろうと。ですから、一般性のレベルではなくて、個別性のレベルではかなりの程度予測できるのではないかということです。

カウンセラーに向けた記事なのか、クライエントに向けた記事なのか、分からなくなってしまいました。最後にクライエントに向けてメッセージです。

もしもあなたがカウンセラーにお話をして、安心感よりも不安感のほうが強くなる場合には、カウンセリングはただ辛いだけでしょう。不安にもなるがそれ以上に安心感がある場合には、カウンセリングを続けたいという気持ちになるはずです。不安になるばかりで安心感が全くないのであれば、カウンセリングという援助手段は再考した方がよいと思います。自分自身と向き合うことは、必ず不安を伴います。カウンセリングの扉を叩くには、そうした意味での決意が大切なのかもしれません。あなたはいま、不安にもかかわらず自分と向き合う決意をしていますか。自分を振り返る内省指向のカウンセリングの場合、そうしたことも問われるのです。


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