vol 81:相談




俺がこの世界に来たのはカンが降りるって聞かなかったから。

「人間になるってどう言うこと!
人間になってどうしようって言うんだよ、天の子!。」

「アタシは人間を見捨てたりしたくないんや!
それに、人間を止めな生物達が人間の行いで死んでまう。
兄ちゃんがやったように、
アタシも人間界に降りる!。」

「駄目だよ・・・そんなの危ないよ・・・。」

「チビ神、ここで、のほほんと暮らしててええんか?
アタシはいらん。
危険であろうがなんであろうが、
黄泉の国の弥勒みたいに天界からも降りるべきや。」

「気持ちは変わらないんだね・・・。」

「・・・うん。」

「だったら、俺も降りる。
君を守る為に、愛しい君を守る為に俺も降りるよ。
君一人にさせない。
苦しむ時も一緒に過ごす。」

俺がこの世界に降りたのは、
愛していた人を守る為だった。
ただ、その理由しかなかったんだ。
人間や地球をどうとかは2の次だった。

「織田先生・・・?。」

「・・・。」

「せんせ?。」

職員室で自分の過去を思い出しながら職員の連絡事項の紙を広げていた。
やっと名を呼ばれている事に気付いて、

「え?、あ、何?。」

顔を向けると女子が一人立っている。
彼女は3年の俺の古文を受け持っているクラスの生徒だ。

「どうした、今井。」

笑みを向けて問い掛けたが、
今井は俯いて深刻そうな面持ちだった。

「先生・・・相談があるんです。」

今井は良く笑う友達も多い子だ。
1年の頃、俺は担任で女子の中で問題が起こっても、
今井は先頭だって問題に取り組んでくれる、
しっかりした印象を持っていた。
クラスの男女ともに仲が良かったように見えてた。

「あぁ。んー、じゃ資料室で聞こうか。」

今井を連れて資料室に向かい、
ドアを少し開けた状態で中で話を聞く。

「どうした?進路の事か?。」

俺は笑むが今井には笑みもなくハンカチを取り出して目元にあてる。
声は震え、

「学校がつらいんです・・・。」

「学校が?、何かあったの?。」

「・・・仲が良かった子に手紙貰って。」

今井はポケットからメモ帳を千切ったような紙を取り出して俺に渡した。
内容は、今井と差出人を入れて3人。
今井にもう一人の子に話しかけるな、
自分はその子と居たいから一緒に来るな、
ムカつく的な中傷的内容。
言葉の暴力的要素は低いものの、言われた本人にしたら、
傷つくには十分な内容だ。

「この事、担任には話した?。」

今井は首を横に振った。

「そう。・・・今井は自分でどう思うの。
こう思われても仕方ないなとか、自分には非はないとか。」

今井は涙を拭いながら暫く黙った後に、

「私も悪いところはあったかもって。
でも、こんなふうに思われてた事のショックの方が大きくて。」

人間は言葉で何よりも簡単に傷つく。

「じゃあさ、努力してみたらどうかな。
自分には非がないって言うなら別だけど、
もしかしたらって思うなら相手だけを責められない。
ただ、こうやって手紙を送りつけて、
自分の気持ちだけぶつける相手の子のやったことは、
良い事じゃないって先生は思う。
友達ならちゃんと口で言って自分の気持ちを解って・・・、。」

この時、自分がダブッた。
俺はカンにどうなんだろう。

「?。」

言葉を詰まらせた俺に今井は不思議そうな視線を向ける。

「大人でも難しいのに、無理かな。」

フッと笑んで話しを続け、

「一応、担任の先生には俺から伝えておくよ。
これがエスカレートしそうになる前に担任が止めれるかもしれないから。
いい?。」

今井は頷いた。

「3年ってさ、受験を迎える上でみんな精神的にも詰まってたり、
不安も抱えてたり他人じゃ見えないところも持ってると思うんだ。
だから今井も、この子に接してみて今井自身が辛かったら、
無理に付き合う必要もないと思う。
こればっかりは先生じゃなく今井の問題だから。
周りは助言やサポートしかしてやれない。
とりあえずは今井も自分を変える努力してみようよ。
他人を変えるには、まず、自分を変えないと。」

「はい。やってみます。」

今井は弱い笑みをこぼす。
話しも終わり俺は今井の担任に話をしに職員室へ戻った。
今井の担任は結構な年の先生だ。

「あの、先生。今よろしいでしょうか。」

「あぁ、織田先生。なんでしょう。」

「実は先生のクラスの今井から相談がありまして・・・、
僕は1年の時に担任だったので。」

そう理由を付け足して手紙の件、
今、今井が悩んでる事を話した。

「そうですか。いやー、わかりました。
目をかけておきます。」

年配のベテラン教師だ。
俺は普通に安心してたんだ。

家に帰ってカンにその話をした。
あれから、あまり他の話題をしてない。
俺も、多分カンも意識的に話題を避けてる。

「へー。その今井はしっかりした子やなぁ。
俺やったら本人に言いに行っとるで。」

「アハハ、カンだったら言うだけじゃ済まないだろ?。」

「まー、多少手は出てるかも。」

そう言えば、カンとあれから恋人らしき事は何もしていない。
夜も仕事だと言って俺が先に寝て、
夜中に起きて様子を見に行くとコタツで寝てたり。
嫌われたのかな・・・俺。

「大樹、。」

「ん?。」

コタツの中でカンが足を俺の足に触れてきた。

「あんま悩むなよ。
先先悩んでも余計に悩むだけやし。」

優しいカン。

「うん。そうだね。」

笑みを浮かべて足が触れた、ただそれだけのことでも、
嬉しかった。

夜、風呂を済ませてみるとリビングの灯りも消えていて、
部屋に行けばカンがベッドに寝てた。
俺の寝る分をちゃんとあけて。
そっと布団に入るとカンが自分の方に寝返って肩手を俺の胸に置いて、
・・・俺ってば。

「カン・・・寝てるの?。」

カンは目を閉じたまま小さく横に頭を振る。
暫く何もなかったせいか、
それとも、嫌われたと思ってたせいか、
嬉しさと欲求とが混じり合って、
カンを抱きしめて唇を重ねる。
そのまま、欲を吐きだすかのように、
自分の愛情を相手に解らせるかのように、
激しく抱いた。

何度も愛してると言葉を放つ。
カンも好きだと言葉を放つ。
カンの好きは愛してるの意味。
愛してるは恥ずかし過ぎてどうしても言えないらしいんだ。
カンはやっぱり俺の恋人で、
俺がここ一番に悩み、苦しんでいる時は、
一番俺が安心する方法は知っていて、
尚且つ、察知してくれる。
優しく、可愛い俺の恋人。
男や女はどうだっていい。
俺はカンという生き物を尊敬し、愛しているんだから。







「今井の叔父の今井 幹言いますけど、
担任出せやコラ・・・。」

「か、かかかっカン?。」

放課後に職員室に今井とカンが現れたのは数日後の事だった。

何故か、今井の叔父だと言って完全にキレた顔をしてる。

はいぃ?。

俺はあまりの出来事に顔を青褪めた。




               81       次のページ



80話に戻る
戻る

花手毬